「潤…」
手を握りしめたまま、君の名前を呼ぶ。
その昔、ふたりでいる時にはそう呼んでいた。
久しぶりに呼んだせいか、その声は少し掠れてしまう。
呼ばれた張本人はパチパチッと落ち着かない瞬きを数回して、その大きな瞳をぱちくりとさせて驚いた顔をする。
「潤…、おれ…、」
こんな体勢で想いを伝えることになるとは…
「お前のこと、好きになっちゃたみたいだ。」
人生最大にカッコ悪い告白かも。
「……な、に……、言って…」
「だから、潤のことが好きなんだ。
その…、恋愛の好きってことで……
なっちゃったというよりか、
本当はずっと前から好きだったのを今更気づいちゃったっていうか…。」
いや、体勢の問題じゃなくね?
こんなしどろもどろな告白自体がアウトだろ。
だってしょうがねぇじゃん。
男に告白なんてしたことない。
それに加えて、真っ直ぐに俺を射抜くその視線にドキドキが止まらん。
「恋、しちゃったの?」
「あぁ…」
「僕に?」
「うん…」
あー…、やっちまった感じ?
そう簡単に信じちゃくれないよな。
俺でさえ数時間前にはこんなことになってるなんて予想だにしない展開なんだから。
「ねぇ、どうしたの?翔くん。
酔ってんの?」
「酔ってねぇわ!
むしろ一滴も飲んでねぇ。
「だっておかしいじゃん!
翔くんがそんなこと言うわけないもん!
そんなこと…言うわけ……」
みるみるうちに涙声になって、じわじわと潤んでいく瞳からは涙が溢れてポタリと俺の頬に落ちた。
「ずっと片想いでいいと思ってた…。」
アルコールが入ってるのも手伝って、涙腺がすっかり緩んだ潤のか細く弱々しい声で語られた想いは今までどれだけの我慢と遠慮をさせてきたのだろうと胸が苦しくなる。
俺が自分の気持ちにも潤の気持ちにも気づかなかったばかりに…。
ゆっくりと身を起こすと、潤はそのままベッドの上にしゃがみこみ「うっ、う…」と嗚咽を漏らしながら顔を覆って泣いている。
「潤、こっち見て?」
泣き顔を見られたくないのかブンブンと首を振って拒否しようとするけど、今度はちゃんと包み込むように優しくその手を握った。
「冷たくなっちゃったな。」
涙で濡れた手のひらにそっと唇を寄せた。
「潤が好きだよ。」
今度こそ人生最高の告白を。
「しょ…くん…、
ぼくも、……好き。」
ふわりと笑った潤からの告白は俺の人生最高の告白を優に上回るくらい最強だった。
「翔くん。」
「ん?」
「誕生日おめでとう。」
「ありがとな、
そういやわざわざケーキまで……、あっ!!」
「なに!?」
「ケーキ!
お前が用意したケーキ、店から持ってきたんだよ。
やっべ、車の中に置いてきちゃった。」
壁掛けの時計を見たら、ド深夜もいいとこ。
今帰らないと、下手したら寝る前に朝が来ちゃうかも。
どうせケーキを取りに行くなら、そのまま帰らないと不自然だ。
でも、でも……
「しょおくん。」
「あ、ケーキな、今取りに行…」
「いい。それよりも…」
縋るように見つめてくるソレは極上の上目遣いと、
「今は離れたくないよ…。」
同じ気持ちだった。