潤side



人生で一番バチバチにメイクをされたと思う。
人生で一番高い服を着させられていると思う。
そして、この世界で一番煌びやかなセットの中に立たされているのではないだろうか…と思う。



目の前でシャッターをきる彼は見ての通りのカメラマン。

そして…

「Jun…,so beautiful…」


……外国語。

僕の最も苦手とする分野…。



びゅーてぃふる?

ビューティフルって、綺麗って意味だよね?
てことは、褒められた?
褒められたんだよね?


「あ、えーと、、せ、せんきゅー…。」

「Oh! very cute!」

「え…、きゅ?
きゅ……、あ、アリガトゴザイマス。」

なぜかカタコトになってしまうのは頭が回らないせい。



僕の本業は俳優だけど、櫻井さんが受けてきたブランドのアンバサダーとはポスター撮影からプロモーションの映像撮影…などなど。
セリフがあって演じるというか、僕自身を素材として撮られているみたいだ。

当たり前だけど、海外の有名なブランド会社。
海の向こうから本社のスタッフがたくさん来てくれて、まさにこのスタジオはインターナショナル。

日本語オンリーな僕には周りで何を言われているのかなんてさっぱりわからなくて曖昧に言葉を返す。
英単語レベルの会話。
会話…なのか?これ。




「潤くん、すごいことになってんなぁ〜」

「大野さん…、僕、怖いです…。
うまくできてますか?
みんなでジロジロ見てるし、ヒソヒソ何か言ってるみたいで…」

「君があまりにも綺麗すぎて驚いてるんだよ。
いや、元々美人さんなのはわかってたけどさ!」

付き添いできてる大野さんがめちゃめちゃに褒めちぎってくれる。
きっと僕のモチベーションを上げようとしてくれてるんだな。


「潤くん、自信持って!
ほら、相葉ちゃんもニノも来たよ!」

「あ…」

「潤く〜ん!」

「潤ちゃん!ヤバい!綺麗すぎるよ〜!」

撮影をしてるスタジオは都内から少し離れた場所だったけど、視線の先で笑顔で手を振ってくれてるニノとテンション爆上がりの相葉さん、二人を見たら気持ちが和んだ。


「嬉しい、来てくれたんだ。」

「社会勉強だよ。
こんなブランドの撮影風景見れることないからね。」

「俺は撮影の勉強に!
セットももちろんだけど、潤ちゃんのキラキラ感半端ないって!
潤ちゃん撮影の合間にもちょっと撮らせて?
オフショットも欲しいよね、おーちゃん。」

「おう!沢山撮ってやってな。
オイラの待ち受けにする。」

「え、大野さん、冗談キツイですよ…。」

「なんだかんだで翔くんのパソコンの待ち受けは潤くんだったかんな。」

「えっ!?」

「あんな堅物に見えて恋人の待ち受けとか…
やってる事は中学生並ですからね、意外と。」

「…そ、なんだ…。」

嬉しいような、恥ずかしいような…。



「こんな素敵な潤くんを間近で見る前にいなくなるなんて、翔さんはバカだよ。」

ニノは最近櫻井さんのことをすぐバカって言う。
ずっと近くにいたからこそ、兄弟だからこそ、言えちゃうこと。


「櫻井さん、見てくれるかな…。」

「見たら腰抜かすって、絶対!」

相葉さんはずっと興奮してて、あの通り背も高くて、私服もオシャレな相葉さんはカメラ片手に向こうのスタッフさんにニコニコ笑いかけてるし…。

普通に僕なんかより目立ってないか? 
モデル交代とか言われません?


「この潤くんが世界中の人に見てもらえるなんてすごいことだよ、ホントに。」

「全然想像つかないし、ピンとこないけど、なんか凄いことになってるのは確かなんだよね…。」

「もう潤くんは立派な一流スターだよ。」

「やめてよ、僕なんてまだまだだよ。」


撮影中もずっと櫻井さんの影を探してた。
目の前にあなたがいたら、僕はこんな風に笑うんだよって、カメラ越しにあなたを重ねる。


「Amazing!Jun!!」

「あ、あめ…?」

「クククッ、カワイイネ、ジュン。」

ちょっ、日本語、喋れるじゃん!


3人に見守られ、スタッフさんともなんとか交流しながら、撮影を終えた。




雑誌はもちろんのこと、駅にある看板や大型ビジョン、Webサイトからと瞬く間に僕のプロモーションは拡散された。
海外からの反響も大きいらしく、僕と同じように英語が苦手な大野さんは「もー、翔くん、早く戻ってこいよー。」って、パニックだ。


「…何これ、信じられない……。」

自分でも何が起こっているのかわからない。
パニックなのは僕もだ。
なのにニノは涼しい顔して、事務所のいつもの定位置でゲームをしてる。

「言ったじゃん、潤くんは自分を低く評価しすぎだって。」

「でも…それにしたって…」

「だから翔さんは何がなんでも守りたかったんだ。
潤くんも、この仕事も。」

「え…?」

「やってよかったね。
泣いてる潤くんより、ずっと素敵。」

そして、テレビに目を向ける視線の先には僕じゃないような僕が映ってる。


櫻井さんの感想、聞きたいな…。

綺麗って言ってくれる?
可愛いって言ってくれる?

櫻井さんのことだから、どんな潤でも好きだよっていってくれるのかな…。




「ねぇ、どう思う?」

語りかける相手に返事はない。
 
あれから同居しているニノに内緒にしていることがある。
ニノがお風呂に入っているときにこっそりしていることがある。

幼い子供が人形に話しかけるように僕は櫻井さんが残していってくれたこの時計に話しかけてしまう。
こんな姿をニノに見られたら確実に引かれるだろうから、それでこっそりと。

ぽっかりと空いた心の中の穴は櫻井さんがここにいない限り塞がることはない。
それでも櫻井さんが残していってくれたこの子がその隙間を一生懸命埋めてくれていた。