翔side
急げ、急げ…!
あれから時間が経ってる。
現状、松本がどうなってるかわからない。
マンションに着いて、エントランスから部屋番号を呼び出すけど、本人はあの通り意識がないとして。
智くんは出てくれるだろうか…。
それでもここまで来て引き返すなんてできない。
このまま引き下がることだってできないんだ。
「…はい。」
出た!
「智くん!待って!
ちゃんと話をしよう!
やっぱさ、こういうのは本人の意識がしっかり…」
「………え?翔くん………?」
「えっ??」
「なんで翔くんが…?」
「…ま、松潤…?」
応答したのは眠っているはずの部屋の主。
「どうしたの?こんな時間に。
なんかあった?あれ?連絡来てたっけ…」
「いや、してないけど……、え?なんで?」
「なんでと聞かれても…。」
向こうもこちらもハテナだらけの会話で全然埒が明きそうもない。
「えーと…」
「とりあえず上がってきて、開けるから。」
ロックが解錠されたから、大人しくそれに従うことにした。
えー…、どういうことー…?
ワケがわからないまま部屋の前に来て、部屋の前のインターホンを押す。
「どうぞ、入って。」
出てきた松本は全然酔った様子もなく、至って普通。
「あ、の…、智くんは…?」
それらしき人の靴もないし、松本も風呂上がり風なラフな格好だし、人を呼ぶのにそれはないよな。
松本的に。
「リーダー?」
「来てないの?」
「…ひとりだけど。」
リビングに通されてもやはり誰もいないし、他の誰かの気配もない。
「このラグ…」
でもあのラグはやはりここの物であることは確認できる。
「コーヒーでも淹れるから座ってて。」
「あ、ちょっ、電話いいかな…。」
「別に自由にしてていいよ。」
クスッと笑いながらキッチンに入っていくのを見てから、俺は握ったままだったケータイで再び呼び出す。
そしてまた俺が見えているのかと思うくらいにすぐに出た。
「あ、翔くん?
もう松潤のとこ着いたんだ、早いね。」
「智くん!ねぇ、これはどういうこと?
智くんはいないし、松本は酔ってもいないし…」
窓際に寄って、声のボリュームを落とす。
「誰も今そこいるなんて言ってないよ。」
「はっ?」
さっきまでのやり取りの記憶を辿る。
確かにそこにいるような素振りの言葉成りだったけど、俺が勝手に早とちりしてたってこと?
え、でも…
「だって、あの画像…」
あれは間違いなくここで撮られたもの。
それは間違いない。
「あれは前にみんなで集まった時に松潤と相葉ちゃんが寝落ちたろ?
あん時に隠し撮りしたもんだ。」
「えぇっ!」
「…なに?翔くん、どうかした?」
「あ、いや、なんも…」
思わず叫んでしまったもんだから、コーヒーを運んできてくれた松本は不思議そうな顔して首を傾げた。
「変な翔くん。」
「…ごめ、すぐ終わる。」
「ううん、ごゆっくり。」
再びキッチンの方に戻っていく松本の背中を見つめた。
数日前、智くんの言うように打ち合わせも兼ねて4人でここに来たことがある。
相変わらずの気遣いでもてなしてくれて、自分も毎日大変だろうに、俺達にまで気を配って。
ある程度アルコールが入った頃にはすでに松本はソファに凭れ、目を閉じていた。
「あれ〜、松潤寝ちゃったの〜?」
すでに寝落ちそうな相葉くんが松本の隣に転がった。
「ずっと気を張ってるんだもんな。
寝かしてやろう。」
このままじゃ体勢がキツいだろうとそっと身体を横にしてやった。
「翔くん、優しいじゃん。」
「このまま寝ちゃっても問題ないだろ、自分ちなんだし。」
その後すぐに松潤は「ごめん!寝ちゃった!」と目覚めたが、まさかその時に写メっていたとは。
俺が知らないわけだ。
「翔くん、さっき話したことは全部本当のことだよ。
オイラは松潤を手に入れたいし、現にプロポーズもした。」
「…うん、見たよ…、それ。」
まだ鮮明に脳内再生されてるよ。
「松潤は嵐を大事に思ってるし、メンバーも大切に思ってる。
だから選べないって言ったのも本当。
でもそれはオイラを選ばないってことなんだって気づいたんだ。
大好きだって言ってくれた。
けれど愛してるとは言ってはもらえなかった。
翔くん、なんでかわかる?」
「わかんないけど…。」
「鈍感だなぁ。
松潤てさ、変わらないよね昔から。」
「うん…」
「好きな人もずっと変わらないんじゃないかな。」
「……。」
「翔くん、早い者勝ちだよ。」
さっきも言われた言葉。
「待ってるだけじゃいつか誰かに奪われる。
見守ってるだけが優しさじゃないんだよ。」
「智くん…。」
「松潤のこと、ひとりにしないであげて。
さみしいって言えないからさ、アイツは。」
「うん…、わかってる…。」
「頼んだよ、翔くん。」
さっきとはうってかわって穏やかにプツリと通話は途切れた。
窓の外、遠くの星を眺める。
「掴めないって、思ってた…。」
窓越し、手を伸ばしてみる。
「あれ?電話終わったの?」
キョトンと佇む、完全オフな松本潤。
カメラの前ではこんな顔、見せないんだろう。
「で?なんか急な用事でもあった?
連絡なしに来るからビックリした…」
「松本…」
「ん?」
「話があるんだ。」
手を伸ばすだけで届かないのなら、近づけばいい。
コイツは星のように輝いて綺麗だけど、遠くになんて行かせない。
今ならこの手の届く場所にいるんだから…。