「美人だけど…けどなー。」
「スタイル良いけど…けどな。ははっ。」
「一緒に歩くには最高だよな!…けどな…。」
何よ…。
『けどな』って。
その後に続く言葉が想像出来て、褒められてる気がしない。
そもそも、褒めてんの?
なんで周りの女の子は嬉しそうなのよ。
勝手に盛り上がっちゃって。
「実彩子、超美人だもんね!」
「スタイルも良いし!」
「それでいて、学年トップの成績だし!」
羨ましいなんて笑う子たちの本性はバレバレ。
そんなセリフになんの意味も無い。
なんで私…ここにいるのかな…。
耳に響くカラオケの音に、頭が痛くなってきて席を立った。
「実彩子、どうしたの?」
「帰る。」
そう言い残して重いドアを開けようとノブに手をかける。
ガチャ
「ひゃ…」
手をかけたノブが動いたかと思ったら、力強く引っ張られて変な声が出た。
「おっと。」
バランスを崩した私の腰を、バランスを崩す原因が支える。
「お、宇野。」
「日高くん…。」
近過ぎる日高くんの瞳を、避けるように顔を逸らした。
「あれ?日高、来れたのかよ。」
「先輩に呼ばれたって言って無かった?」
ちょうど途切れた歌の合間に友達が話し出す。
「ははっ、サクッと終わらせて来た。」
そう答えると日高くんは私の方を向いた。
「で?宇野は帰るの?」
「あ、うん。」
「なんだよ。早くね?」
「そう?」
大きな瞳と男らしい腕から逃げると、心の奥がチクリと痛んで…。
来るならもう少し我慢してれば良かった。
なんて、私らしくない考えが頭をよぎる。
「じゃ、送るよ。」
「は?」
「なんだよ、間抜けな声出して。」
「いいよ。せっかく来たのに。」
大丈夫だからと言って、荷物を肩にかけ直して歩き出した。
「いいよ。俺が送りたいんだから。」
私の肩から荷物を奪うと、日高くんも並んで歩き出す。
ちょっと満足気に見える横顔。
私は諦めてついて行った。
「ははっ。」
無言で駅に向かっていると突然日高くんが笑った。
「なに?」
「いやっ、なんでそんなに怒ってんのかなーと思って。」
「え?」
「なんかあった?」
心の中まで見透かされそうな瞳に街灯の光があたってキラキラしてて…吸い込まれる前に目を逸らす。
「別に。」
ドキドキ高鳴る心を見せないように、さっきよりも早歩きで駅に向かった。
「ふっ。」
「何よ。」
「いや、別に。」
私の言葉を真似するみたいにそう言って笑顔を見せるから…。
うっかり心の声がもれて…。
「私って可愛くないの。」
「ん?」
しまった。
「宇野?」
立ち止まってしまった私を顔を日高くんがのぞき込む。
ぺちっ
「うわっ、なんだよ。」
「見るな。」
うっかり本音を吐いてしまった私の表情は見られたくなくて…。
日高くんの形の良いおでこを軽く叩いた。
「痛いな。」
「痛くないでしょ。」
「で?」
「へ?」
「誰が『可愛くない』んだって?」
「うっ。」
聞き流して欲しかった言葉をあっさりと聞き返してくる日高くんを思わず睨む。
優位に立ったような笑みを浮かべる日高くん。
そんな笑顔でもドキドキしてしまう自分に少し悔しくなりながら…。
「私。」
聞こえてたでしょ、と素っ気なく返してまた歩き出した。
「宇野は可愛いよ。」
え?
後ろから聞こえた言葉に動きが止まる。
「宇野は可愛い。」
もう一度そう言う日高くん。
『けどな…』
脳内で再生される。
どうせそう続くんでしょ…。
さっきの友達とのやり取りを思い出し、目を閉じてため息がもれた。
「宇野。」
「うわぁ。」
目を開ければ目の前に日高くんの大きな瞳。
「どうした?」
「べっ別に!日高くんこそどうしたのよ!」
「俺?」
『宇野は可愛い』
だなんておかしな事言い出して…。
「どうせ、『けどなー』なんて続くんでしょ!言ってる方は悪気はないかもしれないけど、言われた方は地味に傷つくのよ!」
「宇野?」
完全に八つ当たり。
日高くんは全然悪くないのに…わかっているのに止まらなかった。
「宇野。」
何もかも理解したような日高くんの優しい声が耳元でして、私は抱きしめられてる事に気づいた。
「ちょっと!」
トゲトゲした心までまるごと抱きしめられたような、心地よい腕の中に焦って真逆な態度をとって逃げ出す。
「アイツらに言われたんだろ『けどな』って。」
「…なんでわかるのよ。」
「その先に続く言葉もわかるよ。」
お得意の笑顔を見せて、勝ち誇ったようにそう言った。
そんなの私もわかるわよ…。
『可愛げ無い』とか『つき合いにくい』とか続くんでしょ。
わかってるけど、そんなに簡単に直せない。
「俺のだから。」
「は?」
「なに間抜けな声出してんだよ。」
「今、なんて?」
「だから、宇野は俺のだから。」
「ちょっ、ちょっと待って…何言ってんの?」
ますます笑顔になる日高くんをまじまじと見つめる。
少し耳が赤いのに気づいて、なんだか安心した。
日高くんの言葉に嘘はない。
「俺が『宇野は俺のだ』って言ってるから…。」
『美人だけど…けどな…日高のなんだよなー』って事。
なんて簡単に説明する日高くん。
「効果あったみたいだな。」
大きな瞳を細めて笑う日高くんにつられて笑いそうになるけど…。
「いやいやいや!ちょっと待って!私、いつ日高くんのになったのよ!勝手な事言わないで!」
「もう手遅れ。」
「ちょ…」
勝ち誇った顔で距離をつめてくる日高くんを睨む。
「宇野。」
「なによっ。」
「ざまぁみろ。」
「なっ!」
「ははっ。」
くるりと軽やかにターンして、私の前を歩く日高くんの大きな背中に…心地よい胸のときめきを感じて…。
「宇野?」
立ち止まった私に、日高くんは男らしい手を伸ばす。
「日高くん…。」
この手を掴んで良いのかと、伸ばされた手を見つめた。
「ふっ。」
口角を上げて笑ったかと思えば…。
何万回と見たような
夢の元にお連れしましょうか
この声が突破口さ
目を逸らさずにおいでお嬢さん
ぼっとしてっちゃtime so over
ほらどうした?さぁ行こうか!
あれもこれも俺もその全てを
賭けた君だけの為のshow time
リズムよく日高くんの口からこぼれる言葉に心が熱くなる。
「日高くん…」
「何度でも言ってやるよ。」
「ん?」
「宇野に…全てを賭ける。ははっ。」
なんて、急に照れくさそうに笑う日高くんの横顔に…背伸びしてキスをした。
「う、宇野っ?」
「そんなに私に夢中なのね。」
「は?」
驚いている彼に…。
「ざまぁみろ…。」
そう呟いて抱きついた。
終
