知れば知ろうとすればするほど彼は不思議な青年だった。


「歳はいくつ?」
「学生なの?」
「ここにはひとり?
誰か一緒に住んでるの?」

どんな疑問をぶつけても彼は首を横に振るばかり。

「わかりません。」
「覚えてません。」

その繰り返し。



「あのさ、ここまで聞いといてあれなんだけど。
俺のこと…知ってたりする…?」

嵐としての認知度は確実に上がっている自負はある。
彼が俺を見ても全然普通だからまさかとは思うけど……

「…あっ!」

「わかった!?」

「お名前聞いてませんでしたね。」


ズコッ…
て、コント並みにズッコケそうだったわ。


「相葉雅紀って言うんだけど…、
聞いたことない?」

「あいば…?」

キョトンとするその顔も松潤のよくする顔だ。
目がさ、いつも何もしなくても大きいけど、ハテナ顔になるともっとくりんくりんになるんだ。


「可愛い…。」

「え?」

「…え、あ…、な、なんでもないよ。」

ヤバイヤバイ、思ったことがすぐに口をついて出てきちゃう。悪い癖だ。


「ごめんなさい。わからないです。」

「そういえばテレビとか観たりしない?」

「テレビも携帯もありません。」

「えっ!不便じゃないの!?」

「奥の本棚にたくさん本があるんですよ。
それを読んでるといつの間にか時が経つ。
テレビがなくても全然平気です。
携帯も…特に連絡を取るような人もいませんから。」

「…そう。」

静かな部屋にポツンと一人で。
なんだかワケありなのかな…。
あんま深入りしたらマズイ感じ?


「すみません…、わからないことばかりで。
気味が悪いですよね。
自分でも変だなって思います。 
でもこれが僕なんです。」

「…じゅん。」


松潤もこだわりが多かったり、細かいとこだったり、他人には理解しがたいことも、自分の信念を曲げずに真っ直ぐな想いで貫いていく。
個性的で変わってるとは思うけど、俺はそんなとこも面白くて大好きだ。

それが君だから。



「大したお礼も出来ませんでしたが、送ってくれてありがとうございました。
本当にお世話になり…」

「また会いたい!」

「…あいば、さん?」

「怪我、治るまで来る!
俺がちゃんと責任取る!
忘れないで、俺の事…。
俺の事は忘れないで待っててほしい!」

「それは…わからないです…。
自分ではどうすることもできない…。」

「俺がする!毎日来る!
毎日会いに来るから俺の事、潤に会えたこと、思い出して欲しい。」

「どうしてそこまで…」

俺の勢いに押され、ビックリしていた顔もいつの間にか彼の目は涙が溜まり、うるうるとした瞳で見つめ返してくる。


「そんなふうに言ってもらえるなんて、
嬉しい…。」

泣きながらも、笑う。

松潤も表じゃ出さないけど、相当泣き虫なんだ。
それで笑うから儚くて、守りたくなる。
今の潤の顔はまさにその顔だった。


「せっかくこうして会えたんだもん。
運命の出会いかもしれないじゃん。」

「運命…?」

「潤…。」

手を引いて引き寄せようとしたけど、その一歩すら待てない。
俺がそっちに動けばいいだけの話。



いいのかな…。
本当にこれでいいのか?

ずっと迷ってる。


松潤は今頃翔ちゃんといて、翔ちゃんの腕の中にいるんだろう。
そう思うと一気にその迷いは黒い感情に覆われる。


──潤は今俺の腕の中だ。


「苦しいです…。」

「ごめん、でも…少しだけこうしたい…。」

抱きしめて、離せない。
明日には潤が俺を忘れてしまうと思ったら、離すことなんてできない。


「苦しいけど…、あったかいです。」

「こんなことしてごめん…。」

「相葉さんは悪い人じゃないから、
大丈夫…。」

そっとこちらに身を預けてくれる潤は本当は誰かにそばにいて欲しいんじゃないかって思ってしまうんだ。



「あ…と、、今日は帰ろっかな…。」

勢いまま抱きしめちゃって、だけどそれを拒否することなくそのまま寄り添っていたけど、よくよく考えたら俺はいいけど、彼が休むのが遅くなってしまう。
それはよくない。


「お風呂とか、気をつけて。
力が入らずに滑って更に転んだりしたら大変だ。」

「じゃあ一緒に入って?」

「はっ!!?」

「冗談ですよ。」

「おいっ!潤!」

「あははっ、慌てちゃって、おもしろーい!」

年頃の男の子らしい反応をやっと見れた。
遠慮とか敬語とか潤には似合わない。

「そのままがいい。」

「え?」

「敬語禁止ね。
俺の事も相葉さんじゃなくて、名前で呼んで?」

「名前…まさき…、……まあくん?」


ズキュン!

潤の上目遣いのまあくんはヤバイ!
松潤なら恥ずかしいって絶対言ってくれないやつ!


「どうかな?」

「すごくいいです!」

「なんでまあくんが敬語になるの。」

「ありゃ?」

「ホント、面白いね、まあくんて。」


こんな会話も忘れちゃうのかな…。
彼が明日どこまで覚えてるのかはわからない。

でも、俺は覚えてるから。
そして、また明日君に会って君と俺のことを伝えよう。