みなさん、おばんです。
中華料理の一流シェフに仕立て上げられた北朝鮮工作員パク・ナムル(偽名ルゥリィドゥ)は、LAで中華レストランを営むリィ一家に招かれただ。
ソコで、初めて麻婆豆腐を食べて、雷が落ちて感電したように心身ともマルコゲになったパクは、厨房に立ちすくんだだ。
パクは、麻婆豆腐がマズかったことにショックを受けただけじゃなく、単純に、何をすればいいかわからなかっただ。そこで、「まずは、この店の味を知ってからじゃないと、料理を作る気になれないな」と口からでまかせを言い、フィアンセのミシェル・リィのパパが作る料理を味見することにしただ。しかし、彼は、一切の中華料理が口に合わず、もちろん、料理も作れず、自分をこういう状況に陥れた当局を恨んだだ。
一体、北朝鮮の諜報を指揮する幹部は、自分に何を期待しているのか、わからなかっただ。何故に、自分が、中華料理店で働かなくてはならないのか、そして、フィアンセまであてがわれなくてはならないのか。それらが、諜報活動の隠れミノとして、自分の身分を保障してくれるのか、はなはだ疑問だっただ。とにかく、ココから逃げ出したい一心だっただ。しかし逃げようにも逃げられず、「うーむ、なるほど、この味はまさしくLAスタイルですね」などと知ったふうなことを言って場を白けさせ、自分でもゾッとして、それに身体が反応したのか、自分でも気付かず、変な後ずさりをしていただ。
そんなパクの挙動不審な様子を見て、フィアンセのミシェルは冷たく笑って「今の、もう一回やって見せてよ」彼に声をかけタダ。
パク「え?何?」
ミシェル「今、変なステップを踏んだでしょ。滑るような、バックステップ」
パクは、無意識にしていた自分の動きを指摘され、確かに、元いた場所から離れつつあることを知っただ。逃げたい心が自分にパックステップを踏ませタダ。床を滑るような変な後ずさりを。
ミシェル「ちょっと、外に出て、わたしにも教えてよ」
パク「いやー、けど、まだ仕事中だから・・・」
とパクは言い、ミシェルのパパの方をチラっと見やっただ。するとパパは、パクとミシェルを交互に見やりながら、「明日、ウチの味を参考にして、料理を作ってくれよ。今日は、疲れたろう。ゆっくり休んでくれ」と、半ば呆れ顔で言っただ。
期待どおりの言葉を聞いて、パクは、ひとまずこの場を切り抜けられたことに安堵し、初日から幾度も窮地を救ってくれたミシェルが頼もしく思えタダ。
それから、ストリートに出たパクとミシェルは、滑るような変な後ずさりをして、しばらく遊んだだ。
このとき、変な後ずさりをする2人を、店の前の道路を走る車から見ていた若いオトコがいただ。そのオトコは、後に、2人のパックステップを参考にして、あるダンスを生み出しただ。それが、ムーンウォークと呼ばれるようになったとは、パクとミシェルには知るヨシもなかっただ。