「おっはよーございまーす。
…て、誰もいないし。」

元気よく挨拶したらガランとした部屋に俺の声が響いた。
今日、取材が終わったら潤のとこに会いに行くんだーなんて浮かれてた。
誕生日は終わっちゃったけど世間的に25日はクリスマス。




「明日来る時にケーキ買ってくるね♪」

「ふふ、まあくん楽しそう。」

「潤と仲良くなれて嬉しいんだ。」

「僕もです…、あ…、僕も、だよ。」

一日にしてめちゃくちゃ仲良くなった気がする。
俺が行くまで連絡は取れないけど、終わったらソッコー会いに行こう。

そうだ!プレゼントもいるかな〜。
何がいいかなぁ…
買ってる時間あるかなぁ?



「…おはよう」

声が聞こえて振り返ると深くキャップを被った松潤が入口に立っていた。

「あ!松潤おは…、…ん?」

いつもの松潤オーラが半減してる。
なんか元気ない?
なんで?昨日は翔ちゃんとデートだったんだよね?


俯きながらリュックを置いてイスに腰掛けるも頬杖をついてぼんやりとしている。

「翔ちゃんとなんかあったの?」

聞かなくてもいいことを聞いてしまう。

「…え?」

「あっ、いや、なんか元気ないなって…」

「……すごい。相葉くんにはお見通しか…。」

いやいや、俺がというよりか誰が見たってバレバレだよ?
今は俺しかいないからいいけどさ。


「ダメだよね、仕事場に私情を持ち込んだりしたら。」

視線を落としながら呟く。

「俺でよければ話聞くよ?」

楽屋だから大きな声で話す訳にはいかない。
コソコソ話をするために近づくと、視界に入る赤い唇にドキドキする。


「うまくいってるんだよね?翔ちゃんと。
昨日、行ったんでしょ?デート。」

「…たぶん…。」

「多分って…」

「笑わない?」

「なにが?」


あのね…と話始める松潤の顔は真顔でせっかく想い人と付き合うことになれたのに、これじゃ片想いの時と変わらない。

幸せじゃないの?


「せっかく誘ってくれたのに、楽しかったのに、翔くんを怒らせちゃって…、
いいムードだったのに怖くなって逃げちゃった。」

メンバーのこういう話はお互いにあまりしないけど、この時の松潤は他に誰にも相談できなくて、でも自分だけで消化できなくて、きっと俺なら聞いてくれるのだと思って話したのだと思う。


「緊張してた…。
見つめられると心臓が跳ねるように高鳴って、それがバレないようにずっと何か喋らなきゃって、ずっと翔くんに隙を与えないようにしてた。
でもふと会話が止まって、翔くんが俺に触れて…
また何か言わなきゃって。
今日は相葉くんの誕生日だよね!って、去年は一緒に飲んでさっ…て話題を…
そうしたら、俺が目の前にいて相葉くんの話すんの?って。怒って、怖くて…」

「まさか、無理矢理!?」

「ちょ、声が大きい!」

慌てて口を塞がれる。

だって、怒らせたって、まさかのその原因は俺!?


「翔くんはそんな酷いことはしないよ?
でも、、無理矢理にでもシてもよかったかな…。
もう、愛想つかされちゃったかも…。
俺のこと、嫌いになっちゃった…、」

「そんなわけないよ!」

「相葉くん…」

「そんなことで嫌になるくらいなら、最初から手を出すなよ…。」

俺から松潤を奪っておいて、なんでそれだけのことで怒るわけ?
松潤ならなんでも自分の思うようにコトが運ぶとでも思ってんの!?

嫉妬でイラついてんのはこっちだっつーの!

握りしめた拳がプルプルと震える。



「ごめんね、相葉くんに不快な思いをさせちゃって。」

松潤はその俺の拳をそっと自分の手のひらで包み込んだ。

「聞いてくれてありがとう。悪いのは俺だから。」

何も解決してるように思えないが松潤は自分を責めることでこの話をなかった事にしようとしてるのがわかる。

放っておけない。


「…気が済むまで付き合うよ……。」

脳裏に潤の顔がよぎった。
目の前の松潤と同じ顔。澄んだ瞳。可愛らしい笑顔。
だけど、今俺がすべきことは松潤の笑顔を取り戻すこと。




「ハァ…ハァ…っ、」


落ち込む松潤を連れて、行きつけの店に付き合わせて一杯だけ飲んだ。
途中翔ちゃんからのメッセージで少しだけ笑顔になった松潤を送って、俺は潤の元へ急ぐ。

なんだコレは…。
まるで二股でも掛けているみたいじゃないか。
別の男に会って、また違う男に会いに行くなんて。


それよりなにより潤は昨日のことをまだ覚えてる?


「潤!?」

勢いよく引き戸のドアをノックする。

取っ手に手をかけると驚くほど簡単にその扉は開いていく。


「じゅん?」

覗いた先には…
ちょこんと膝を抱えて座る潤の姿。

クリスマスの夜に、もうすぐ日が越えそうな時間に。


「寒いだろ、こんなとこで!」

急いで駆け寄るとひんやりとした身体と冷たい頬。

「早く中に…っ、」

「寒くないよ。」

「でも…」

「まあくんはあったかい人だから、寒くない。」

「…潤、覚えて…?」

「じゅん…て?誰?」

抜け落ちた記憶。
留まった俺の名前と存在。


「潤は名前だ、君の。」

「あぁ、そっか…。そうだったね。
それよりもね、まあくんが来るって言ってたから。」

なぜ俺のことを覚えていたのかはわからない。

「その扉が開くのをずっと待ってたんだ。」

俺が来たことを素直に喜ぶ可愛い潤。


「待たせてごめんね。中、入ろ?」

「うん。」


肩を引き寄せて、部屋の中に。
こたつの中で隣で寄り添って手を繋いだ。

昨日よりもグッと君に近づいた気がする。