試合が終わって、潤の家に行ってもまだ潤は帰っていなかった。


「あれ?潤は?」

「あ、翔くん。
潤ね、一回学校寄るって。
やっぱり野球止めるの名残惜しいわよね…。」

おばさんはとても悲しそうな顔をした。
息子の大好きなものを奪ってしまうのだから。
潤が大事だからこその決断なんだ。


「潤は大丈夫だよ。」

そう言って、俺は学校へと向かった。






日が傾いてきて、空全体が茜色に染まる。

潤を連れて早く帰ろう。
夜になっちまう。


グラウンドを覗くと、野球部がいつも使っているベンチにひとり。



後ろからこっそり近づいて驚かすか。
務めて明るく。


そぉっと表情を伺うと…、

「泣いてねぇじゃん。」

俺の声に上を見上げる。


「んー、泣いてないよー。」

「お疲れさん。」

「うん、疲れたね。」

「暑かったな。」

「うん、夏だからね。」

表情も変えずに淡々と受け答えをする。



「落ち込んでねぇの?」

「なにが。」

「負けちゃって、さ…。」

「みんな頑張ってくれたからね。
ニノがいないのを必死にカバーしてくれたし。」



なんだよ、俺の思惑と違うじゃん。

「泣かねぇの?」

「泣かせたいの?」

逆に聞き返してくるとは。



「泣いてたら慰めてやったのに。」

「どうやって?」

「こうやって…。」
 
次に潤が言葉を発する前にそっと唇を重ねた。




繋がりを解けば、ビックリ顔で固まってる。

「潤?」


ハッとして恥ずかしそうに顔を背ける。

「な、慰めるって…そういうこと?」

「落ち込んでなきゃキスできねぇじゃん。
だって南ちゃんは落ち込んでる達ちゃんにキスしたんだろ?」

「なに影響されてんの!?
しょおくんは男でしょ!」

「関係ないね。
好きな子にキスして慰めるのに男も女もないだろ。」

「好きな…ひと…?」

「うん、ずっとお前のこと好きだった。
あ、だったじゃねぇな。」

俺は真っ直ぐ潤の目を見て言った。


「好きだ。」


瞬間、おっきな潤の瞳からボロっと大粒の涙が落ちた。




「ごめん。驚かせて。
泣かせちゃったな…。
嫌だよなぁ、男からの告白なんて。」

「ばかぁ!!」

「へっ?」

「しょおくんのバカ!
ずるいんだよ、いつもタイミングが!」

ずるい?タイミング?
なんのこと?

「えっと、タイミング違った?」

「好きだよ!僕もしょおくんが好きだよ!!」


え?これって告白されてる?
涙目ですごい睨まれてるんですけど…。


「勝ったら言おうと思ったのに…。」

「勝たなかったら?」

「わかんない。」

「あぶねー、俺から言わなきゃいつになったかわかんねぇじゃん。」

「けど、やっぱり好きだから言っちゃってたかも。」

「かも、とかやめて。言えよ。
てことはさ、俺ら両想い?」

「僕にそれ聞くの?」

いつの間にか潤の涙は止まっていて、その代わりにうっすらと膜の張った瞳はウルウルとしていて…


「なぁ…、」

「ん?」

「キスするときは目、閉じない?」

「…っん……、」


ゆっくり近づいて、二度目のキス。

やっぱり目は開いたまんま。




「お前、目ぇ閉じろっ、て……、っ!?」

ぐいっと引き寄せられた潤からのキスに今度は俺の目が開いたまんま。

ちくしょ、やられた。


「やったな。」

「お返しだよ。」

いたずらっ子のような笑顔にキュンとくる。
これからもどんどん好きになっていく。

そんな予感がする。




「帰ろう。俺達の家に。」

「うん!」

手を差し出すと、迷いなく繋がれる君の手。
そのまま繋いでいこう。ずっと。


君の夏は終わってしまったけど、俺達はここから始まっていくんだ。


俺の夢に君を連れてくから。







おわり