清水駅前に9時の約束だった。
久しぶりに会う約束をして後は時間を決めるだけだったから、子どもたちを主人に預ける算段がついた後、彼女に電話をした。
実家暮らしで独身の彼女は、知り合った高校生時代から時間にルーズなところがあり、不在の彼女に代わって彼女の母親に伝言をお願いした時も一抹の不安があった。
高校の仲が良かった仲間たちの中で進学をしなかったのは私だけであった。
卒業後就職をして夫となる人に出会い二十歳で結婚、22歳で長女を産んだ時もまわりの友達はまだ大学生であった。
時は歌手の山口百恵が結婚、引退をして郷土出身のピンクレディーが活躍していた頃の話である。
大学を卒業した友人達がそれぞれ就職をしてその約束の彼女も社会人となった今、まさか未だに時間にルーズだと思わなかった私だが、それも甘い考えだった。
最初の30分はまぁ、想定内、
次の30分は、どうしたんだろう…
そして次の30分は腹が立ってきた。
幼い子どもたちを夫に預けて半日家を開けるなんて結婚以来なかった事でわたしにとっては大切な自由な時間であった。
今の時代なら約束の時間もメールやラインで済む。突発な出来事があっても例えば寝坊とか…すぐに連絡がつき今どこそこだよ〜と、実況中継が伝えられるわけである。遅刻は良くないけれど待つ方も待たせる方もストレスは軽減されていると思う。
彼女は、結局2時間近く遅れて待ち合わせの清水駅に現れた。
普段から時間にルーズな彼女にその母親が一時間早く時間を伝える前科があり、今回もまたどうせ母親が一時間早く言っているんだろうぐらいの気持ちだったらしい。
それだったとしたら、一時間の遅刻だろうに…
会った早々私は彼女にもう帰るからと言い、時間にルーズな人間とはもう付き合えないからと、怒りを露わにした。
流石に彼女も私の剣幕にこれはまずいと思ったのか、平身低頭謝り倒して来た。
プライドも持っていない人間は約束もちゃんと守れないが、簡単に謝り倒す事も出来るわけで…
そんなに謝れるなら普段から時間を守るとか、ちゃんと自覚しなさいよ!と、腹立ちの治まらない私だったが、以来彼女はそれほどのひどい遅刻をしなくなったのである。
携帯電話の無い時代の話しである。
今の時代なら考えられない出来事だろう。
携帯電話は今、私達にとって無くてはならない大切な物である。
私が先日、その大切な携帯電話を洗濯してしまった後の恐怖とパニックは誰もがわかってもらえるだろう。
どれだけの情報がこの小さな機器に入っいるのか恐れも感じるこの頃ではあるけれど、もう生活の一部になってしまっている。
この便利だけど金遣いの荒い相棒に愛想をつかし、別れを切り出せる時がくるのだろうか…
だめな奴とは、なかなか縁のきれないだらし無い私である。
…あれ?何の話しだったのだろう…
さて、だけど本当に利便性だけで良かったのかな…
もっと大事な物も昔はあった気がする。
まぁ、同性の友達に2時間近く待たされるのはそりゃあ血圧上がるぐらい頭に来る事ですが…
例えば彼と(彼女と)デートの待ち合わせのドキドキ感って、今の人達にあるのかな…?
どこそこに、何時に、その約束を頼りに支度をして出かける。
私は待つのはそれほど苦ではないけれど、何かの事情で相手を待たせてしまう方に苦に感じてしまう。だからいつも待ち合わせの時間より早く到着する。
そして相手が来るまでの時間をワクワクしながら待つのが好きだった。
今の何でも携帯電話に頼る生活、便利なんだけど昔のワクワク、キュンキュンが失われてしまったと思うのは私だけなんだろうか…