森戸知沙希さんの卒業式は、午後6時から始まります。はからずも昨日私は、地元映画館のライブビューイングのチケットを購入してしまい、そのときが来るのを仕事しながら待つことになります。しかし、心中は穏やかならざるところがあり、はたして本当にそんなところへ行けるのか自らの振る舞いに疑問が生じてまいります。
なぜならば、私はこのようなファンブログを開設してこの方7年もの歳月を経ようとしているのに、なんといまだにモーニング娘。のオタクであることを誰にも言えず秘密にしているからなのです。まったくここまで徹底した小心者である私が、あろうことか地元映画館のライブビューイングに参加しようなんて、断崖絶壁からバンジージャンプをキメようとするそんな心持ちなのです。わざわざそんなところまで行って、死ぬか生きるかの危険極まりない行為をなぜしようとするのでしょうか。答えはひとつしかありません。ちーちゃんの卒業式はそこでしか見ることができないからです。
ちーちゃん・・・最後のカントリーガールズ。嗣永桃子さんのラストコンサートもライブ配信で見させていただきました。山木梨沙さんと小関舞さんの最後の握手会にも参加させていただきました。であれば、森戸さんの卒業式は絶対的にその時その場に立ち会わなければ嘘になります。必然的に私はその断崖へ赴き、大海原に向かって意を決しなければなりません。午後6時。その時間に間に合わせるためには、職場を定時に出れば十分間に合います。いや、ちょっと待て。それじゃ間に合いすぎではなかろうか?きっと館内は明るく照らされていることでしょう。だったら照明が落ちた午後6時過ぎが適当なのではなかろうか、でもコンサートが始まってたらどうしよう・・・いろんな思いが交錯し、私は午後6時3分に館内入りすることに狙いを定め、仕事の段取りをつけます。
そしてその時がやってまいります。計画通り仕事を終え、指定時間に地元映画館の駐車場に到着します。さて、ここから変装しましょう。まずはいつものメガネを外し、コンタクトをつけます。髪の毛もフワッとナチュラルな感じにして、キャップを目深にかぶります。でもってTシャツとハーフパンツに着替え、サンダルばきとなります。さあ、どうでしょう。鏡に映った自分はたぶん自分ではありません。いざ出陣でございます。
映画館のロビーには、もうすでに誰もいません。なんとなく気が急いてまいります。ぎこちなく自動券売機でチケットを受け取ります。なんとなくそのときお金を払わなかったことが疑問になります。ネット予約のとき払ったっけ?記憶にありません。もうそんな些末なことにかかずらう時間などありません。急いでチケットを握りしめ、カウンターのスタッフに差し出します。彼はにっこり笑って、私の後方を指し示します。どうやらここじゃないようです。振り返ると、なるほどそれっぽい感じで、スタッフが待ち受けています。早足で進み、そのスタッフにチケットを渡して館内に入ります。ところで何番スクリーンだったっけ。もう一度チケットに目を落とし、その番号が示す案内表示を探します。ああここかと独りごち、もう一度チケットと照らし合わせ、入ろうとするも当然ドアは固く閉ざされており、はたして勝手に開けていいものか躊躇します。するとそこへスタッフがスッと入ってドアを開け、私を招じ入れます。
軽く会釈して中に入ると、一瞬にしてすべてが暗闇となり、大スクリーンに白っぽい衣装を纏った女性たちが踊っていることがわかります。コンサート1曲目青春Nightのイントロ部分です。モーニング娘。’22のライブビューイングがこの映画館で行われており、そしてさらにわざわざ時間に遅れて館内に入ったのだから暗闇であることは先刻承知であり、スクリーンに彼女たちが映し出されることは分かりきったことなのですが、あまりの状況の変化に私の頭は混乱します。なぜ映画館でモーニング娘。が踊っているのか不思議でなりません。暗闇に目が慣れると、座席のほとんどが埋まっていることがわかります。マズイすぐに座らなければ。予約したときの座席表がよみがえり、私が選んだ座席と一致する座席がぽっかり穴が開いたように空いています。しかし、その列にズラッと並ぶひとたちは全員が女性。おそらく20代から30代。たぶん後方の席にも女性がいるのでしょう。急いで座席に座り、後の人に邪魔にならないよう座高を低くし、両隣にも迷惑かけないようちぢこまります。その状況はいよいよ私を緊張させ、もはやモーニング娘。どころではありません。
