翔side
「ありがとうございました!」
「お疲れ様でした!ご馳走様です。」
俺と松本。
口々に目の前の相手にお礼の言葉を繰り返す。
業界のお偉いさんとの会食に真面目な話、かしこまった場所に呼び出されるのは決まって俺に話が来ることが多い。
が…、
「松本くんも一緒にどうかな?」
それと同時に松本にもご指名がかかることも少なくはない。
「いやぁ、今日は素晴らしい話が沢山聞けて大満足だ。
さすが松本くんだ。コンサートの話、とっても楽しかったよ。」
「いえ、こちらこそ。
僕もお誘い頂けて嬉しかったです。」
「そう?じゃあ、また声掛けるよ。
そしたら今日よりももっと深く話ができるよう時間作るからさ。」
「はい!ぜひ!」
隣でにこやかに笑う松本はアルコールも入っているからか、相手の誘い文句に素直に答える。
そりゃあもちろん無愛想よりは断然いいんだろうけど…。
「ね…、実は近くに知り合いのやってるバーがあるんだ。
君もまだ飲み足りないだろ?
いい酒あるんだよ、少しだけどう?」
はぁ??
何言ってんだこいつ。
仮にも売り出し中のアイドルを堂々と誘うとか。
ありえん。ありえねぇ。
「……え、あ……、は、はい…。え、と…」
答えに詰まる松本。
チラリと俺の方を見たのは気のせいか。
おい。そこ悩むとこ?
いくらなんでもこの時間から飲み直しはねぇぞ。
お偉いさんだからって腰に回されたその手、早く振り払えよ。
わかるだろ?そいつの目的くらい。
「櫻井くんは明日も朝からドラマ撮影だから無理しなくていいよ。
お疲れ様。またね。」
「…いや、あのですね。」
ついでにお断りみたいに言うな。
つーか、俺には言ってねーし、誘われたって行かねーし。
てか、早く…
「行こう、松本くん…。」
「…あ、」
よろめく足取りは危険信号。
酔いが回っているサイン。
このまま行かせたら確実に…
喰われる。
早く、早く。
早く、なんで…
「し、しょおくんっ!」
「あの!すみません!
松本、極度の緊張しいで。
どうやら今になって緊張感から酔いが来ちゃったみたいなんです!
な?松本、大丈夫か?」
あながち間違いでもなさそう。
瞳を潤ませ、困り顔の表情は今にも泣きそうになって口元に手を当てている。
「本当だ…。大丈夫なのか?送ろうか?」
送るだと?
いい加減諦めろ。
その肩に置いた手を離せ。
「すみません…。大丈夫です…。」
「ご迷惑をお掛けしてすみません。
同じメンバーとして責任持って僕が送り届けますので。
今日の所は失礼します。
こちらのタクシー、使わせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ…」
有無を言わせず素早く松本の腕を引き、その身を奪い返すと深く頭を下げて横付けのタクシーに乗り込んだ。
「ふぅ…、、」
難を逃れて深呼吸をひとつ。
「…ごめんね、翔くん。迷惑かけて…」
「下ばっか見てんなよ。酔うぞ。」
俯く松本の顔を強引に持ち上げる。
「泣くなよ…。」
「………こわかった。
動けなくて、頭回んなくて、断れなくて、怖くなって……」
「そうだろうよ。」
「翔くんがいなかったら、俺、今ごろ…」
「んな訳ねーから。」
「え?」
不意にこちらを見つめる松本のまんまるな大きな黒目に俺が映る。
「俺の近くにはいつもお前がいただろ。
これまでもお前が困った時には俺に相談しにきただろ。
近くにいない時だってウザイくらいに連絡してきただろ。
歯が痛いって泣いた時だって俺に頼ってきただろ。
俺は歯医者じゃねーんだよ。」
「……ごめ…ん…」
「ちげーよ。」
「…?」
わかりやすくはてなマーク浮かばすんじゃねぇって。
まぁな、言わなきゃわかんないよな。
だって、お前、天然だもん。
「どんなときだって、お前には俺が必要なんだよ。」
「しょおくん…」
そんでもって、守ってやりたくなるくらい無垢な天使だもん。
だから、そーゆー顔すんな。
そんくらい可愛いって思っちゃうだろ。
「これからも俺がそばにいて守ってやっから。」
「ありがとう、しょおくん…。」
心地よく揺れるタクシーの後部座席。
少しの涙と安堵から松本は眠りについてしまった。
絡ませた指先から、松本の熱を感じ、
俺は…
「ずっと離さない…。」
そっと呟いた。
おわり
【別アカより再掲載】