翔くんに抱きしめられてる…というこの状況。

翔くんも俺も黙ったまま、もうかれこれ数分は経過している。


なにか言ってくんないかな…。
どうするのが正解なのかわからなくて俺からは動けない。
先に動いたのは翔くんなのに。
なんでなにも言ってくれないのさ…。


翔くんが動かないのなら俺が動くしかないじゃん。
ていうか、

「翔くん…。」

「…ん?」

「俺、翔くんが好きだよ。
その…、昔だけじゃなくて、今もずっと。
そういう好きっていうか、とにかく好きってことで。」

「ふ…、何回好きって言うの。」

「でね、」

「うん。」

「翔くんからは何も聞いてないんだけど…」

「えっ…」

驚いたように俺の身体からパッと身を離す。
 
そんな驚くとこ?

「そ、そんなん、言わなくてもこの状況見たらわかんだろ。」

え?まさかこの人…

「好きだなんて、恥ずかしくて言えるかっつーの。」

俺から顔を逸らして、唇を尖らせながら呟く。


好きって言わない気!??



そんな翔くんの煮え切らない態度は白黒ハッキリさせたい俺の性格が許さない。

「はぁ!?
翔くん、俺から告白させといてそれはないんじゃない?
言わなくてもわかるなんて、そんなの無理にきまってんじゃん!
エスパーじゃあるまいし。」

「わかんだろ!
大体な、お前が酔っ払って中途半端な告白するから、確かめないとわからない事態になってんだろうが。」

「俺のせい!?
だったら最初から何を口走ったのか言ってくれればいいじゃん!
………ねぇ、
俺…好きだって言ったんじゃないの?」

「あ…」

急にバツの悪そうな顔をする。

「ひどい!なんて言ったの?
なんで教えてくれないんだよ!
翔くんのバカ!!」

自爆して、言えるはずもなかった告白をしてしまって、バカは俺じゃん。
超絶恥ずい!
顔がカァーっと熱を持って赤くなっていくのがわかる。


「松潤…。」

顔を覆って塞ぎ込む俺を優しく呼ぶ声がする。
指の隙間からそろっと見ると、めちゃめちゃ甘い翔くんの顔がすぐまた近くにあって、また顔を隠す。

「見んなよ!」

悪態をつく俺の手を再び掴んで、今度は顔をガッツリ至近距離まで引き寄せた。

「こんな顔するんだ。」

当たり前だけど自分じゃどんな顔してるかなんてわからない。


「どんな…?」

「シたくなる。」

「しっっ!?」

待って待って!急すぎ!
翔くんて見かけによらず手ぇ早くない!?


「なに考えてんだよ。」

「…。」

何ってそりゃ男同志は初めてなわけだし、色々どうしたらいいかわからないでしょ。
逆になんで翔くんはそんなに余裕あんの?
まさか、慣れてる!?


「まずはチュウとか…。」

「…はい?」

チュウって…キスのこと?

「お前まさかエロいこと考えてねぇだろうな?」

「ま、まさか!」

いやいや、翔くんあなたいくつよ。
キスするだけでしてもいいかとか確認する?
仕事でもキスシーンしたことあるでしょ。
雰囲気とか作ってさ、もっとスマートにしてくれたっていいじゃん。


「……中学生かよ。」

おっと思わず心の声が。


「なんだよ。わりぃか。」

「さぁ、なんのことだかワカリマセン。」

「馬鹿にしてんのか。」

「イエイエ、決してそんなことは。」

「じゃ、目、閉じて…。」

「うん…」

とは言ったものの、キスする前提で目を閉じるとかマニュアル通りに進められると変に緊張する。
いつもする側だからされる側の立場になるとその待ってる時間の緊張感ったらない。


「ま、待った!」

「ん?」

肩に手を置いた状態で翔くんは待ったをかけられ固まってる。

「俺からする。俺からキスさせて。」

キス待ちの顔とか見せるくらいなら、キスする側がいい。
なんたって翔くんより場数は踏んでるんだ。
ドラマだけでいったら翔くんの何倍だってしてるんだし。


「いいぜ。じゃあ…してよ。」

スっとなんの抵抗もせず翔くんは目を閉じた。
こういうとこは妙に落ち着いてて男らしい。
好きだとは言ってくれないくせに…。

綺麗な整った顔は目を閉じられててもやっぱり美しくて、こんな人が俺とキスしてくれるなんて。
ましてや俺からのキスを待ってるとか、それこそこんな至福の後にはきっとものすごい天罰が待っているとかあったりしないだろうか。

もしそうならそれでもいっか。
もうこんなチャンスはないかもしれないし。
翔くんとキスできるなんて、後にも先にもこれっきりになる可能性も…


「なぁ、まだー?」

「ご、ごめ!今する!」

ごちゃごちゃ考えてたら翔くんから催促された…。
ムードもへったくれもない。

よし!いきます!!

「「……。」」

今度は俺が翔くんの肩に手を添えて、チュッと触れるだけのキスをした。
その一瞬だけでも唇の弾力と温かさがダイレクトに伝わってきて、ドクッと心臓が跳ねた。
だから一瞬しかできなかった。

胸がドキドキして苦しい。
恥ずかしくて苦しい。
ずっと叶うことのないと思っていた人とのキス。翔くんが大好きで苦しい。


ゆっくりと目を開いた翔くんは俺を見ると、

「お前は中学生か。」

て、ひと言。


さっき俺が言ったセリフをまんま返され、
そのまま引かれた腕の中で、
目なんか閉じさせてもらえないまま…

翔くんから今度はしっかりとした大人なキスをお返しされた。

息継ぎさえもままならなくて…苦しい。









わちゃる?イチャる?