「おーい、鍵探すぞー?」
「……ぅ…、あぃ…」
黙って漁る訳にはいかないからな。
にわか返事だけど、承諾を得て潤のリュックの中をガサゴソ。
キーケースはどこなんだ?
「あ!あった!」
助手席ではくぅくぅと寝息を立てて、さらに深い眠りについている潤。
つか、全然起きねぇの?
いくら斗真に気を許してるからって、こんなにまでなるか?
お前に気がなくったって相手にはあるかもしれねぇんだ。
それが仲間であろうが例外じゃない。
男はみんなケダモノ…
ん?言ってる俺はどうなんだ…。
斗真を棚に上げて、俺だって仲間なのに。
潤をどうこうしようなんて気持ちあるわけ……
待て待て。
これじゃ俺が潤をそういう対象に見てるみたいじゃないか。
「……え、マジ…で?」
チラリと横を見れば爆睡中の男。
確かに男。
それも中学生からよく知るいわゆる幼馴染のような存在で、
いつも世話を焼き弟のような存在で、
声変わり前の甘く鼻にかかる声で『しょおくん♡』なんて呼ぶから、そこらの女の子より断然可愛いよなってそう考えたことも一度や二度じゃ……
だから!なぜそっちに考える!
くしゃくしゃと頭を掻きむしる。
乱れた前髪から懲りずに今一度隣に眠る潤を見る。
うっすらと開いた口元がエロい…。
真っ白な首筋がほんのりピンク色に染まってエロい…。
見れば見るほど……美しい…。
「だぁぁぁーー!何たることだ。」
ダメだろ…、あってはいけないだろ…
こんなこと……。
車の中でモタモタしてっから押し込めてた気持ちに気づいちまったじゃねぇか。
なんで先に部屋に送らなかったんだ。
後悔しても遅い。
このままでいるわけにも行かない。
とにかく潤を部屋まで運ばねば。
「よし!!行くぞ!」
邪念を捨て、助手席の外側に回りドアを開けた。
まだ力の入らない潤の腕を掴んで一気に引っ張りあげる。
「おい、ちょっとは自分で歩けって…!」
「もぉ、ぅ…るさいな…」
外気に触れたことで少しだけ意識が浮上したのか文句を呟きながらも、自ら車から出て来てくれた。
「て、バカっ!」
出てきたはいいがまたずしりと俺にもたれかかってくる。
俺の方が若干だが背が低いから、ヘタすりゃ二人揃って倒れてしまう。
しかも微かに触れた頬と頬。
ふわっと薫るこの甘い香り。
身体の中がカッと熱くなる。
そして、捨てたはずの邪念がまた降りかかってくる。
そこからはもう無我夢中だった。
引きずるようにエレベーターに乗り込み、長い廊下を抜け、一番奥の部屋の前に到着して鍵を差し込む。
昔よく訪れていた時のままの部屋。
間取りだって把握している。
寝室に直行して、ふたりしてそのベッドに身を投げた。
「つっっかれたぁー…」
いくら痩せてたって大の大人なんだ、めちゃくちゃ重かったぞ。
ハァハァとまだ息の整わない俺とそんな苦労など知らずに潤は再び幸せそうな顔して眠りの中。
「コイツこんな酒癖悪かったっけ?」
どんだけ飲んだか知らねぇけど、この分じゃ朝の二日酔いは確定だな。
「あぁ、上着も脱がすか。」
近づいてベッドの上から見下ろすとまた変な気分になりそうだから、とにかく手早く上着だけ引き抜き、掛けておこうとハンガーを探す。
きっと出かける前に掛かってたであろうハンガーがラックにあったから、それを掛けようと潤に背を向けた。
「……う、ぅ…」
ん?
呻くようなくぐもった声がする。
振り返ると潤はなんの前触れもなくムクリと起き上がり、ぼーっとしてる。
起きた??
「……………トイレ。」
ひと言呟くとこちらを見ることもなく、部屋から出ていってしまった。
んん?あれは起きてんのか?
すぐに戻って来るかと思いきや、しばらく待っても戻ってこない。
トイレで寝ちゃってないか?
それとも倒れてる!?
急いで部屋から飛び出すとキッチンでペットボトルを傾ける潤とバチリと目が合う。
「……あ、んーと……、お目覚め、かな?」
「………。」
時が止まるってこういうこと言うんだ。
俺を視界に捉えた潤は目を見開き固まったまま、手からペットボトルがゴトンと滑り落ちる。
「わっ!お前、水、水!
零れてる!!」
「しょ、くん……、
なんで………?いんの……?」
慌てる俺とまったく動かない潤。
蓋の空いたままのペットボトルは横になったまま、トクトクと止まることなく中身が溢れていった。