◆ひとりで生きるより、助け合うほうがずっといい

ところで、ここでもうひとつの疑問がわく方もいらっしゃることと思います。

そもそも
「食物繊維を分解する能力」や「短鎖脂肪酸を作る能力」を人類自身が獲得することはで きなかったのか、という疑問です。

そうすれば、腸内細菌の助けなど借りなくても、人間 は人間だけで生きていけます。

コアラにしても、シロアリにしても、自分たちの遺伝子のなかにユーカリを消化する能力や、木を消化する能力を組み込んでしまえば、わざわざ細菌と共生しなくてもよかったはずです。

しかし、地球上のありとあらゆる動物は、単独で生きるようには進化せず、腸内細菌と
「共進化」しています。

それはつまり、共進化したほうが、ひとつの種が単独で進化するより有利だという証拠でもあります。

取材班が共進化について議論している時、大先輩にあたる元ディレクターが現れて、こんな話をしてくれました。

 彼が以前、進化に関する番組を制作した際、

専門家が
「遺伝子を保持するのはコストが かかる。進化とは遺伝子を捨てていく作業だ」
と言ったそうです。

進化と言えば  “ 遺伝子を獲得する” ことだと思うのが普通ですが、“ 遺伝子を捨てる” とはどういうことでしょうか。

たとえば、
ビタミンCは私たちが生きていくために必須な栄養素ですが、

人間は自分の体内でビタミンを合成することができません。

しかし、動物の多くはビタミンCを体内で合成できます。

おそらく人類の祖先も、ビタミンCを体内で合成できただろうと考えられています。

人類は進化の過程で、その能力を捨ててしまったのです。

 人類は非常に長い間、ビタミンCが豊富な野菜や果物がたくさんある環境で進化していて、体内ではビタミンCがあり余っていました。

そんな状況で、ビタミンC合成遺伝子を持っていても、ビタミンC合成に余計なエネルギーを使ってしまうだけで、かえって損をします。

だから人類は、この遺伝子を捨ててしまったというのです。

つまり、

余計な遺伝子を持っているのはコストがかかるので、

ビタミンCの合成は野菜や果物などの植物の遺伝子に任せ、自分の遺伝子として持つのをやめてしまったわけです。

このように、
生物は生きていくために必要な機能を、すべて自分の遺伝子として持つのではなく、

他の生物に任せられるときは、任せてしまいます。


※「腸内フローラ10の真実」より抜粋
P193~P195