潤side



次の日、僕は今日も変わらずお店に立っていた。
ナナさんに言えば休みをくれただろう。
でもコンサートは夕方からだし、少し早めに上がらせてもらえばって、そう考えていたんだ。



客足も落ち着いた頃、キィと扉が開いた。

最近よく来てくれるお客様。
僕よりも少し年下、近くに住むコウくんは大学生だと言っていた。
たまに世間話をして必ず2つケーキを買っていく。
彼女と食べてくれてるのかな…なんて、勝手に微笑ましく思っていた。


「いらっしゃいませ、コウくん。」

いつもと変わらず声を掛けて笑顔で応対する。

「こんにちは、潤さん!」

人懐っこくて、子犬のよう。
八重歯がキラリ、笑顔がかわいい。


「今日は少し早いんだね、学校は終わり?」

「うん…、ちょっとね…。早く来たくて。」

「サボり?ダメだよぉ、そんなに慌てなくてもまだケーキは十分あるから、」

「会いたくて、早く…。」


会いたい?
ん?誰に?

予期せぬ言葉にカフェスペースの机を整える手が止まる。


「潤さんに会いたくて。」

「えっ?」

「潤さん、僕…、僕はあなたのこと…
好きなんです!」

つかつかと歩み寄られ、手を握られる。

「え、ちょっと待って…、」

「ダメですか!?僕、一目惚れなんです!
あなたのことが頭から離れないんです!」

手をぎゅうっと握られて振り解けない。


「あ、あの!僕、付き合ってる人がいて、
だから、あの…、」

突然過ぎて言葉に詰まる。
僕の好きな人は男だと悟られてはいけない。
瞬間的にそう思った。

「男だよ、僕は。
僕なんかより素敵な人、いっぱいいるよ?」

同性同士ということを理由に断ろう。

「嫌だ!簡単に振らないでよ。
男だろうが関係ない。
潤さんみたいな綺麗な人、見たことないよ。
僕とも付き合ってみたら、わかんないじゃん!
今の人よりいいかもしれないじゃん!」

「そんな…、」

コウくんは本気だ。
目を見ればわかる。
薄っぺらい言い訳では納得してくれない。



「あ、時間…。」

コウくんの背中越しに時計が見えた。
いつの間にか出発の予定時刻を過ぎている。
ナナさんにはあがるとき声を掛けると言ってあるから、それまでは自室にいるはずだ。


刻々と過ぎる時間。
どうしよ…。行かないと…。

サクラが…、

ショウが、僕を…

待ってる。



「行かなきゃ…。
ごめん!大事な用があるの。
もう行かなきゃ…!」

ショウとの約束。
もう何年越しの大事な約束。


「デートの約束?」

「…違うよ。」

「そうなんだね。なら、行かせない。」

腕を引かれ、強引に抱きしめられる。


「や!やめっ…!!」

コウくんは華奢な割に筋肉質で細い体つきだと思ったのに、力が強くて抜け出せない。

首筋にあたる吐息。
そこに触れる熱い唇。
ショウではないその体温。
気持ちの悪さにゾクリとした。



やだ!助けて!

助けて…

「しょお…っ!」