「翔くん、先にどうぞ。」

「お前先行けって。
またいつ眠たくなるか…」

「もう目はすっかり覚めたよ。
いいから、早く…」

もう何ターンこんなやり取りをしてるのか……。





『離れたくない』


そんなこと言われたら俺だって離れたくないわけで。

「泊まってもいいの?」

「…うん。」

恐る恐る問いかければ、コクンと小さく頷いてる顔は下を向いたままだけど、プクッと見える丸みのある頬は少し赤みがかってるように見えた。


「お風呂、入れるね!」

「シャワーだけ貸してもらえれば…!」

慌てて行こうとする潤の手を掴む。

「疲れ、取れないよ…、それじゃ…」

「いいって、お前が寝るの遅くなるだろ。
もうふらふらしてないか?
ひとりで歩けるか?」

「あ、歩けるよ!
じゃ、翔くん先入って。
着替えは準備しとくから。」

「いや、先になんて悪いって。」

「いいの、早く入って休んで。
迷惑掛けたからこのくらい…」


こんなやり取りから全然進まねぇ。

わかるよ、わかるさ。
俺だって逆の立場なら、潤に先入れって言う。

俺達はよく似ている。




「じゃあさ、」

「うん。」

「一緒に入る……?」

「………へ?」

「「……。」」

自分で言って自爆した。
めちゃめちゃ恥ずかしいこと言ってしまった。
てか、潤も黙るなよ。
その沈黙は迷ってんの?
一緒に入ってもいいって思っちゃったりしてんの?

冗談で言ったつもりがマジになっちゃう5秒前…、
とか………。



答え、待つ?
それともやっぱり気を利かしてやらないと。

「なんて、そんなじょうだ…、」

「本当は先に入って欲しかったけど、お言葉に甘えて先に行ってきます!
ソッコーで行ってきます!」

冗談だよーって言うが早いか逃げられた……。


バタバタと音を響かせて、俺の前から一瞬にして消えてしまった。
それこそここ数十分の出来事がマボロシだったみたいだ。
そもそも俺が夢でも見てんのかな。


「んーーーと……。」

そのまま潤のベッドの上にゴロンと横たわる。

肌触りのいいシーツが気持ちいいな。



やべ…、マジ寝ちゃうかも……。


「………ぐぅ…」

「しょおくん!お待たせ!!」

寝る寸前、ものの5分程度でまだ髪も濡れたまんま。

慌てて戻ってきた潤が俺を引き戻す。



「お前まだ髪も…」

「いいから!次はしょおくんどうぞ。」

「酔いはどこいったんだよ。
気分悪くなったりしなかったか?」

肩にかかってるタオルを手に頭をわしゃわしゃと拭いてやる。

「ちゃんと拭かないと…」

ボサボサになった前髪から覗く目がじっとこちらを捕えて、俺をまた変な気分にさせる。



「じゅん…」

「…しょおくん」



昔から思ってたけど、コイツの頭ってちっさいよな。
両手で収まっちゃいそうじゃん。


頭の中はこんな冷静なこと考えてたって、身体を動かす信号は違うとこで働いてんだ。



「……ん、ぅ…」

そりゃ、こうして目が合えば、
キスしようって合図だろうが。