最初はそんなに仕事にのめり込むつもりもなく、その時間だけ働き小遣い程度稼げれば良いと思っていた。
仕事をしていく上でさゆりはパートなんだし、それで良いと思っていた。
だからそれ以上を求められても正直困ると思っていた。
夫は最初からさゆりが働きに出たら、家の事などが疎かになると決めつけていたし、何より女房に私も働いているんだから…と言われたく無い人だった。
だから意地でもさゆりは家事の手抜きをしてるなんて言われたく無かったし、いつもいつも気持ちを張っていたような気がする。
今から思えば、つまらない意地であった。
でもその分私の稼ぎはそのまま貯蓄となって今のさゆりの生活を支えている。
夫はあくまで、自分が妻子を養っていると自負をしていた。今の世の中にはない古い考えにプライドを持っていたのである。
それでも仕事を始めるとやはり理不尽な事もあり、さゆりは今まで家庭という安心な場所でいかに守られていたかを実感した。
年下のパートの先輩に陰口を言われ落ち込んだり、同じパートなのに好きな仕事しかしない人達を放置する当時の責任者にも呆れ果てていた。
パート同士の諍いに巻き込まれ、もうやってられない!と思った時も、まわりの人が先に辞めてしまい決断出来ないさゆりはいつも取り残されてしまっていた。
実はそれが功を奏したのか、年々仕事を覚えて、ただ真面目に自分の役割を消化していただけのさゆりだったけれど、段々と仕事の面白さ、やりがいを見つけて行くのであった。
「美味しいものを食べるとひとは笑顔になるよね、」創業者の言葉であった。
ただ安くて早く出来るものを追求するのではなく、
時間がかかっても、一枚一枚丁寧に洗った野菜、涙目になりながら刻んだ玉ねぎ、その仕込みを手作業でして、商品を注文受けてから作って行く。
どこか、非生産的な作業のひとつひとつに、人の口、身体に入る物を丁寧に作っていると自覚を持ちながら働く事にさゆりは仕事に対してのやりがいを感じて行くのであった。