となりの方が控えめにペンライト振っていることがわかります。色は白色です。森戸さんのメンバーカラーです。わかるのはそれだけです。ふだんパソコンやテレビで見ているモーニング娘。が映画館のスクリーンに映っていることに現実感がなく、また折りからの緊張状態でまったく曲が頭に入ってきません。それは2曲目One•Two•Threeでも、3曲目Teenage Solution、4曲目Chu Chu Chu僕らの未来になっても変わりません。しかし次の5曲目で転機が訪れます。邪魔しないでHere We Go!です。この曲は2017年10月にリリースされた64枚目のシングル、佐藤優樹さんと森戸さんのダブルセンター曲となります。同年6月にカントリーガールズ解体問題が勃発し、森戸さんのモーニング兼任が発表、あれよあれよと彼女にとって怒涛のような日々が過ぎ、このセンター曲はそれからわずか4箇月後のこととなります。当時、佐藤さんと森戸さんが織りなすダンスに魅了され、何度もこの曲を繰り返して視聴したものでした。とすると、その森戸さんの相手となるのはいったい誰なのでしょう。印象的なイントロとセリフパートが始まります。尾形春水さんのセリフを横山玲奈さん、飯窪春菜さんのパートを石田亜佑美さんが担当します。そして森戸さんの横には、北川莉央さんがいらっしゃいます。
北川さんといえば、美人で歌が上手で、聡明なメンバーです。どう考えたって人気が出て不思議じゃありません。さてその彼女が、佐藤さんのパートを引き継ぐ、いや違います。森戸さんもいなくなっちゃうのだから、この曲を一手に引き受けることとなります。この曲の真骨頂は複雑なフォーメーションダンスにあります。そしてその中核たる存在が、かつての佐藤さんであり、森戸さんなんだろうと思います。それをダンス未経験で加入した北川さんが引き継ごうというのですが、いったいどのように踊ってくれるのでしょう。残念ながらライブビューイングでは、彼女のダンスのありようはよく分かりません。しかしながら、曲の最後にふたりが向かい合い、互いの顔を引き寄せる場面で北川さんは、少し頭を引いて反動をつけ素早く森戸さんの顔目掛けるさまは、あたかも佐藤さんのようです。
つづく数々のダンスナンバーは、どれも低音のビートがクローズアップされ、モーニング娘。がただのアイドルグループと一線を画する存在であると分かってきます。多くのロックファンが、モーニング娘。の音楽に魅了されることはもはや不可逆的化学反応といえます。そうした意味でライブビューイングは、その魅力を最大限余すことなく表現してくれます。自宅のパソコンやテレビのスピーカーなどその前では消し飛んでいきます。圧巻はやはりメドレーでしょう。本当に素晴らしい。すべてのロックファンにモーニング娘。の音楽を教えてあげたい、とそう思わせてくれます。その音楽を作り上げているのは、モーニング娘。のメンバーに他ならないのですが、なかでも野中美希さんが頭ひとつ抜きん出ます。
彼女達のEDMサウンドを語る上で絶対に外せない名曲があります。2014年1月リリースの55枚目シングルWhat is LOVE?です。曲中、佐藤さんが放つIs it necessary?という言葉は多くの人々に衝撃を与え、さらにコンサートごと変化する彼女の魅惑的なダンスによって、ファンの数も急増しました。その重要パートを今回野中さんが担当します。佐藤さんなきグループにおける野中さんの立場はいかなるものとなるのでしょう。今日の、モーニング娘。のとりわけ今私が着座する座席列のすべてが20代から30代の女性が占めるように、実にたくさんの女性ファンの心を掴んだのがその一言であったといって過言じゃないのです。野中さんの振る舞いひとつによって、彼女たちの心が離れる可能性だってあるのです。少なくとも野中さん自身そのように感じていたはずです。さて、こうした状況下にあって彼女はどのように舞うのでしょう。
