翔side



幕が完全に下りた所で松本くんの肩を抱きながら、そのままステージの裏に移動していく。
放心状態の松本くんは少しでも離してしまうとよろけてしまうほどに足元がふらついていた。

それは本番を無事に終えられたことへの安堵感からか、それとも予定にはなかったのに本当にしてしまったキスが原因か…。


「松本くん!めちゃくちゃ綺麗だった〜!」
「最後のキスシーン…萌えたよ〜。
本当にしてるかと思っちゃったー!」

「え…!?」

みんなにはフリだけだとバレていなかったのにキスシーンの核心をつかれ、松本くんは未だ動揺しているせいか反応を隠せずにいた。
そして思い出したかのように再び顔を赤く染めていく。

そんな顔をみんなの前でしたら本当にしたってバレちゃうよ?

 
「みんな、一先ずお疲れ様。
松本くん、慣れない格好だしすごく疲れたと思うんだ。
早く衣装を脱いで着替えさせてあげたいんだけど…」

「あ、じゃあ、記念撮影だけ1枚!いい?」

「…うん、いいよ。
せっかく作ってくれた衣装、僕にはもったいないくらい素敵だったよ。」

「嬉しー、松本くん!
ほらほら、櫻井くんと並んで!」

「…さ、櫻井くんと?」


ハッと俺を見つめる松本くんの顔がまた可愛らしくて…俺はまた調子に乗ってしまう。

「せっかくだからお姫様抱っこでもする?」

「ひぇっ!?」

「いい!すごくいい!」

スマホを構える彼女はノリノリだけど、不意打ちに持ち上げられた松本くんは重いよ!と自身の体重を不安に思ってか降りたがる。
全然軽いのにね。

「ちゃんと掴まってないと落ちるよ?」

「でも…」

白雪姫のままで恥ずかしがる松本くんは可憐だ。
女の子の格好をしているからという訳ではなく、松本くん本人から醸し出される雰囲気、空気感が本当に綺麗なんだ。


「撮るよ〜。」

「ほら、遠慮しないで。
肩に掴まって!」

「んー…」

「いいから!」

えいっ!と観念したかのように松本くんは俺の肩に腕を回した。


「めっちゃいい〜!」

「あとで俺にも送って、記念に。」

「もちろん!
あ、それじゃ松本くん、さっきの部屋で衣装着替える?」

「…うん…、あ、、櫻井くん!
あ、あの…!あの……、」

君の言いたいことはわかる。

さっきのキスのことだよね。


「また後で…、ゆっくり話すよ。
ちゃんと、全部。」

「……櫻井くん」

「今は少し休んでおいで。
俺もこのあとは係の仕事があって行かなくちゃならないし。
終わってから夕方、教室で。」

「…うん。また…あとで。」

「松本くん、行ける?」

衣装は一人で脱げないからと衣装担当の子と松本くんは別の部屋に入っていった。





「俺も着替えなきゃだな…。」


王子様のキスで見事に目覚めた白雪姫。

松本くんの驚いた顔。
そりゃ驚かないわけないか…。


想像以上に柔らかかった松本くんの唇に俺自身も驚いていた。
仕掛けたのは俺だから、俺が慌てるわけにはいかないけど。
それでも…彼との初キスは一生忘れることはないだろう。

みんなの前でしちゃったしな…。






劇の開演直前…

松本くんが部屋に閉じ込められ、俺に助けを求めてきた。
中で泣きじゃくる松本くんを早く助けたくて岡田にも協力してもらって、なんとか事なきを得た。
松本くんの姿をその目に見つけた時にはもう彼を抱きしめていたし、無条件に俺を求めて抱きついてきた彼が何よりも愛おしくて、俺はもうその場でキスをしてしまいたいほどの気持ちになった。

ブレーキを掛けたのは岡田の声。
俺達にはまだするべき事があって、今ここで想いを告げるわけにはいかない。
終わったら…
全部が終われば正々堂々と告白できる。


俺は耐えた。

その時は。


だけど…
白雪姫となった松本くんの姿を見た時、さすがにヤバくて。
ザワつく客席の声も盛り上がってる男達の声もなんだか面白くない。
彼に注目が集まれば話題性は抜群だし、クラスの加点ポイントにも繋がるのに、そんなことどうでもいいと思っていた。
松本くんに釘付けになっていたのは俺も同じ、ここにいる奴らと同じということがもっと俺の独占欲に火をつけた。


静かに目を閉じ、横たわる松本くんを見た時…

あの日のことが蘇ってきた。


『目、閉じて?』

素直に閉じられた瞳と赤く柔らかそうな唇。
少しだけ、ほんの少しだけ触れた唇…。
あの日の記憶は鮮明だった。



二度の未遂と三度目の正直。

俺、もう待てない。
松本くんの答えなんて待っていられない。
松本くんとキスがしたい…。

引き寄せられるように俺は彼にキスをした。



「松本くんが好き…。」

ずっと胸に秘めてきたこの想いを君に伝えよう。