潤side



頭がガンガンする。
 
熱でもあるのかな…?

ちょうど良かった。
先輩に合わせる顔ないもん。
学校休みたい…。


拒絶反応がエラく正直に身体に出てくれて助かる。
僕の身体、男だからって捨てたもんじゃない…。





「潤!!」

背中越しに呼ばれた声だけが最後の記憶。
…間違いじゃければ。


「好き」と言ってしまった。
その一瞬で僕の中のストッパーがぶっ壊れた音がした。
大切に保っていた先輩との距離感。
それも呆気なく崩れ落ちた。



目を見開き、驚いた表情。
けれども読めない先輩のココロ。

次の言葉を聞くのが怖くて、僕は逃げた。
きっとすぐに姉ちゃんも来る。
溢れそうになる涙も言い訳できなくなる。

僕は踵をひるがえし、先輩の僕の名を呼ぶ声が耳に届いても、振り返ることなく部屋を出た。



視界の隅に階段を上がってくる姉ちゃんが見えた。
間に合った…。
僕は隣の自分の部屋に駆け込んで扉を背にしゃがみ込む。
「…ふ、っ、ぅぅ…、」
耐えきれず涙が零れていく。
そしてそのまま床に丸まり意識を落としたんだった。






「潤!?潤!!
なにしてるの?
こんなとこに倒れて…っ」

揺さぶられて目が覚めた時にはすでに夕方で仕事から帰った母さんが僕を起こす。


「呼んでも返事がないし。
どうしたの?具合悪いの?
あら、やだ…、熱あるじゃない。」

「母さ…、かあさ…、…っ」

「泣くなんて…、どうしたのよ。
そんなに辛いの?」

「明日…がっこ…やす、むっ」

「えぇ?
なに?ほんと子供みたいに…。
熱あるなら無理に行かせはしないわよ。」

よかった。
熱のせいで流れゆく涙に理由がついた。






────────



『何言ってんの?
好きとか?俺、男相手にそんな趣味ねぇから。』

黒い人影。
先輩……?
表情のない先輩が僕を見下ろす。
暗い暗い闇の中。

『ごめんなさい…。』

僕が悪いんです。
ほんとうにごめんなさい…。




 「……く…、じゅ…く…、じゅんくん?」


…え?ニノ?
ニノの声が聞こえ…、


「潤くん!!」

ハッと目を覚ますとベッドに横たわる僕を覗き込むニノがいた。

「ニノ?どうして、ここに…」

「お見舞いに来たんだよ。
あと今日の分のノート。
お母さんが部屋に通してくれたんだ。
潤くん寝てたし、ノートだけ置いたら帰るつもりで…。
そしたらさ、うなされて、すごく苦しそうだったから……思わず起こしちゃったよ。」

「…ニノ」

にっこり優しく微笑んでくれるニノを見てたら、
スッと力が抜けていく気がした。
ずっとずっとひとりが怖くて堪らなくて、誰かに縋りたくて……

「ごめんね、わざわざ。」

少しだけ気怠い身体をベッドから起こす。



「潤くん、聞いたよ。櫻井さんから。」

「…え」

先輩が?ニノに…なにを…?


怖い。
何を言ったの?
僕のこと、なんて言ってたの?

ゾクッとして震えがくる。
これは熱のせいなんかじゃない。
震えてくる身体を自分自身で抑えようと両手で両腕を掴んで身を縮める。

「もう、だめ…
僕は、もう……」

「潤くん。怖がらないで。
大丈夫、大丈夫だから。」



ニノは僕の震える肩を抱きしめて、
「がんばったね…」と呟いた。

その言葉はあまりにも力強く胸に響いて、
その言葉を聞いた途端、
また僕の涙腺は崩壊した。