潤side



櫻井さんが僕を愛してくれているのはわかってる。
じゃなきゃこうして一緒にいるはずがない。
でもそれは今現在のこと。
出会ったその日から一緒に暮らしていて、仕事もプライベートもなく顔を合わせて、いつも櫻井さんに誘われるがままベッドイン。 

ずっとそのパターン。
いつかマンネリ化して飽きられちゃうんじゃないかと密かに不安に感じていた。
女の子みたいに柔らかくないし、胸もない。
欲情させる武器もなければ色仕掛けもできない。
初めからわかってることなのにこう現場で女優さんを目の前にすると自分との違いに悲しくなる時がある。

僕は櫻井さんが僕に対してあの完璧すぎる顔を崩したことがないから。
笑うとか不機嫌になったりとかはあるけど、そうじゃなくて、こう…顔を赤くして照れたり、恥ずかしがったり、櫻井さんのいつもと違う顔も見てみたい。
そして僕をもっと好きになって…
って、そんなのよくばり?
ワガママなのかなぁ…。

もっと可愛かったら…
もっと綺麗だったら…
もっと自分に自信を持ちたい。
自分を好きになりたい。
櫻井さんがもっともっとほしいよ。





「潤くーん!」

「あ、おはようございます!キョウコさん。」

「どう?何か盗めそうなシーンあった?」

「全然ですっ!
だってこのお姉さん彼氏作る気ないんですよ?
そんな仕草のシーン、全くないんじゃ参考になるものなんて見つかりませんよ。」

「おっかしいなぁ…。
ほら、あのニノくんと絡む場面あったじゃない。
私の後輩だけどグイグイ迫るワンコっぽいとことか…。」

「それはニノの仕掛け方じゃないですか。
ニノがキョウコさんを落としにくるテクニックじゃなくて、キョウコさんがニノに迫るシーンの方が知りたいんです!」

「私のなんて参考になるかなぁ…。」

「参考になるように教えてくださいよ…。」

撮影が始まると僕と姉役のキョウコさんとの距離は劇的に縮まった。
初対面でガチガチに緊張していたのが嘘のように打ち解けて、お願いしたように色々と男受けする女子の色気というものを学ぶつもりが、、
彼氏なしの姉のシーンではまだそういったシチュエーションがない。


「ニノくんもなかなかやるわね。
あのつぶらな瞳で『好きです…』なーんて言われた日には役通り越して惚れちゃいそう。 
普通の女子ならね。
私には通用しないけど。」

わかったこと。
キョウコさんはリアルにも彼氏はいないっぽい。
全然男っ気を感じないんだ。
むしろキョウコさんが男っぽい。
それともうまく隠してる?
いるよね、生活感とかまるでない人。

「ニノの演技にならとうの昔から惚れ込んでいます。
だいたいニノとは同居してたから大体わか……、あ…」

「え!一緒に暮らしてるの!?」

「いえ、違います!言い間違え!
えーと…、同じ事務所だから寮みたいな感じで…。
そういう同居です…。」

「へぇ、じゃあニノくんのあざとさは把握済みか。」

「あざとい…?ニノが?」

そんな風に僕にしたことあったっけ?


「あれは男にモテるタイプね。」

「もう…キョウコさんはすぐそっちに行きたがるんですね。」

あともう一つわかったこと。
キョウコさんはどうやら腐女子というやつかもしれない。
今回のドラマは普通に男女のオフィスラブなのにやたらと僕の役の方の男子大学生同士を見ては、あの子とこの子が相性よさそうとか、その子はあの子が気になってない?とか、よく僕に探りを入れてくる。 
自分が櫻井さんを好きでも人のことはよくわからないんだよ…。
てか、なんで僕に聞いてくるの?
なにかバレてんの?


「ねぇ、次のシーンでさ、潤くんから友達に後ろから抱きついて肩を回すシーンあるでしょ?
あそこでニノくんのあざと仕草やってみなよ。」

「簡単に言わないでくださいよ!
そのシーンはそんな場面じゃ…あれ?」

いつも一人で読書ばかりしている絵に書いたようなメガネっ子な陰キャ。
その子をサークルにどう勧誘するか…。
打ち解けるためにとびきりの笑顔を向けて、最接近する〜!??

