軽い気持ちで始めた仕事だったが、1年、また1年と過ぎて行くうちにさゆりはこの仕事が好きになって行く自分を感じていた。


年に何回かあるキャンペーンでは、県内のどの店舗より売り上げを伸ばす目的に店の社員、パート、アルバイトの高校生、大学生と力を合わせて販促活動をした。

数字が伸び、その商品が県内だけでなく、全国レベルの順位に入った時は立場は違えども従業員一同で喜び店内に活気が湧いた。


テーブル席15も満たない小さな店内であったが、キャンペーン毎の店内の飾り付けもさゆりは任されるようになった。

もともと、家や、お店のインテリアには興味のあったさゆりだったので、それは仕事の内というより、さゆり自身が楽しんで自分の趣味を発揮できる場でもあった。


殺風景な天井近くの棚には、さゆりが家で増やした観葉植物を並べ、各テーブルにはガラスの小さな花器に売っている花ではなく、野山に咲いているような自然の小花を挿した。


夏のアジアン的な商品の販売時には店の天井によしずをこげ茶に着色した物を並べ飾ったり、アジアン的な布地で店内を装飾したりした。

さゆりには楽しいやりがいのある仕事であった。


店のスタッフ達もファストフードと言う職種であったため、バイトに働きに来る子も高校生、大学生が大半であり、年齢も違う彼らであったが、仕事を通じて親しくもなった。

時々は親にも言えない相談をされる事もあったが、さゆり自身はひとつの事を一生懸命やってしまうと、他の事がおろそかになり他人のアルバイトさんたちの話を聞いてあげれる割には、さゆり自身の子どもたちの話しを聞いてあげられず、駄目な親であったかもしれない。

なぜか、我が子は大丈夫みたいな根拠の無い自信がさゆりにはあった。


のちにはその根拠のない自信は根底から崩れさるのだが…


パート勤務が5年になろうとする頃、さゆりはもっと仕事をしたいと思うようになった。


「思いっきり仕事したいのです。」さゆりの要望は店のオーナーにすぐに許可され、さゆりはパートから社員になった。

「主婦が働きにでると、家のことはおろそかになるし、たいした稼ぎでもないのにデカい顔をする」

と、今の世の中なら全国の女性達に総スカンをされそうな発言であったさゆりの夫も、さゆりが仕事も家事も頑張っている姿に今さら反対もしなかったし、その頃には同居した母親と妻の関係もギクシャクしているのを知っていながら、夫自身はそんな家を避けていた感もあったので、さゆりに文句なんか言えなかったのである。