「…は?」
私は呟いた。
目の前にはダイヤの指輪。
パッカーンと開けられたジュエリーケースの中で、そいつが偉そうに鎮座ましましてる。
「えっと…だから…」
目の前で恋人である、優人が困ったように目線を外す。
私はその横顔を見据えながら、尋ねる。
わざわざスーツを着て、ホテルにディナーなんて珍しいことあるもんだ、と思っていた私が鈍かった。
「結婚…って言った?」
優人は小さく頷く。
私は、ため息をついた。
結局いつもこうだ。
毎回毎回。いつも、こう。
やってられんわ。
怒りが沸々と沸いてくるのを感じながら、出来るだけ冷静に言った。
「…じゃ、別れよ」
「えっ」
優人は、目を大きく見開く。
「一番最初に話したよね? 結婚しないって。結婚したいなら、優人のこの時間は無駄になるから、付き合わないよ、って。忘れた?」
「えっ、そうは言ったけど、だけど」
「だけどじゃない!!」
自分でもビックリするほど大きな声で怒鳴っていた。
穏やかに談笑していた、周りの空気が凍りつく。
ヒソヒソとこちらを伺うような雰囲気に、居たたまれなくなった私は、蹴るように席を立った。
「帰る」
「え」
「帰る。約束こんな形で破られると思わなかった。もう、会いたくない」
自分の分の金額をテーブルに置くと、呆然とする優人をそのままに、エレベーターに乗り込んだ…。