こーゆうのってなんて言うんだっけ?
この前テレビでやってたミステリー特番。
超常現象…、この世には自分とそっくりな人物が存在する…。2人だっけ?3人だっけ?
松潤の分身と遭遇しちゃったの?
これって大丈夫なやつ?
そんなことありえる??
「あのぉ…」
「う〜ん……?」
「あ、あのっ!」
「は、はい!なに?」
あまりに彼が松潤そのものだから、現実離れした出来事に頭がパニクってる。
確かに昔は霊感ぽいのあったけど、今となってはそんな力の片鱗すら残ってない。
「送ってくれたお礼にお茶…どうですか?
外も寒いから、少しでも暖まっていかれたら。」
「わ、悪いって!
見ず知らずの人を家にあげちゃいけないよ。」
見れば見るほど松潤だ。
目を合わせてるとドキドキしてくる。
「……あ、、悪い方?」
「なわけないでしょ!」
「ですよね、だから大丈夫です。
どうぞ。」
彼は一段上がった所から足を運んだ。
ひょこっと捻った足をつかないように歩いてるから、奥の部屋まで身体を支えてあげることを口実にお邪魔しますと上がらせてもらう。
昔ながらの畳の部屋にこたつがあって、小さい頃よく遊びに行っていたじいちゃんとばあちゃんの家を思い出す。
松潤とこたつ……、ふふ、ミスマッチだな。
「どうぞ。そば茶ですけど…。」
「そば茶!?」
「お口に合うかわかりませんが、美味しいですよ。
僕は結構気に入っていて。」
「ううん!昔よく飲んでたことあるよ。
水筒に入れて持ち歩いたり。
懐かし〜、いただきまーす。」
さっきまでの遠慮はどこへやら。
久々のそば茶の味を堪能してウキウキしてる自分がいた。
「そういえば風邪って、大丈夫?
さっき言ってたよね?」
「…はい、昨日まで熱があって…。」
「それなのに怪我まで…、本当に申し訳ない。」
「謝らないでください!
病み上がりでフラフラと出歩いた僕が悪いんです。」
「あ!湿布とかある?
腫れないといいけど…。」
「湿布……、救急箱…どこだったかな…?」
立ち上がって戸棚の上を探ろうとするけど、彼の背の高さだとどうも届きそうもない。
実際の松潤は俺とそう身長差はないから、やはり松潤ではないんだよな。当たり前だけど。
「まかせて。」
彼の頭上から箱に手を伸ばして、「コレ?」と下を向いて声を掛けた。
俺を見上げる上目遣いがジュニアの頃、まだ俺よりも全然小さかった松潤の顔だ。そのものだ。
「…っ、」
「あっ!」
「…え?」
バランスが崩れて上で周りから雪崩のように小箱が落ちてくる。
「危な…っ」
咄嗟に彼に覆い被さるように頭を守るように抱きしめた。
「大丈夫!?」
急いで顔を覗く。
「大丈夫です。
ふはっ、お兄さん、どこ見てたの?」
口に手を添えて笑う仕草。
「……まつじゅ…」
やっぱりそっくりなんだよ。
思わず松潤て呼んじゃいそうになる。
「…?」
「あ、ごめ…
そうだ!名前!聞いてなかったよね!」
初対面なのに、会ったばかりなのに、名前とか聞いちゃうあたり自分でもせっかちだと思う。
「それが…」
「ん?」
「わからないんです…。」
「…へっ?」
「忘れちゃうんです…。」
「えぇっ?」
聞けば事故にあった後遺症で記憶が曖昧らしい。
覚えていることも不意に思い出せなくなったり、昔の記憶もあったりなかったり。
それでも他に異常はないからと日常生活を送るようになっていると。
「名前、なんて呼んだら…」
「好きに呼んでもらっていいですよ。
どうせまたすぐに忘れてしまうので。」
彼は力なく微笑む。
そんなことでいいんだろうか?
「い、いいの…?」
そんな思いつきで名前なんて呼んでいいんだろうか。
そう思ったって、俺の中でムクムクと欲望が湧き上がってくる。
「じゃあさ、潤……て、呼んでもいい?」
「…じゅん?」
「ダメ…かな…?」
やっぱり勝手に名前を決めるなんていけないことだよな、名前って大事……
「素敵なお名前をありがとうございます。」
彼は嬉しそうに微笑む。
「あ…でも」
「ありがとうございます。」
念を押すようにお礼を言われる。
こんなことしていいのかなんて、もうわからない。
自分の欲の為に彼を利用してる。
そんな罪悪感、ないわけじゃない。
それでも好きな人の名をこうして目の前にして呼んでみたかった。
何度も願い、何度も諦めてきたこと。
神様がくれた誕生日プレゼント。
サンタさんがくれたクリスマスプレゼント。
どっちでもいい。
彼との出会いは俺にとって最高のプレゼントになったことは確かだった。