同居をやめてから拭き掃除が
好きになりました。
とにかくどこでも拭きます。
拭いて拭いて拭くのです。
汚れを落としたい時は
そこらへんにある洗剤をつけて磨きます。
同居をやめると決めた時、
物を大量に捨てることと
徹底的な掃除を同時に行っていました。
新築で購入したマンションでしたが、
這いつくばって床をスポンジで拭くと、
洗剤をつけていないのに泡が立ちました。
あまりに汚れが落ちない時は
メラミンスポンジでこすると
スポンジが真っ黒になり、
すぐに小さくなりました。
驚きました。
驚いた後に、涙がこぼれました。
「こんなになるまで
放っておいてごめんね。」
「荷物が重かったでしょう。」
「長い時間苦しい思いをさせて、
ないがしろにしてごめんね。」
床に頭をこすりつけるようにして
謝りながら磨き、
壁をさすって、
辛かったね、
ごめんねごめんねと
泣きながら拭いていたことだけを
覚えています。
全てが徹底的に汚れていました。
徹底的に回復させたくても
長年の蓄積を元に戻すには
膨大な時間がかかりました。
多分、私は私に謝っていたのだと思います。
家にいたいのに家にいられず、
こんなズタボロになるまで
放っておいたこと
気づいていたのに
気づかないふりをしてきたこと
傷つきたくないから
心を麻痺させてきたこと
拭いて清めることは、
同居解消を
無事に遂行させる儀式のようなものでした
取り憑かれたように掃除をしていると、
「あんたどうしたん?
よう、そんなんできるな。」
少しだけ笑って義母が言いました。
鬼気迫る私の様子に
何かしらの覚悟を感じていたのかも
しれません。
最後には、
義母は全てを受け入れて出て行きました。
最後まで一言も私には謝りませんでした。
「上手ではなかったかもしれないけど、
私は私のできることをすべてやりました。
上手くできなくてすみません。
子供たちを可愛がってくださったこと
ありがとうございました。」
謙虚にして尊大な私の言葉より
絶対に謝らない、という意志のもと
立ち去った義母の方が、
正直で、人間くさく、
立派だったようにも思います。

