その状況と僕の態度で賢いニノはすべてを悟ったのだと思う。



振り返ると背中に引っ付くようにいる僕の肩にポンと手を置いた。

「作戦決行。」

「…え」

僕にコソッと耳打ちすると、ニノはにこやかに話し出した。



「櫻井先輩!
オレ、潤くんと同じクラスの二宮って言います!
あのっ、突然ですけど、僕らに英語を教えてくれませんか!?」

「…へっ?」

「ちょっ、ニノ!」

急になに言い出すの!?


「学校にいる時に少しだけでも…
あ、お昼休みとか、5分でも10分でもいいんです!
もちろん櫻井先輩の時間がある時にだけでも!」

ニノがこんな勢いよく喋るの初めて見た…。
そんなニノに押されて先輩もすごいびっくりしてる。


「ニノ、いいって…。
先輩にも都合が…」

「別にいいけど。」


え?…いい?
いいって言った?


「たださ、俺、いつも昼ないんだわ。
学食か購買で昼買ってからだから、時間がなくなっちゃう可能性があるんだよね。
そうすると、待たせとくのもなぁ。」


「じゃあ、お弁当…!」

気づいたら声に出てた。



「…潤くん?」

「ぼ、僕がお弁当作ってきます。
それなら少しは時間作れますか?
英語、教えてもらえますか?
僕に勉強を教えてくれませんか?」

なんか言い出したら止まらなくなってしまって、
さっきのニノ以上に必死に頼み込んでしまった。


先輩の目をじっと見つめる。
僕の気持ちが伝わるように。


「ダメ、でしょうか…。」

「や!全然ダメなんかじゃ…!」

先輩は照れくさそうに視線を伏せた。



ふぅっと息を吐くと、

「いいよ。
じゃあ、お弁当お願いしようかな。」

「は、はいっ!」

「やった!潤くん!」

ニノとキャッキャと喜んでいると、隣で面白くなさそうな姉ちゃんの顔。


「翔くん、いいの?
勉強なら私が家で教えるよ?
翔くん、だって休み時間も放課後も生徒会で忙しいって言ってたじゃない。
潤、翔くんに余計な負担かけないで。
迷惑よ。」

「迷惑…」

そうだ。
先輩は3年生で生徒会長で、僕らなんかより何倍も忙しい。
貴重な休み時間。
先輩の時間を無駄にしてしまう…。


姉ちゃんは学校が違うから、学校が同じというだけで先輩にまとわりつく僕が余計に妬ましいのだろう。
現にこんな風に厳しく姉ちゃんに言われることなんて今まで一度もなかった。



でも…


「僕は先輩に教わりたい!
姉ちゃんには関係ない!」


ふつふつと溜まりに溜まっていた嫉妬心。

言われたからって引き下がるなんて僕は嫌だ。
せっかくきっかけを作ってくれたニノ。
いいよって言ってくれた先輩。

このチャンス、逃してなるものか。