見上げると曇天の空。
冬の空に雪が散る。

ぼくの四方にはこげちゃ色の壁。
このダンボールがぼくの家。
でも屋根はない。だから寒い。


にゃー…

気づいた時にはもう野良猫で。
ガラスに映る自分を見て妙に納得してしまった。
全身真っ黒な毛並みで覆われたぼくは黒猫。
昔から黒い猫はなぜか人間に嫌われる。

だからきっと捨てられたんだ、と…。


「おい!お前!」

ハッと上を見れば、壁の上から一匹の同士が覗き込んでた。

「きみは?」

「通りすがりだ。散歩中。
雪降ってんだろ、なにボーッとしてる。
こっち来い。」

言われるがまま箱をよじ登り、木陰に身を隠す。


その猫はカズという名の飼い猫だった。
家に帰る途中、ここにいるぼくの声を聴いて箱の中を覗き込んだらしい。

「あのまま縮こまってても凍えて死ぬぞ。」

カズは厳しい言葉で僕を諭す。

「でも…、あそこにいれば、あの人通るかもって……」

「あの人?」

「近くに住んでるみたい。
時々見る。背の高い男のひと。」

「は?人間を待ってんの?飼い主か?」

「全然違うよ。
ただまた会いたいなって…」

「ハァ…、なんだそりゃ。
いつ来るかもわっかんないのに…。
待ってるだけじゃ会うまでにこの冬越えらんねぇよ。
拾ってもらうよう、せいぜい頑張んな。」

カズのベージュ色の毛がツヤツヤと輝いてる。
さすが飼い猫さんは綺麗だ。


しばらく隣にくっついていたら暖かかった。
いつの間にか雪は止み、カズはクンと鼻をすする。

「じゃ、オレ行くわ。
帰らないと外に出してもらえなくなる。
お前も連れてってやりたいけど、さすがにな…。
あ、お前、名前は?」

「ないよ。」

なくても不自由はない。
ぼくは捨て猫。誰もぼくを呼ぶことはないから。
 

「明日までにオレがカッコイイ名前考えてきてやるから楽しみに待ってろよ。」

「ありがと。」

こうしてカズと会えたのも最初で最後。

それでも猫だった頃の記憶は鮮明に覚えている。




その日の夜。

偶然にも見かけたあの人を追って、まっしぐらに道路を横切った。



…………あれ?あの人は??

なぜか眠っていた。


そしてぼくが目覚めたとき、目の前には神様がいた。

『ちゃんと成仏できないのは、この世にまだ未練があるってことだよ。』

て、ぼくにそう言ったんだ。