※時間軸戻ります。飲み会の夜。
翔side
今日の松潤はいつもと様子が違うとは感じていた。
みんなで飲みに行けると決まると嬉しそうにケータイ片手に率先して店を予約してくれた。
ニノだって当初は早く帰りたさそうだったのに、松潤に詰め寄られて行かないという選択権を奪われていた。
おかしい…。
あんなにニコニコ嬉しそうにしていたくせに、酒が進むにつれて、松潤の周りの空気淀んでねぇか?
俺の方をチラっと見てはゴクリ。
相葉くんが肩を組んでくればゴクリ。
智くんが凭れてきてはゴクリ。
おいおい…、ペース早くね?
隣に座りチビチビと飲みながらもニノは松潤を気にかけて、しきりに話かけてるけど、ペースは落ちることなく酒を浴びるように飲んでいった。
止めようとしても2人に絡まれては身動きもとれず、ただただその様子を見てるしかなかった。
案の定、松潤はテーブルに突っ伏しては、たまに顔を上げて半分寝ている状態でぽやんとその目線は宙を仰いでいた。
「飲みすぎ、帰れんの?」
そう言ってニノがその肩を揺する。
相葉くんとリーダーもいい感じに酔っ払ってるけど意識はしっかりしているから、タクシーを呼んで帰ろう。
松潤は……?
「翔さん、オレ達帰る方向一緒なんで、J頼みますね。」
「えっ!?こんな状態でどうすんだよ!」
「まだ少し意識はありますよ。
オレじゃ支えらんないし、あのふたりも出来上がっちゃってるし、翔さんしかいないでしょ。
じゃ、よろしくお願いしまーす。
はいはい、行きますよー。」
店からタクシーが到着したと言われ、俺と松潤を残して3人はさっさと店を後にした。
ここに寝かす訳にもいかないしな。
「おい、おい松潤!行くぞ!」
「……どこにぃ?」
「帰るぞ。お前んちどこだ。」
「えーと、ね…、」
ニノの言う通り受け答えはかろうじてできていた。
この時までは。
「マジ早めに聞いといてよかったわ…。」
タクシーに乗り込むとすぐに松潤は眠ってしまって、マンションに着いてはその都度揺すり起こす。
その繰り返しでなんとか部屋に辿り着いた。
途中何度も倒れそうになるから身体を密着させて支えた。
いつの間にか俺よりデカくなっちゃって…。
大人になった松潤とこんな風に触れ合ったことはなく、アルコールの香りと微かに薫る香水が混ざりあの頃のような子供ではなくなったと認識させた。
「着いたぞ。」
「…う、ありあと…。」
呂律回ってないじゃん。
子供の頃の鼻にかかった声によく似てるな。
「じゃ、俺、帰るな。」
「…ん」
微かに聞こえた返事に俺の役目の終了が告げられた。
と、思った。
「しょおくん…。」
「へっ?」
「しょおくん、帰っちゃうのぉ?」
なんのスイッチが入っちゃったのか、今度はヘラヘラと笑ってる。
「帰るけど…。」
「えー、やだやだ。
まだいいじゃん、うちにもお酒あんの。飲も?」
首を傾げ、甘える仕草。
「アホか、あんだけ飲んで何言ってんだ。
寝ろ。」
「ひとりじゃ寝れないー。
あ、しょおくんが泊まってくれたら寝るー。」
「寝れるわ!小学生じゃあるまいし…」
小学生ではないが目の前で甘えてくる松潤はジュニアの頃、なりふり構わず俺に甘えてきた松潤そのもので。
「わかった、わかった。
ベッドどこだよ。」
「あっちー!」
俺の手を引き、寝室らしき部屋に向けて歩く。
手を繋ぐなんて…
こいつ本当に子供に戻っちゃったのかよ。
ポスンとベッドに身を投げると、
「しょおくんもー。」
「はいはい。
あ、寝るんなら上着脱げ。」
グラグラする松潤の身体を支えながらなんとか上着だけは脱がせた。
俺も今日に限ってピッタリとしたジーンズなんだよな…。汚れてても悪いし…。
仕方ない、脱ぐか。
ビジュアル的に若干問題だが、誰に見られるわけもない。
素早く脱ぎ捨てると、隣同士、並んで横たわる。
「ふふ、おとまり。」
「早く寝ろ。寝るまでいるから。」
ふと横向きになると、同じくこちらを横向きに見る松潤と目が合ったような気がする。
気がすると思うのは、ぼぉっとしてる松潤の目の焦点が合っていないせいだ。
「眠いか?」
「ううん…。」
否定するもまぶたはゆっくりと閉じられていく。
だけど、切なげな心の声だけは鮮明に聞こえてくる。
「やだよ…、寝るまでなんて…。
しょおくんとずっと一緒がいいよぉ。
ずっと…しょおくんと…い…る。」
そう言うと電池が切れたように眠りについた。
「はぁ…っ、言いたいことばかり言いやがって…。」
松潤の気持ちが昔から変わってないことなんてわかってた。
ただそれが大人になるにつれ、その好きが愛情なのか友情なのかメンバー愛なのか。
確かめる術もなかった。
お互いに恋人だっていた時もある。
だからこそ、気づかないようにしてたのに。
悟られまいと開いた距離と偽りの付き合い。
そんなの上手くいくはずないんだ。
外見は変わっても中身はぜんぜん変わってない純粋なまま。
今でも俺を想ってくれてたりするの?
俺はずっとお前の事、大切に想ってるよ。
「寝顔はあの頃のまんまなんだな…。」
その頬に触れると、昔のような柔らかさはないけど感じる体温はその熱を俺に伝えた。
「お互い素直になってみようか。」
松潤の投げ出された無防備な手のひらに自身の手のひらを重ねる。
繋いだその手の心地良さに俺にも眠気が襲ってくるのは時間の問題だった。