こんにちは、培養部です。

少々前になってしまいますが、5月に第65回日本卵子学会学術集会でPGT-Aについて講演があり勉強になったのでブログにまとめたいと思います。

 

体外受精が保険適用になってから2年以上たちました。

理由はともかく、PGT-Aは保険適用になりませんでした。

今回、発表されていた施設のARTのデータの一部によれば以下の点が指摘されていました。

・保険適用前後でPGT-Aの実施割合は大幅に減少していた。

・臨床成績として、保険移植回数の制限により平均移植胚個数は増加し、妊娠率が増加したものの、流産率も増加してた。

このような事から、「やはり流産回避にはPGT-Aが必要ではないか?」ということが問われていました。

 

PGT-Aについて整理してみます。

1)PGT-Aとは?

PGT-A(着床前染色体異数性検査)は、体外受精によって得られた受精卵(胚)の一部を生検し、染色体の数に異常がないかを調べる検査です。

2)PGT-Aの目的は?

PGT-Aの正常胚を移植することで流産を減らし、移植当たりの妊娠率を高めることが目的です。

3)PGT-Aの適応は?

PGT-Aの検査対象は、胚移植を2回以上行っても妊娠しなかった不妊症の夫婦や、流産の経験が2回以上ある不育症の夫婦、とされています。

4)PGT-Aの成績はどの程度か?

日本産婦人科学会が行ったPGT-Aの特別臨床研究では全体の移植当たりの妊娠率は68.8%、流産率は10.4%と妊娠率の改善、流産率の低下が示されており、とくに母体年齢が高い患者において効果があるという報告がでています。

PGT-Aを実施することで、流産リスクを下げ妊娠率を上げることは妊娠への期間を短縮するメリットがあると言えるでしょう。

 

一方で、問題点もいくつか生じてしまいます。以下に示してみます。

1)移植可能胚が得られなくなることがある

検査結果により約60%が異数性、約半数が移植可能胚を得られなかった周期であるという報告もあり、正常胚がなければ採卵を繰り返す可能性があります。

2)胚生検による侵襲性

胚生検によりダメージを受けて妊娠率や流産率に影響する可能性があります。

3)モザイク胚という結果の移植の判断が難しい場合がある

生検した胚の一部と胚全体の核型の不一致が生じ、正常胚だったものが異数性と判定されたり、その逆も起こりうる

検査の精度も100%ではないため、検査上の限界があることがPGT-Aの難しいところです。

4)コストが高額になる

PGT-Aを行う際は採卵から移植まですべて自費診療であるため、費用面の懸念があります

 

PGT-Aのメリット・デメリットを考慮し、PGT-Aを実施する際は適応について慎重に検討する必要があるとされています。

 

※「PGT-Aの適応について慎重に検討すべき」と言われても、、、 

上記の質問が飛んできそうです。

先述の通り、PGT-Aの適応は一般的には、反復着床不全症例や不育症例の方となります。

しかし、PGT-Aを実施している当院としては、上記の適応の患者様の中に、PGT-Aが有効な方もいれば、成果を得ることが難しい方もいるというのが現在の認識です。さらに細かい「適応と要約」が望まれているのではないかと考えています。このことについては今後データを集積し発信していかなければならない情報と思います。(データがまとまり次第公開します!) 

 

また胚の一部を採取することは培養士にとってプレッシャーのかかる大変な作業です。最近では胚の培養液や胚盤胞腔内液中に存在する胚由来のDNAを解析することで染色体情報を解析する非侵襲的PGT-A(niPGT-A)の研究も進められ注目されています。臨床応用にはまだ至っていませんが、今後研究が進んで、妊娠、出産につながる技術が確立されることに期待したいです。