皆さん、おばんです。

 

違う違う違う違うそうじゃなーい♪

 

わたし「え?違うの?」

 

女の声「そう。違います。似て非なるものです。いえ、似てるけど、違う人物です。わたしはルーシーの双子の姉のカーリー、カーリー・ルーです」

 

カーリー・ルー?マジか?ルーシーのねーちゃん?

 

カーリー「そうよ。わたしは今、わけあって、あるところに囚われているのよ。だからこういう形でしかあなたに姿を見せられないの」

 

わたし「そうですか。で、わたしに何か用でもあるとですか?」

 

カーリー「あるわ。そのカレーに触っちゃダメ、絶対!」

 

わたし「へ?何で?」

 

カーリー「そのタッパーのカレーは、イミテーションよ。精巧に作られた、カレー型のプラスチック爆弾なのよ」

 

わたし「ばばばばばくだん?」

 

カーリー「そうよ。そこに衝撃を加えると、信管に作動して爆発する仕組みなのよ」

 

わたし「ママママママジで?あぶねー。やばいじゃん。やばいじゃんコレ。何でこんなものをジョンは作ったのだ。そして何でまた鎌田さんに持って来させたのだ?アノ野郎、ホれた弱味につけ込んで、鎌田さんを利用しやがって!」

 

カーリー「その、カマタ、というヤカラは知らないけど、ジョンの目的はただ一つ、イスラムの信仰を拠り所にして、自分の存在を世界中に知らしめることなのよ。そしてそれは、あなたやわたし、その他大勢の世界中に住む何十億人のひとりひとりの人間の存在の根源と尊厳を示す方法だと思っているのよ。アメリカやヨーロッパの各国に対する攻撃は、そのための手段でしかないのよ。けど、彼のやり方は、間違っている。手段を選ばない方法では、彼が求める目的は達成できない。ましてや、何の落ち度も無い市民を犠牲にして得られる尊厳などありはしない。

 

本当は、彼だって、ソレをわかっているのよ。わかっていて、止めることが出来ないの。止めたら、彼は、自分じゃなくなると思っているから。テロリズムが、自分自身の存在理由だと信じこんでいるから。

彼は、それ以外の方法を知らないの。だから、それ以外の方法を指し示して、教え導いてあげなきゃならないのよ。彼はきっと苦しんでいるはずよ。どうすればいいかわからないのよ。それは、彼と親交があった、わたしの妹、ルーシーも知っていた。だから、彼の意識を暴力とは違う方向へ向けさせようとした。暴力に訴えない、平和的な方法で彼の魂を暗闇の底から引き上げようとしていた。命がけで。けど、結局、出来なかったのね。ジョンの魂は、メルトダウンして溶け落ちたデブリのように彼の暗闇のソコにへばり付いて誰にも取り除けないのよ。ソレに、下手に触ろうものなら、その人の命が危ぶまれる。ルーシーはその犠牲者なのよ。

 

ジョン・ロトン、いいえ、モハメド・スレイマンは、生まれながらに魂を悪魔に売り渡した男よ。彼は、MI6からの情報はもとより、日本でスパイした情報をイスラム原理主義のカゲキハソシキに伝えていた。その情報の正確性はともかく、ソシキとのツナガリは、ジョンの立場を危うくした。ジョンも、覚悟の上だったようね。MI6が見逃すはずはないわ。

 

情報漏洩が、しかも敵対するソシキへのソレが上層部にバレたことを察知した彼は、すぐに逃げ出す算段を立てた。そのときの逃走手段に、ルーシーを利用した。ジョンは、自分が得た情報を彼女が盗んだように見せかけて、彼女に罪を着せたのよ。彼女を、追っ手をかわすための時間稼ぎに利用したのよ。

 

彼が行方をくらましてる間に、ルーシーは、むごたらしい殺され方をしたのよ。北朝鮮スパイの内部抗争に仕立て上げられて。MI6のエージェント、ジャック・プラントにバットで何回も叩かれ突かれ、痛めつけられて。それでも彼女は、ジョンのことをかばった。最後まで口を割らなかった。それが何故だかわからない。

誰かのために死にたかったのかも。誰かの愛のために。

 

ルーシーが拷問されている間、ジョンはいっときでもルーシーのことを考えたろうか、と想像してみる。考えもしなかったろう。彼は自分のことしか考えることが出来ないエゴイストよ。血も涙も無い、暴力しか信じない、最後は腕力が強い方が勝つと信じて疑わない冷徹な人間。わたしはそんな彼を愛したルーシーを想うとかわいそうで、だけど悔しいから、涙を流すまいと決めている。感情は冷静を損なう。わたしは冷徹に彼を追い詰める。そして、暴力とは違う、もちろん、権力や、経済力でもなく、腕力で弱者を従属させるような方法じゃない方法で、つまり、親和力で、共感力で、あなたやわたしの、世界中の人間の根源と尊厳を世界中に示す。できる。わたしはできる。だって、あなたやわたしはそれほど違わないと思っている。違うけど、そんなに違わない。それを信じきれるかどうか。わたしは出来ると信じている」