「じゅーんくーん!」
久々に聞いた気がする呼び名と同時に背中にのしっとした重みがかかる。
俺は今日早めに楽屋に来て、コイツの到着を待ちわびていたんだ。
翔くんは遅れるとの連絡はマネージャーから受けている。
あの日以来、初めての5人での取材。
そしてニノともあの日以来会うことになるわけで。
「珍し、潤くんて…。」
「気分気分。
で、なに?オレを待ってたんでしょう?」
ニヤニヤとしながら、ソファの端に座りゲームを起動させる。
「ね、どうだったの、あの日。」
あの日。
聞かなくてもいいことを聞いてしまったあの日。
「どうだったのじゃないよ。
なんで翔くんに俺を送らせたりすんの?」
「ナイスアシストだったっしょ?」
「どこが…、醜態晒しただけじゃん。」
「なによー、今さらぁ。」
ポンポンと交わされる会話だけど、ニノの目線はゲームに集中。
それでも成り立つ会話。
俺にもそんな器用さが少しでもあったら…
翔くんは俺の事を好きになったりしてくれたのだろうか…。
「送ってくれたんでしょ?」
「うん、それはしっかりと。」
「なにかあったんでしょ?」
「俺が強引に泊まらせた。」
「へぇ!」
「朝ごはん、一緒に食べた。」
「うんうん!」
見るといつの間にかこちらに向き直り、尻尾をパタパタさせる犬のごとく目を輝かせて、食い入るように話を聞いていた。
「翔くんね、好きな人がいるんだって…。」
「うん!それで!」
「頑張るって…。」
「翔ちゃんもやるときゃやるじゃん!」
「俺…、もう諦めようかな…。」
「うん、う…、ん?えっ!?へっ?」
「翔くんにまた彼女ができたって聞かされたら、さすがに、なんて言うか…、もう辛くて。
いっその事、早く忘れた方が楽かなって言うか…。」
「ちょ、ちょっと待って!」
ニノは頭を抱え、俺の話を中断させる。
「意味、わかんないんですけど…。」
「はぁ?俺の話、聞いていた?
割と簡潔にわかりやすく話したよね?
そりゃさ、もうそんな事聞いた時は頭が真っ白でさ、そこからの話とか、あんまり覚えてないけども…。」
「伝わんねぇってば…。」
「はい?」
「ま、そのうちになるようになるか。
いや、でも、俺のせっかくのパスをまさか空振りするとはな…、頭いいくせに決める時決めらんないっつーか、なんつーか…。」
「ちょっと、ニノ!
訳わかんないことひとりで勝手に話してないでさ、俺の話を…、」
「はよー。」
ガチャリとドアが開いて翔くんが入ってきた。
ニノにもっと話を聞いてもらいたかったのに、その話の張本人が来ては話すわけにはいかない。
「翔くん!?お、おはよ!
早かったね、遅れるってマネージャーが…。」
「あぁ、案外スムーズに渋滞抜けれてさ、
わりぃ、待たせた?」
「ううん。
まだリーダーと相葉くんが別のロケで遅れてて…。」
「そ。」
「あー!思い出した!」
「ニノ?」
「Jさぁ、あの後輩覚えてる?
コンでもバックについてた子でさ、構成のこととか興味あるって、Jに挨拶してたじゃん。
こないだしやがれの収録、見に来てたんだよ。
勉強したいっつって。」
「あぁ、そう言えばマネージャーがそんなこと。
熱心だよね、最近のジュニアの子は。」
「その子、実はさ、Jのこと好きなんだって。
先輩としてもそうだけど、Jのこと、そういう意味で好きらしいよ。」
「そういう意味?」
そう言うとニノは俺ににじり寄り、反対側のソファの端まで追いやった。
ニノの丸っこい手が俺の頬を包み込んで、そのままキスでもしそうなくらい顔が近づいて…
「こういう意味ってこと。」
「……っ、」
「ニノ!!」
翔くんがニノの腕を掴んで振りほどく。
「実演はいいんじゃね?
松潤もビックリすんだろ。」
「そう?まんざらでもないっしょ。
ね、潤くん。」
Jって呼んだり、潤くんて呼んだり、
今日のニノはなんかおかしい。
なんだか試されてるような…。
「そんなの勘違いだよ。
ただの尊敬とか憧れとか…だろ。
俺にそんな魅力なんてあるわけない。」
「ふぅん、そう…。尊敬とか憧れねぇ。
だってさ、翔ちゃん。」
「……翔くんには関係ないだろ。」
ニノは翔くんに言ったのだろうけど、一瞬翔くんが困ったような顔をしたような気がして、俺から話を終わらせた。
もうこれ以上、翔くんに迷惑かけたくない。
せめて翔くんの大好きなメンバーでありたい。
これからも傍にいたいから…。