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「来ます……!」
 ミヤギは、前方から、邪悪な意志が迫るのを、はっきりと感じ取った。
 ヘントも、さすがに感じたらしい。ミヤギの機体を庇うように半歩、ガンダムを前に出した。
 暗闇の中、ミヤギは、照準を絞ると、眼前に稲妻が走った。
「2機です!」
『伍長、信号弾をあげろ!ミヤギ少尉の掩護もだ!』
ヘントも感じたらしい。ミヤギが感知した、右翼の方向に機体を進めた。そちらの近くにはイギーの小隊も進んでいる。信号弾に気付けば、挟み撃ちにできる。
 ミヤギは、正面のプレッシャーに備える

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(見つけたぞ、キョウ・ミヤギ!)
 闇の中から、凄まじい殺意が自分に向けて放たれる。
 砂漠の戦いで感じたものより、ずっと強い。まともに受け取ってしまい、体の内側から破壊するような痛みがミヤギを襲った。
 あの時は、複数の敵から向けられた殺意が、今回はたった一人から向けられている。だというのに、あの時の、数百倍は痛い

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「ジン・サナダ——!?」
 頭に響いたのは、確かに彼の声だった。果たして、暗闇から赤いガンダムが姿を現し、傍にいたジムを撃ち抜いた。ヘントのガンダムをかわすと、ビームライフルは撃たず、機体をぶつけ、組み付いてきた。
 ミヤギは、強すぎるプレッシャーで動けない。
 砂漠の時と同じだ——。
「ヘント!!」
 あの時と同じように、彼に、助けを求めた。
 瞬間、時が、止まった——。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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(何を恐れている?)

 止まった時間の中で、ジンの声が響く。

 出撃前の、虚で危なげな雰囲気はなく、しっかりとした、意志のある声だ。
 愛する者を守る、戦士のような。
 そうだ、まるで——
(ヘント・ミューラーか。俺の中に、ヘント・ミューラーを感じたな?)
(違う!彼は……あなたとは違う!!)
 魂が、ジンの言葉を否定する。
(違わない。俺もアイツも、お前を愛している。)
(何——何を言う!?)
(俺もアイツも、お前の中の崇高な魂の輝きと、世界の理に触れるその力に惹かれたんだ。)
(何だと……?)
 激しい嫌悪感が、胸の内で鎌首をもたげるのを、ミヤギは感じた。
(わからないのか、同じものに惹かれ、その存在を求める。これは魂の性質の一致だ!)
(くだらない……戯言を言うな!!)
感じたことのない怒りが、ミヤギの胸に湧き上がる。
 一緒にするな、彼は、そんなものを見ていない。
 彼が見ているのは、わたしという、人間だ。
 彼は、ニュータイプではないわたしも愛してくれる。
 いや、はじめから、ニュータイプではない、"わたし"を愛している。
 お前は……お前は——
(ジン・サナダ、お前は——"わたし"を見ていない!!)

 ミヤギの叫びに、一瞬、ジンの魂が揺らぐのを感じる。しかし、すぐにまた、攻撃的な意思が跳ね返ってきた。

(違うな、俺こそが、お前の本質を愛している!)
 ジンの気配が、邪悪に膨らんでいくのを感じる。
(お前は今、俺を憎んでいる。その感情と同質のものが、俺の原動力だ。嫌悪と憎悪が、ずっと俺を形作ってきた。お前も今、その憎しみを力に変えて俺を討つつもりだったな?分かるか?この共鳴の中で、お前の魂は、俺の魂に染まりつつある。)
(ふざけるな——っ!)
(お前の魂は美しかった。仲間を思いやり、チームの規律を重んじ、皆と共有した目的のためにその命を捧げられる、完璧な兵士だった。俺はこの憎悪を、自分の邪悪な魂を隠すために、お前の魂の輝きを模倣してきた。)
(何を、言っている——!)
(だが、もういらない。俺にはカルアがいる。俺たちニュータイプの魂は、こうして溶け合って、全てを分かり合える。力を共有できる。お前は、この共鳴の中で滅べ。ヘント・ミューラーとは共有し得ない、この魂の共鳴の中で滅び、永遠に俺とカルアの力の一部となれ!)
(貴様——っ!)
 邪悪な気配が、ミヤギの魂を蝕もうとしている。
 ミヤギは、魂への傷が、現実の肉体を侵していると感じた。コクピットで、ヘルメットの中、思わず嘔吐する。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「キョウ!動け!!」

