潤side
今度の新しい役は大学生役。
周囲には人懐っこく誰にでも仲良く接し、誰からも頼りにされる彼だけど、実は一人暮らしでOLの姉の元に転がり込んできためちゃくちゃ甘えるペット系男子。
「家事が苦手な姉に変わり、全部の家事をこなすのを条件に同居を許される…、か…。」
ペット系男子というのがイマイチわからないけど、掃除が得意だったり、手料理をしたりというのは普段の僕と変わらない感じで演じられそう。
「お姉さんはバリバリのキャリアウーマンだけど家ではぐーたら生活…。
そのお陰でひとりが楽になり彼氏もできず…、ね…。
もったいないなぁ、さぞかしモテるだろうに。」
台本をペラペラと捲りながら棒付きのキャンディーを咥えながら舌で溶かしていく。
この前のお菓子のCM撮影で大量に頂いちゃったから1日1本、台本をチェックしながら食べるようにしてる。
甘いものを食べてると頭が働く気がするんだよね。
セリフ覚えも前よりも早くなってきて、喉が潤ってるから言葉にするのも滑らかになる…と、そう暗示をかけながら…、
ただ食べたいだけということに理由をつけたいだけかもだけど。
そのせいか…
「じゅん?」
「ん?な…、ぅんッ、」
「今日のキスの味はいちご味だな。」
離す直前にペロっと唇を舐めては、通りすがりにキスを奪われる。
「ちょっとぉ、櫻井さん…、
そんなドライブスルーみたいにキスしていかないでよ。
もっと僕のキス大事にしてよね。」
「じゃ…、もっとじっくり、する…?」
むくれたように言えば、わざわざ疑問形で返してくる。
無駄に色気のある声、出さなくてもいいのに…。
「……し…、、…する……。」
「ふふっ、なんだそのフェイント。」
僕がソファに座ってて、櫻井さんが上から僕を見下ろして…そして僕が上を見て…
逆さに重なる唇でも上手にフィットするのは櫻井さんのテクニックなのか、僕らの相性の良さなのか…。
とにかくこんなに毎日一緒にいて、飽きもせずにキスをして、すぐに盛り上がってはエッチなことをする。
なんかこんな夢みたいな生活があっていいんだろうか…。
離れ離れになって辛かった日々が嘘みたいに穏やかな生活を送っていた。
「弟役をやらせて頂きます、松本潤です。
よろしくお願いします!」
僕のお姉さん役の人は今とても人気のあるザ・クールビューティと言われてる女優さん。
スタイル抜群で綺麗で僕なんかが弟役で大丈夫なのかと心配だ。
僕は基本人見知りだし、第一印象から悪い印象にしたくないから挨拶は失敗できない。
緊張するな…
「松本くん!?本物だぁ…!
私キミがアンバサダーをしているあのブランド大好きなの!
プロモーション、すっごい綺麗だったよー。
ドラマ、よろしくね♪」
え…?イメージとだいぶ違う?
「は、はい!こちらこそ…です!」
差し出された手に両手を添えてありがたく握手をさせてもらう。
世間のイメージではクールって言われてるし、もっとつーんとした態度なのかなと思って緊張してたけどすごく気さくでしかも初対面で握手までさせてもらっちゃった。
でもやっぱり画面越しで見るのとはオーラが違うし、真の芸能人てこうなんだ…。
「どうしたの?」
「あ、いえ!テレビで見るより断然お綺麗だなぁって、ビックリしちゃってて…」
しばらく見惚れて…
ガン見しちゃってた。
「すみません!失礼しま…」
いつまでも楽屋に僕がいたら迷惑だ。
さっさとお暇しなきゃ!
「あ、待って!ちょっとお話しましょうよ。」
「え?」
「松本くんに聞きたいこともあるの。
現場だとたくさんの人もいて聞かれたくない話もあるじゃない?」
「は、はぁ…」
引き止められて椅子に座るように促される。
断る理由もなく、そこに座った。
「松本くんの事務所ってあの会見で話題になってたFREE STYLE よね。」
「ええ…」
「副社長さん、目立ってたね。」
「そう…ですね…」
「未だ騒がれ続けるイケメン…、確かに彼は顔だけでなく声や仕草までもカッコよかったわ。
世の中が放っておかないのも頷ける。」
「…ですね。」
何が言いたいんだろう。
まさかこの人も櫻井さん狙い?
