翔side



帰り際に潤の家の前で立ち止まる。

潤の自転車。

帰ってきてることは確かなようだ。



家に帰ってから夕ご飯を食べ、自分の部屋に戻って、ふと考える。

なんか腑に落ちない…。


わざわざ待っていたのに先に帰るだろうか?
潤は何のために待っていたんだろうか?

何かあった…?



気になって部屋になんかいられない!

俺は潤の家へと急いだ。




ピンポーン
……カチャ

「あら、翔くん。」

「こんばんは。いつも夜にごめんなさい!
潤は…」

「あ!翔くんもらった?
昨日一生懸命作ってたから、少しくらい大目に見てやってね。
初めてなくせに自分でやるって聞かなくて。」

「え、あ…っ…」

「いつも仲良くしてくれて、助かってるのよ。
それだけ翔くんのこと大好きってことね。
バレンタインにチョコレートあげたいだなんて…ふふっ、あの子らしいけど。」


チョコレート…?
なにそれ…聞いてないし、ましてや貰ってもないよ。

まさかそれで俺を待ってたのか?


「で…潤は?」

「それがご飯もいらないって、部屋からでてこないの。
チョコレートの味見しすぎて気持ち悪いって。
学校、大丈夫だったのかしら。」

「俺、様子見てきます!」

「そう?もしかして寝てるかもしれないわ。
胃薬渡したんだけど…。」

「お邪魔します!」


なんか嫌な予感がするんだ。
なんか違和感を感じるんだ。


コンコンとノックしても潤からの応答はない。

そっとドアを開けて部屋の中に入ると、ベッドの上で丸まる潤の姿。

相変わらず整頓された部屋だから、気づいてしまった。


ゴミ箱に赤い箱。


キレイにラッピングされたままゴミ箱にあるのが異様だった。

それを拾ってそっと机の上に置く。



潤はやっぱり眠っているようだが、やっぱり違和感。

潤の長いまつげに残る水滴。
頬に触れると微かに冷たい。

泣いていたことは明白だ。



どうして…?
何があった…?


「ん…」

そのまま触れていると潤はみじろぎ、うっすらとまぶたが開いた。

「悪い、起こした?」

「えっ!あっ、しょおくん?ど、して…?」

ガバッと起き上がり、ふいに俺から距離をとる。

なぜだ…。
心無しか俺を拒絶しているようでもある。

気に…いらない。


「お前、なんかあった?」

「あ…、やっ!」

キスできるくらい近づくと、今度は完全に逸らされた。


「なんだよ…。
俺に近づかれんの嫌なのかよ。」

「ちがっ…!」

「じゃあ、なんだよ。
俺、言われなきゃわかんねーよ!」

避けられたことに苛立って、思わず怒鳴ってしまう。

そうじゃない。
本当は優しく話を聞いてやりたいのに。



潤は俯きぐっと唇を噛み締める。

キス………してた。」

「へっ!?」

「キス、してたっ!
部室で!女の子…。
僕はもういらないの…?
男だから…もう必要ないっ?」


なんてこと言うんだよ。
マジ…何言い出すかと思えば…。


潤の腕をグイッと掴んで引き寄せる。
再び潤の頬を濡らす涙に顔寄せ、その涙を吸い取るようにキスをする。


「俺が好きなのは潤だけだよ。」