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 ヘントのガンダムが、レッドウォーリアに横合いから体当たりを喰らわせる。
 ミヤギは、魂の痺れとも言うような、邪悪な意志に絡め取られる感覚から、解放される。ヘントの意志が、ミヤギの心を包みこむのを感じた。

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「すみません、一旦退がります!」
 ミヤギは、吐瀉物で汚れたヘルメットを脱ぎ捨て、ぐい、と口許を拭った。失神しかけていたらしく、視界がふわふわと揺れる。
『スコット、キョウを掩護しろ!』
ヘントが短く指示する。いつの間にか、イギーとスコットの隊が合流していた。もう1機、見慣れないジオンの機体と切り結ぶジム・ストライカーと、それを援護するジムが見える。
 スコットの小隊が、ガンキャノンの周りを固める。
「すみません、少し、時間をください……失神しかけました。」
 息も絶え絶えに、通信を送る。
『ならもっと後ろに退がれ、こいつらは俺たちで抑える!』
ヘントが叫ぶ。
 2機とは言え、敵は、強い。この局面で役に立てない自分が、ミヤギは悔しかったが、ヘントの判断は的確だ。従うべきだ。
「……すみません!」
 回復すれば、必ず、と言い、素直に指示に従った。彼の力になるには、今はこの判断がベストだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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「待て!」
 ジンは追い縋ろうとするが、白い、骸骨のようなガンダムが行く手を阻んだ。
「邪魔だ!」
 力づくで突破しようと試みるが、絶妙な位置からライフルを撃ちかけては離れ、また近づきと、巧みに邪魔をする。派手な動きではないが、合理的で、粘り強い堅実さを感じさせる。面白みもない上に、対峙すると、ただただ苛立ちを煽られるようだった。
『行かせない!』
 連邦制の"友軍機"なので、通信が生きている。不愉快な声が耳に入ってくる。
『抵抗するな、殺したくない。』
冷静に言いながら、今度は、背中のガトリングを撃ちかけてくる。
 殺したくない、だと——?
 勘違いするな。
「狩る側は俺だろうが!」
 レッドウォーリアのビームライフルは既に銃身が焼き付いていた。武装はビームサーベルしか残されていないが、こいつごときはそれで十分だ。

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 距離を詰めて切り掛かると、ヘント・ミューラーはライフルを捨て、サーベルで受けた。判断が速い。
「キョウ・ミヤギを壊した後に、お前もちゃんと壊してやる!退がっていろ!」
『承諾しかねるな……!』
 ビームサーベルの鍔迫り合いになる。激しい閃光が、視界を遮る。
『ジン!』
 背後から、カルアの気配が迫る。あちらも、手練の機体に足止めを喰らわされていたが、うまくかわしてきたらしい。
 ヘント・ミューラーのガンダムと一度、距離を取り、カルアの機体にレッドウォーリアを寄せる。
「やるぞ!」
ジンは叫んだが、直後、その視界は眩い閃光に包まれた——。

【#38 All you need is ... / Dec.10.0079 fin.】





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今回、ミヤギさん、酷い目にあってばかりです。ミヤギさんごめんなさい。
そして、ヘントが強すぎる気もしますが、たぶんあっさりやられたジオンの人たちとは機体性能が違うのでしょう笑

ガンダムだからビーム兵器もあるし、ジンも警戒してるとかかな?

ジン、カルア側も、ビームライフル系は焼き付いていて、ビームサーベルとかしか残ってないんです、たぶん。そういうことにしておいてください。あと、愛の力です笑




では、予告です。































次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

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#39 THE SHADOW PHANTOM



獣の、運命は——。



なんちゃって笑

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

次回のお越しも心よりお待ちしております。

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