Michilog ver.2 -352ページ目

風が強く吹いている



久しぶりに、心を揺さぶられる本を読みました。

よく「何度でも読み返したくなる」という表現をするけど
これは私にとっては まさにそういう本です。

それくらい 心に残った本なので
ぜひ皆さんにおすすめしたい一冊なのですが
もう・・なんというか・・言葉にできない。
「感動した」という言葉でも足りないくらいなのです。

この物語が発するメッセージが
読みながら 自分にしみ込んでくる感覚。
それが本当に気持ち良くて
物語終盤では「いつまでも読み終わりたくない!」と
願わずにはいられませんでした。



これ、なんの小説かというと
ほかでもない 「箱根駅伝」 に挑む学生の青春を書いた小説です。
何カ月か前に映画も公開されて、以前は舞台化もされた原作。

※上記タイトル部分のリンクから新潮社のサイトにいけば
書評にて 大まかなストーリーがわかります。


もちろん私がこれを読んだのは 「箱根駅伝」 が舞台だからです。

だけど 「箱根ファン」に留まらず 人の心に残るメッセージがある。

直球すぎるほどの青春ドラマではあるけど
主題がしっかりしているので 
読み終えた後に「感動」以上のものが残る、そんな作品です。



走ることにおいて「速さ」ではなく「強さ」を追い求める。
「強さ」はつまり「自分を信じ 仲間を信じること」。
彼らなりの「箱根の頂点」を目指す姿には
本当に共感する部分がある。

強豪校における選手管理主義の考え方に対する
ハイジ独自のマネジメントの在り方も魅力がある。

そして、10人で襷をつなぐ「駅伝」という競技の
「孤独」と「連帯」という相反する要素を本当に見事に描いている。

これらのテーマが、単なる「青春ドラマ」で終わらない
この小説の強いメッセージになっています。



そして、小説として非常に面白みがあったのは
後半の箱根駅伝本番のシーン。

緻密な 駅伝コースの描写やレースそのものの行方は
言うまでもなく大きな見どころ。

(特にこないだ大手町にも行ってきたので
そのときに自分が歩いた記憶と、
いつもテレビ中継で見ている風景の記憶が
見事によみがえってくるかんじでした)


で、それはもちろんそうなのですが、面白いのは
10人のメンバーたちが各区間を力走しながら描かれる
それぞれの背景。
家族環境だったり、性格だったり、将来だったり。
物語の前半から通して描かれる10人のキャラクターが
大手町のゴールに向かうまでの道のりのなかで
互いに共鳴して結びついていく。


20キロを走りぬくという極限の状況のなかで

それぞれが求め、気づく、「強さ」。

走るということは、とても孤独な行為でもあるけれど
だからこそ「強さ」が必要で
本当の「強さ」は「人を信じて恃む(たのむ)こと」、
そして「自分自身と向き合うこと」だと
気づいていく過程に大きな感銘を受けました。



ハイジと走が出会うプロローグから

箱根駅伝を目指す本編、そして

10人のメンバーと駅伝部のその後を想起させるエピローグまで

完璧 といえるほどのストーリーでした。

「本質」に触れるとき、やっぱり人は感動するんだな。
それが自分のなかに すっと入ってくる感覚が忘れられません。



作者は、この小説の執筆に6年あまりかけたらしい。
構想をつくることもそうだけど、なによりも「箱根駅伝」という 
大学陸上長距離界の最高峰の舞台(あくまで関東の大会ではあるが)を
リアリズムをもって描くために 相当な取材期間をとっている。

箱根駅伝を目指す人・経験した人・応援する人、
それぞれの立場から見ても非常に繊細に描かれていると思います。
※実際に、箱根ランナーからの読者レビューでも描写を絶賛。

確かにこの小説に対して「ファンタジーだ」という批判もでています。
陸上素人を含めた たった10人が 1年未満の練習で
箱根駅伝本戦に出場するなんて おとぎ話だ という批判。

まぁその点に関しては、非常にきわどい設定であることは事実だけど
私は 決して「夢物語」ではないと思う。

実際に、10人程度で甲子園出場を果たした高校野球チームだってあるし。
長距離走は、短距離走やその他のスポーツに比べて
持って生まれた「素質」を個人の「努力」で大いにカバーできる競技だし。

この小説の中の10人は、(なかには完全な「運痴」もいるけど)
元陸上部・元サッカー部だったり、黒人留学生がいたり、
山奥の学校に毎日通学してたやつがいたりと
それなりの根拠がないわけでもない。

そして、この主人公のハイジのように
メンバーの力を最大限に引き出すことができる指導者がいるとすれば
これは決して 「夢物語」ではない。
ハイジの言うとおり「箱根の山は蜃気楼じゃない」と思うのです。


「走ること」=「生きること」 という大きなテーマを
描ききったこの長編小説は 私の中で間違いなく傑作です。