雅紀side



松潤と揃って楽屋に入るとそこにはすでに翔ちゃんがいて、「おはよー」って新聞の端から顔を覗かせた。


「相葉くん、もう体調大丈夫なの?」

「あ…、松潤から聞いた?」

「うん。LINEでね。
相葉くんの体調悪そうだから様子見てくるって、連絡がきたよ。」

なんだ、結局仲良しなんじゃん…。


新聞を畳むと翔ちゃんがコーヒーではなく、お茶を入れてくれた。
翔ちゃんもこういうとこ、さりげない優しさを感じる。



「翔くん、あれから返信できなくて…
もう深夜だったし、寝てると悪いと思って。」

「いいよ、相葉くんも大したことなくてよかった。
で、同じ時間に楽屋入りとか、偶然会ったの?」

「ううん、違うよ。
相葉くんの家から直接。」

「松潤、俺のマネージャーに一緒に送ってもらったんだ。」

「え?泊まったって…こと…?」

「え…、あ…うん…。そうなるけど…。」

翔ちゃんの口角の緩みが一気に消えた。

俺が気づくんだから、松潤だってその一瞬にしてピリついた空気に気づいたはず。


「あ、相葉くんね、朝まで熱が下がらなくて、苦しそうだったから…」

「様子見に行くだけだって言わなかった?」

「言ったけど…、思ったより熱がひどくて…」

「なんで俺にすぐ言わないの?」

「だから夜中で、翔くん起こしたら悪いかなって…」

「朝にだって、ここに来るまでだって、一言くらい連絡できただろう。」

「それは…」

「ちょ、ちょっと、翔ちゃん…。落ちついてよ…。」

俺のせいで松潤が責められる気がしてならない。

松潤が訳を言えば言うほど翔ちゃんに言い訳にしか聞こえないのか、どんどんと不機嫌になっていく。


「松潤は一睡もしないで俺を看病してくれてたんだ。
疲れてるだろうから、迎えが来るまで仮眠を取ってもらってたんだよ。
元はといえば熱なんか出した俺が悪いんだし、よく覚えてないんだけど、松潤に助けを求めたのも俺なんだし、松潤は何にも悪いことなんか…」

「別にそれをどうこう言ってるんじゃない。
俺だって熱を出して辛そうな仲間がいたら、ほっとくようなことはしない。
だけど、潤が相葉くんの家に泊まるなんて聞いてない。」

翔ちゃんが怒ってるのは俺を看病したことじゃない。
誰よりも愛おしい恋人が他の男と一晩を共にしたという事実が許せない。
それがどんな理由であろうと。


「翔くん、あのね…っ」


コンコンとノックの音がして、松潤の小さな声はかき消され、少し早いけどどうでしょうか?とメイクに呼ばれた。


「俺、先行くわ。」

「翔くん…。」

「相葉くんもどんどん支度した方がいいよ。
すぐに智くんとニノも来るだろうし。」

「でもっ、」

「相葉くん!」

「松潤…」

「ごめんね、相葉くんにまで迷惑かけて…。」

さっさと行ってしまった翔ちゃんの後ろ姿を見つめながら、俺にまで謝ってくる松潤の表情を見てるのが苦しかった。

松潤も仕事に対してはプロだし、リハともなれば極上のキメ顔をし、歌い上げている。
ただ翔ちゃんとはただの一度も目を合わせることはなかった。
どちらかといえば翔ちゃんが一方的に避けていたようにも見えたけど。 



リハが終わって楽屋に戻った所でその空気が戻るわけでもなく、勘のいいニノが俺にこそりと「なにがあったんです?」と聞いてきたから、昨日のことを話したら、やれやれと言った感じで「痴話喧嘩ですか、余計なことしない方がいいですよ。」と釘を刺された。

俺が間に入って仲を取り持つと思ってんだろ。
ニノには何を言わずとも心の内を読まれてるからまたそれがまた悔しいじゃんか…。

だって俺のせいで…
やっぱりほっとくわけにはいかないよ…。



「翔くん、誤解だよ。
相葉くんのとこ泊まるとか、そういったことじゃないんだ。
ただ一緒にいただけで…」

「それが嫌だっつってんだろ!」

「しょ、くん…」

「仲間だからって、メンバーだからって、だからなんだよ!
お前、こないだ俺ん家に来るの拒んだじゃねぇか。」
 
「それは…」

「俺ん家には来ないのに相葉くんちには泊まるの?
なんだよ、そうかよ…。
相葉くんならこんなことでガタガタ怒ったりしないよな。優しいもんな。
だったら、相葉くんに優しくしてもらえば?
相葉くんと付き合ったらいいじゃん。
俺なんかと無理に一緒にいる必要ねーし。」

「………しょお…く…、ほんき…で…?
なんで、そんなこと…言うの…?」

松潤の大きな瞳から光るものが落ちた。
みるみるうちに苦しげに顔が歪んで、松潤のキラキラしたあの笑顔が粉々に壊れていく。


「翔くん、言い過ぎ…」

さすがにリーダーも言葉を掛ける。

「ふっざけんな!!」

「ちょ、相葉さん!」

隣にいたリーダーは俺の怒鳴り声に固まった。
ニノは多分、忠告したのに!って慌ててる。


「わかったよ!
翔ちゃんがそう言うんなら俺がもらう!
悪いけどもう返さないよ。
恋人になるんならナニしてもいいよね。
後で後悔しても知らないから。」

泣いている松潤に上着を被せて、思い切り腕を引いて楽屋を出てく。

待っているバンに乗り込み、松潤も一緒に帰るからと告げた。
松潤も泣いてるのがバレたくないから、必要以上に喋らなかった。




「あいばくん…?」

「もういいよ。俺にしなよ。」

あんな自分勝手な翔ちゃん、松潤を泣かせるような奴は俺は絶対許さない。

松潤がどう思おうが、もう知ったこっちゃない。




部屋に連れ込むなり、寝室に向かう。

ベッドにそのまま押し倒した。


「ま、待って…、相葉くん!!」

「いいじゃん、もう翔ちゃんの松潤じゃないんだから、好きにさせて。」

「おれ、それでも翔くんが…」

抵抗する松潤の服を無理やりに脱がしていく。

肌蹴た服をそのままに両手首を抑えて、顔の横に固定する。


「相葉くん…やめて…」

「好きだったんだ、ずっと…潤のことが。
だから、だから……、」



ねぇ、なんでそんなに怯えた顔するの?


『まあくん、…きて。』

俺を受け入れてくれたよね?


『まあくんがいたら、僕はそれだけでいいんだよ。』

『まあくんといれて幸せ。』

俺にそう言ってくれたよね?



『まあくん、幸せになってね。』

君の声が直接脳内にこだまする。
俺が好きな君の笑顔と共に。



「じゅん……」

「相葉くん?」


なんで忘れてたんだろう。

君のこと。

俺の勝手で松潤に重ねて、潤なんて名前をつけてしまったけど、俺、いつの間にか松潤じゃなくて、潤のことが…

好きだったんだ。



「潤…っ、」

心の中のどこかでもう会えないことを悟っていた俺は目の前の松潤を抱きしめて泣いた。

松潤を潤の身代わりにしたかった訳じゃないけど、この手にもう触れることのない君をもう一度だけ抱きしめたかった。