嘘…ヤダよ…
ライバルがこの人とか…
そんなこと聞かされたら撮影に身が入らなくなりそうだ…。
でもここから逃げれない、どうしよう…!
「あの人、恋人いるわね。」
「えっ!?」
突然何を言い出すの!?この人は!
「な、なんでですか?」
「しかも…人に言えない相手…
例えば…男…とか。」
「…っ、」
ゴクッと生唾を飲み込んだ音が自分の中で響く。
なんでわかった?
特殊能力でもあるの!?
「なーんてね。」
「…へっ?」
「だったら面白いんじゃないかな〜って思っただけ。」
楽しそうに笑う彼女に僕は同じように笑顔を返せているだろうか。
顔がヒクヒクして引きつっている気がするけど、ちゃんと笑えてる?
「や、そんな冗談、、やめてくださいよ…。」
「まぁね、イロイロと想像してたら萌えてきちゃって。」
「萌え…?」
「あ、私、男とか女とか偏見ないんだ〜。
愛し合ってればいいじゃん?って思うんだよね。
松本くんは?そう思わない?」
「わかりますっ!ものすごくわかりますっ!!」
「あははっ!いいね。
私、そういうハッキリ言える子だーい好きー!!
気が合うね!」
「わっ!ちょ、ちょっと!」
テンションの上がった彼女は僕に抱きついて、背中をバンバンと叩かれた。
クールビューティというよりかは姉御って表現の方が正しそう。
「ほんっとキミとは仲良くやれそう。
最初にこうして話せてよかった!
あ、イメージ違うなぁって思ったでしょ?」
「あ、はい……、、いや!そんなことは!」
「いいんだ。私もファンがそれを求めてるのならそれを演じるけど、素でいたいときはそのままの自分でいないとね。
いつも作ってる自分じゃ疲れちゃうよ。
あっと、そういえば、松本くんのデビュー作も素敵だったよ。
言葉にしなくても伝える気持ちって、表現難しかったでしょ?
誰かにアドバイスもらったの?」
「あれは…、その…」
櫻井さん?マネージャー?副社長?
櫻井さんのこと、こういう時、なんて呼んだらいいんだろ。
「あ!ごめんごめん!
言えない相手だっているよね。
なるほど〜、松本くんにもすでにそんな相手がいるってわけね。」
「いや、あの、違…っ、」
「大丈夫!内緒にしとくから。」
「そういうわけじゃ…」
この人は多分変なウワサ話とかしないと思うけど、誤解されたままじゃそれもよくないような…。
「違うんです!
す、好きな人が…、その、恋人とかじゃなく…」
あぁ…、言い訳になってない…。
なんで全否定しなかったんだ。
櫻井さんの顔が浮かんできて、櫻井さんじゃないって言えなかった。どうしても。
「松本くん、好きな人と言いながらもすでにその相手は松本くんに落ちてるね。
松本くんにあんな瞳で見つめられてるんなら、その人、松本くんにメロメロなはず!」
「メロメロ…って…」
「松本くん可愛いからなぁ。
でもね、もうちょっと色気あったらもっとメロメロにさせちゃえるのに…。」
「色気…」
それ、実は僕の一番気にしてるやつ…。
「このドラマの中から、そのテク勉強しちゃいなよ。
ペット系男子なんでしょ?
男が甘えると恥ずかしいって思うかもしれないけど、色仕掛けで甘えるのは男でもありだと思う。
うん!ありあり!」
「いいの…?」
そういえば自分からの上手な甘え方、よく知らないかも…。
「お願いします!協力してください!
僕、勉強したいです!」
僕があまーく誘ったら…
櫻井さん、もっと僕にメロメロになってくれる?