「なんだよ、こんな…」

「肩を回した拍子に眼鏡が落ちて割れてしまう。
よく見えない彼にキスをするくらい至近距離に近づく。
そして、そこからの悩殺スマ〜イル。
潤くんの顔、そんなドアップで拝めるなんて、相手の子役得ねぇ。」

「何を楽しんでるんですか…。
あくまでお芝居なんですよ。」

「でもヘタにあざとさ出して惚れられちゃったら困るわね。
彼、あなたよりも新人よ。
経験がないと耐えられる気がしないわ。」

「や、やめてくださいよ…。
やる前からこっちが緊張する…。」

でも相手が男だろうが役者としてここは本気でいかないとならない。
相手が櫻井さんだと思えばいいんだ。
初めて演技した時、ニノを櫻井さんだと思って好きだという表現をした。

サークルに勧誘するってことはある意味誘うのと同じこと。
女の子みたいに可愛く、おねだりするように、あざとい笑顔で、櫻井さんを誘うように…。




「カーーット!」

監督の大きな声が響く。

僕の目の前の彼の顔が真っ赤に染まってる。
と、いうことは…、これってNG!?


「松本くーん…。」

「す、すみません!」

やりすぎちゃったみたいだ…。

「君ってなんちゅう顔すんの。
相手の子、本気で照れてるじゃん。」

「すみません…。」

「リアリティあっていいね!
これ、使おう!」

「…え?」

「次もこの調子で翻弄しちゃって。」

「は…、はい。」

やりすぎでもなかったのかな?
まぁ、OKが出たのならいいんだよね…。


「ま、松本さん、ごめんなさい!」

「いえ…、こちらこそ…」

謝られると複雑。
試したのはこっちだし…。
試したというかお芝居は本気だけど、どこまでできるかやってみたかったのも否定できない。

「その…あなたの笑顔があまりにも、失礼ながら可愛らしいなって…、
すごく素敵な笑顔されるんですね。
ぼく、顔、熱いです…。
NGになるとこでした。
すみません、僕が照れたばかりに。」

「あ…ありがとう…。
それは、大丈夫…。
次のシーンもよろしくお願いします。」

年下の子に可愛いと言われてしまった…。
それも複雑だ…。




「ちょっと!潤くん!」

僕のシーンを見ていたニノに腕を引っ張られて、セットの影に連れていかれる。

「あれマズイんじゃない?」

「なにが?」

「潤くんの演技が神がかってるのは知ってる。
大丈夫?オレん時みたいに記憶飛んだりしてないよね?」

「なにが?」

ニノが何を心配しているのかがわからずに同じことを繰り返す。

記憶?
あるけど…、確かに櫻井さんを想像しちゃうとそこに入り込んじゃって、その時はあまりわかっているような、よくわかっていないような感覚になる。

「とにかく適度な距離感を忘れずにね。」

「う、うん…。わかった…。」

「なぁに〜?コソコソと。」

「ひあぁっ!」

ガバッと僕とニノの両肩に覆いかぶさってきたキョウコさんに心底驚いた。


「キョウコさん、最近潤くんと仲良しだけど潤くんはピュアなんだからあまり変な入れ知恵しないでくださいよ。」

「そういうんならニノくんがアドバイスしてあげたら?」
   
「アドバイス?」

「いいから!キョウコさん、次のシーンの打ち合わせを…」

「潤くん!何隠して…」

「何もないって。ほらほら、キョウコさん行きましょ。」

ニノに『櫻井さんメロメロ大作戦』を知られたら、絶対に笑われちゃう。

ていうか、メロメロ大作戦て…
ネーミングセンスなさすぎ?
いやいや、問題なのは作戦名じゃなくて、その行動だよね!

ニノのあざと作戦も念の為リスト入りさせとこ…。







キョウコさん…特に役名からとか個人的なモデルとなる人はおりません。名前はなんとなく付けました(笑)
自由にそれっぽい女優さんを当てはめて楽しんでくださいね♪
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