この曲における佐藤さんパートは、第一にAメロ終盤の「平等でしょうか?」と歌う部分です。それを野中さんは、リズムに合わせて大きく頭を振って横移動し、さらに逆方向に頭を振ります。そのとき彼女の目は一瞬白目を剥いて気が触れたような表情となり、最後に伏し目がちにまっすぐとカメラを見据え「平等でしょうか?」と歌います。これはいったいなんなのでしょう。彼女の視線には、恐ろしささえ感じます。そしてBメロ終盤の問題パートに差し掛かります。今度は彼女は、カメラに向かって指を差します。彼女の目は何かを訴えています。佐藤さんが疑問を投げ掛けるものであるならば、野中さんのそれは糾弾といえるでしょう。そんなこと必要ないだろ!とまるで叫んでいるようです。そして2回目の重要パートとなります。今回メドレーの中で歌われており、これで最後となるのですが、やはり野中さんが担当します。彼女は1回目とは異なり、右手を腰にあて大きく頭を傾げて、戻すその反動でリズムをとります。そのときの歌唱は、これまで見たことのない、実に猥雑で暴力性を持ったものです。佐藤さんのパフォーマンスに魅了された多くの女性ファンたちはどのように感じたでしょう。彼女はカワイイなんて言葉とはまったく対極に位置します。ひょっとするとあまりに刺激が強過ぎて敬遠する向きも出てくるのかもしれません。しかし私は評価したい。佐藤さんという偉大な存在に対し、野中さんは敢然と立ち向かい、イーブンどころか勝利したのではなかろうかと。
ところで、森戸さんの卒業ライブは、いわば佐藤さんと同じ形式でした。通常、モーニング娘。の卒業ライブでは、本編が終わった後、卒業者は卒業のための特別な衣装に変わります。そしてメンバーひとりひとりがメッセージを語って卒業者に花束を渡すということがセレモニーとなっており、そこでお涙ちょうだいというのが定番となっていました。しかし佐藤さんはこの定番を拒否します。そういうことが苦手だからということだそうですが、それが当たり前、モーニング娘。の伝統だということをいとも簡単に変えてしまうというところがまさしく佐藤さんらしいとなっています。それがいいのか悪いのか分かりませんが、でも少なくとも彼女の卒業ライブはまさしく彼女らしい素晴らしくかつ感動的なものであったことは間違いありませんでした。そしてその形式を森戸さんは継承します。おそらくそれは森戸さんが望んだことなのでしょう。今回も通常ライブ同様、メンバーひとりひとりが感想と森戸さんへのメッセージを語ります。その中で異彩を放ったのが、牧野真莉愛さんでした。
彼女はメッセージを話す前に、まず右手の人差し指と中指を立てて、自分の額につけます。いったいなんのポーズなのでしょう?私はまったく分かりません。そしてマイクを口元にもってきて「バイバイ、みんな」と声を掛けます。本当に意味不明です。そうしたかと思ったら今度は表情を変え、「ぶぅ〜ふっふっふっ〜、あと10秒〜この勝負引き分けに終わったんだ〜」と言います。おいおいこれって森戸さんへの卒業メッセージのはずでしょう?そして彼女は額に指をつけるポーズでシュッと言ってジャンプしたと思うと、また表情を変えて右手を伸ばし「悟空〜!」と叫びます。ドランゴンボール?これってアニメのパロディなのか。彼女は額に指をつけるポーズでシュッと言ってジャンプして、ゆっくりと森戸さんを見ます。その森戸さんはステージ上で転げて笑っています。笑い転げる森戸さんに牧野さんはあたたかな視線で見つめて「ここまでよくやったなあ、ちーちゃん。かあさんに、すまねえと言っとていてくれ。勝手なことばっかしちゃって。グッバイ、ちーちゃん」と言ってキメ顔を見せます。なんとこれが牧野さんのメッセージのすべてです。
きっと観客席で佐藤さんは例のバカ笑いをしていたことでしょう。でも意味が分からなかったら、またとなりの人にこれ何?って聞いてたかもしれません。佐藤さん形式だったからこそ、牧野さんもこうしたパロディを披露したのだと思うのですが、そう考えるとまったく佐藤さんは大変なことをしでかしたもんです。涙の卒業セレモニーを完全に笑いの場に変えちゃったわけですから。牧野さんが森戸さんを慕っていることは、メンバーならずともモーニング娘。オタであるならば誰もが知っていることです。サヨナラを言う機会なんて、あえて卒業ライブじゃなくともいつでもできるのです。だから唯一の卒業ライブは最高に楽しく、笑って終わりたい。佐藤さんの意図はそうしたところにあり、森戸さんも牧野さんも同意だったわけです。
えっと・・・今回結構長々と書かせていただきましたが、やはりこうした何かのイベントに参加して、ブログを書くという行為は結構楽しい。というわけで、今後も機会を見つけて更新していきたいと思います。さて、チョコミントでも買ってきましょうか。