はい、昨日予告した通り「空が鳴っている」は今日はお休みさせて頂いて。
今日はもうすぐ七夕だし、「空が鳴っている」自体がキリのいいとこなので
前の小説「花吹雪」の番外編として描かせてもらいます。
「七夕の夜の夢(たなばたのよのゆめ)」
「花吹雪」のあの結末の後に迎えた七夕の設定です。
「花吹雪」がわからない、どんな話だったけ?って方は目次へどうぞ → ★
ではいつものように拙く、キャラ崩壊あり、お目汚し確実です。
それでも宜しければどうぞ。
今朝、平助が「七夕祭りをやろう」と提案した。
屯所の中庭には平助が取ってきた笹が立てられていた。
千鶴と斎藤は器用に笹飾りを作っていく。
そんな様子を沖田は縁側の柱にもたれながら見ていた。
「沖田さんも何か願い事書かれます?」
笹飾りを飾り終えた千鶴が短冊と筆を差し出す。
「僕はいいよ」
その誘いをやんわりと断る。
「なんだ、総司。お前書かねーのか。よし、俺が『風邪が治りますように』って書いといてやる」
「新八さん、そんな願い事書かなくていいから」
眉間に皺を寄せながら笑う。
平助が永倉の書いた短冊を見る。
「どれどれ…しんぱっつぁんの願い事…『金がたんまり欲しい』… …やらしくね?」
「ばっか!金がなきゃ飯もたらふく食えねぇし、島原にも行けねーだろうが」
「やっぱりな…。お前の願い事なんてそんな事だろうとは思ったぜ」
原田が横で溜め息をつく。
目線を移すと、沖田と同じ縁側に腰を置いてブツブツと何やら呟く男が一人。
「土方さんは何をお願いするんです?」
沖田が問いかける。
「んあ?いや…」
ばつの悪そうな土方。
「まさか俳句を短冊に書こうとしてないですよね?」
ニヤニヤと土方を見つめる。
「…」
動きの止まる土方。
「まぁ、そんなことしても土方さんの俳句が上手になるとは到底思いませんけど?」
「総司、てめぇ…」
土方は沖田を睨み付けた。
そんな会話に割り込む斎藤。
「総司、向上心があることは良いことなのだぞ。大体、副長の俳句の良さをお前は何故わからん。
例えばこの句などどうだ…」
「…斎藤。いい。いいんだ」
「しかし副長、お言葉ですが総司は副長の俳句の良さを全く…」
「斎藤っ!!…言わなくて…いいんだ…」
口元を真一文字に結ぶ土方。
そのやり取りに沖田は声を出して笑った。
風呂から上がり沖田は縁側で夕涼みをする。
辺りは暗くなり、星が次々と闇に浮かんでくる。
風がそよぐとサラサラと笹の葉の擦れる音がする。
『七夕…ね』
『彦星と織姫が年に一度会える日…だっけ…。
僕が会いたいのは一人しかいないけど』
部屋に戻り、横になった沖田はいつの間にか眠りについていた。
真夜中。
ふと目を覚ます。
天井を見ていると、部屋の中にある気配があることに気づく。
その姿を認識した途端、ガバッと上体を起こし、目を見開く。
「…美桜?!」
正座して目を伏せていた美桜の目がゆっくりと開かれていく。
「美桜…なのか?」
ぼんやりとした光を纏っている美桜はゆっくりと微笑んだ。
「…僕を迎えに来たの?」
目を伏せ小さく首を振る美桜。
「美桜…、お盆はまだ早いと思うんだけど…」
沖田の言葉に目を開き、美桜は口元に笑みをこぼした。
「…会いにきてくれたんだ?」
美桜はそっと微笑んだ。
「そっか…」
沖田は小さく息を吐いた。
「…もっと…近くに来てくれない?」
美桜は沖田の横に腰を下ろした。
沖田の横で微笑む美桜。
沖田は片手で自分の顔を覆った。
『夢か現か…』
深い溜め息をついて、美桜を見る。
「…触れて…いいのかな」
恐る恐る美桜の手を触る。
美桜の存在はそこに有った。
だが体温は感じない。
冷たくもない手。
ただそこにあるだけ。
髪に触る。
頬に触れる。
美桜の唇を指でなぞる。
「はは…」
沖田は下を向き自分を嘲笑した。
しばらくの沈黙。
「…美桜がいなくなった後にね、千鶴ちゃんが言ったんだ。…また会えますよって」
「僕はそんなの微塵も信じていなかったんだけど、
この状況じゃあ信じざるを得ない…よね」
美桜の手を引き、抱き寄せる。
…沖田にとって媚薬のような、美桜の匂いがしない。
美桜の顎を持ち上げ、その唇に口付けを落とす。
美桜がふわりと笑う。
美桜を抱き締め、首筋に顔を沈める。
「…声が…出ないんだね…」
美桜は小さく頷いた。
美桜と向き合う。
「美桜、僕はね、美桜が僕の名前を呼ぶ声が好きなんだ。
勿論、抱いた時の君の啼く声も」
美桜は少し寂しそうに笑った。
「…そんな顔しないで」
「僕らは…生まれ変わったらまた会える。
そんな気がするよ?美桜もそう思わない?」
美桜は笑う。
「その時にはまた僕を呼んで?」
美桜は頷いて口元に笑みを浮かべた。
「もう少し僕の我が儘に付き合ってくれる?」
「僕が眠るまで傍にいてくれる…かな」
美桜は優しく微笑む。
沖田と美桜は共に床に入る。
沖田は緩く美桜を抱き、
美桜の胸元にそっと顔を沈めていた。
ぽつぽつと話はしたものの、
いつの間にか沖田は眠りについた。
朝になり目を覚ますと美桜の姿はなかった。
『やっぱり夢だったか…』
沖田は朝飯を取るため、廊下に出た。
廊下で千鶴に出会う。
「おはようございます!沖田さん」
「おはよう、千鶴ちゃん」
千鶴は沖田を見て不思議そうな顔をしていた。
「沖田さん、頭下げてもらってもいいですか?」
「何?」
「髪に何かついてます」
沖田は頭を垂れた。
千鶴はそれを取り、沖田に見せた。
「花びらがついてましたよ?」
目を見開く沖田。
千鶴は沖田の手を取り、掌に花びらを乗せた。
「…これは…桜?…織姫様に…会われたんですか?」
「…みたいだね」
千鶴の言葉に微笑み、空を見る沖田。
突き抜けるような青空が見下ろしていた。
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はい。どーなんでしょ。どーだったんでしょうか。
昨日、お知らせした記事に付いた皆さんからのコメントに
言いようのないプレッシャーを感じましたwww
ラストを変更しましたw
「花吹雪」は自分の全部を注ぐつもりでかなりストイックに描いたお話なので、
その雰囲気を壊してなければいいなと思います。
明日からは「空が鳴っている」になります。
こちらも終盤に差し掛かります。
みふゆ