ニノside



週明けて月曜日、潤くんは学校を休んだ。

欠席理由は熱。



風邪でも引いた?
テスト前で勉強がんばってたからな…。
終わって緊張の糸が切れたのか。

入学して初めてのテストだったけど、結果は決して悪くなかった。
なんなら英語はかなりよかったって喜んでたくらいだ。
オレも数学を教えたけど、大した時間も取れず簡単に復習を休み時間にしただけ。
結局は潤くんの頑張りなのに、ものすごく丁寧にお礼を言われてこっちが照れた。


素直にありがとうと言える人。
まだ知り合って少しだけど、この数週間一緒にいただけで、いかに潤くんが繊細で純粋な心の持ち主だということかはよくわかった。




潤くんがいないとオレの視界すら薄暗く感じる。
それはただ単にどんよりとした曇り空だけというせいじゃない。

いつの間にか彼の純粋な恋する気持ちはオレの過去の閉じ込めていた想いを肯定してくれるようで。
彼の恋する眼差しは本当に綺麗だから。



「兄さん…。」

オレの前からいなくなったあの人は今頃どこで何をしているんだろう…。






ぼんやりと窓の外を眺めていると、いつの間にか4時限目の終了のチャイムが鳴り、授業の終わりを告げていた。

ポツポツと雨が落ちてきて、より一層空は黒くなっていた。
 


ザワザワとする昼休みの教室。

昼飯どうしよっかな…。


「おい、二宮。生徒会長が呼んでるけど…
お前、なんかした?」

いつもお弁当を持って嬉しそうに教室を出ていく潤くんを見送るのが日課になっていた。
それが今日はなくて、その楽しみすらなくて、昼飯を食べることを無駄に悩んでいたその時、後ろの席の奴に声をかけられた。



「生徒会長…?」

振り返り、教室のドアの所に櫻井さんが立っていた。
キョロキョロと教室を見渡して、オレに視線を合わせると「ちょっと…。」と手招きをした。


「どうしました?」

「ごめん。あの……
今日、潤は?」

「潤くんは熱出して、今日は休みです。」

「熱…?なんで?」

「なんでって言われても…。」

櫻井さんは唇に指を添えて、じっと何かを考えてる。


「なぁ、二宮。
潤、なんか言ってた?
なんか聞いてる?」

「なにって…例えば…?」

「例えば…
アイツの好きな人のこと、とか…。」

歯切れの悪さ。
声がどんどん小さくなる。


「潤くんに何か言われたんですか?」

「いや、言われたというか…」

「言われたんですね。」

潤くん、なんで…?急に…?


あれだけ悩んでた。
お姉さんの彼である櫻井さん。
好きだなんて潤くんがそう易々と口に出せるはずがない。
しかもそれを本人に言えるはずもなかった。


心配だ。

熱を出した体もそうだけど、きっともっと心が壊れそうになってるに違いない。
とんでもないことをしてしまったと塞ぎ込んでいるに違いない。




「潤、大丈夫かな…。」

櫻井さんは心配そうに潤くんの席の机を眺める。


あ…、この人……まさか……

いや、まだ確信があるわけじゃない。
今は潤くんの状態を探るのが先だ。


「潤くんのことはオレに任せてください。
学校終わったら様子見てきます。
それより、今日はお弁当なくて残念ですね。」

「あ、うん…。
…て、そんな言い方、いつも弁当目当てみたいじゃん!」

「違いますか?」

「違うよ!
確かに潤の弁当はうまいし、ありがたい。
勉強もちゃんとしてた。でも、」

「でも?」

「楽しかったんだ。
潤といる時間がすっげー楽しくて、アイツが休みでいないなんて…寂しいよ。」

窓の外を遠くに眺める。
その表情が潤くんのことを想ってくれての顔だったらいい。



「櫻井さん。」

「ん?」

「ちゃんと潤くんと話してあげてくださいね。」

「そうだよな。話さなきゃ…だよな…。」


きっと櫻井さんがどんな答えを出しても、潤くんは泣くのだろう。
叶わぬ恋だと泣くのか、
認められない恋だと泣くのか。
はたまた、この恋を貫く覚悟があるのか。
姉を敵に回しても。



「ちゃんと答えを出すまで潤くんには会わせませんから。」

「なんだよ、それ。」

「オレは潤くんの味方です。
潤くんの気持ちに必ず向き合ってください。
どんな答えを出すにしても、あなたへ伝えたことを後悔させないでください。
勝手なこと言ってすみません。
大事な友達なんで。
よろしくお願いします…。」

オレがあまりにも真剣だったからか、櫻井さんは困惑しつつも頷いてくれた。


潤くんの勇気、無駄になんかさせない。

潤くんの想い、届け。