”サイドウェイ”は予想通り素晴らしい作品だった.。低予算の作品であるのに、ゴールデングローブ賞、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストン、シカゴなど多くの都市の映画批評家協会賞の作品賞をそうなめ にした 。鑑賞後になぜか納得できた。この作品はアメリカ人に愛されるすべてを備えた映画といえるだろう。アメリカ人に愛されるべき映画の特徴を洗い出し、それをすべて計算ずくで実現させたと考えさせられるほどに、すべての成功要素が詰まっている。”アバウト・シュミット”の監督アレクサンダー・ペインは現代アメリカ映画界で最高の監督の一人といえるだろう。


1.スーパーマンのようなヒーローでなく、多くの人が感情移入できる、さえない、人生の落伍者が主人公である点、2.いい奴だけど駄目な主人公と、悪い奴だけどもてる親友との誰もがうらやむ固い友情、3.ネガティブ思考の、頼りない主人公が、ポジティブ思考、力強い人物へと変わっていく点、4.美しく、知的なヒロインの存在と、5.そのヒロインとわれらのさえないヒーローとのハッピーエンド、6.アメリカ人にとって最も欠かせない笑いはたっぷり、7.3人の主要な登場人物が、その性格設定も、役者の演技も、すべて素晴らしい。これ以上に何が必要だろう?


まず主人公のマイルスだが、スーパーマンどころか、これほど情けない主人公も珍しい2年前に分かれた妻への未練が捨てがたく、彼女の再婚話を旅の伴侶の親友ジャックに告げられると、ショックで錯乱し、ワインをラッパ飲みしながら坂を駆け下りるシーンは、本当におかしくて、いつまでも、いつまでも笑える名シーンだ。その夜の、ジャックがアレンジしてくれた、ずっと以前から気に入っている、ワインに造詣の深い、美しい、マヤとの4人での飲み会。しかも彼女はマイルスに気があり、離婚したことまで分かっている。離婚後初めての、素晴らしい出会いのチャンスだ。(持つべきものは友だ)この最中にも目の前の美しいマヤのことよりも別れた妻のことが気にかかり、食事中席を立つと妻に電話をかけ、おめでとうというどころか、どんどん絡んでいき、墓穴を掘っていく!!その後席に戻るとワインをがぶ飲みし、むせ返る酔っ払いのマイルス。本当に情けなくて、目をおおいたくなるシーンだ。その後のマヤの友人ステファニー家での2次会で、バルコニーでワイン論を語り合う二人。” ピノ・ノワールは扱いが難しい、しかしうまく扱えば最高なものが生まれる、だからピノが好きだ”と語るマイルス。”ワインは生きていて、日ごとに熟成してピークを迎えるが、その後は徐々に下り坂になる、その味わいが人生と同じで、ワインに惹かれた”と、マイルスの腕に手をかけながら語るマヤ。私のようなワイン好きにとっては、キスをして、その後プロポーズしたくなるような最高のラブシーンだ。こんな相手にめぐり合い、こんな雰囲気になったなら。ところがマイルスは、キスどころか、”どの品種か忘れたが、その品種も捨てがたい”とか語りだす。完全なトホホ状態で、アメリカの映画館ならみんながオーと叫んで頭を抱えているのは間違いないそのほかにも自分の小説の出版が駄目になったことを知り、ワイナリーでワインをがぶ飲みし、大暴れをして、追い出されるシーンなど、情けないシーンには事欠かない。

親友のジャックはかつては人気のTVシリーズにも出演していた、典型的な軟派男、というか獣に近い。アメリカ人にはいつも”ホーニー”と叫んでいるこうした男がたまにいる。頭の中はSEXしかない。だけど憎めないキャラというところか?この超ポジティブ、マイペースの軟派男と、超ネガティブ、駄目男がなぜ親友なのかは最後のほうで分かる。間男をしたところを夫に見つかり、裸で逃げ帰ってきたジャックの、間男をした家に忘れた身分証明書入りの財布をとってきてくれという無謀な要求に、見事に応えるマイルス!二人のかけがえのない友情が、笑いと共に読み取れる感動的なシーンだ。

ヒロインのマヤの美しさ、聡明さ、強さはアメリカ人の理想だろう。大学教授夫人という地位を捨て、しがない英語教師のマイルスを好きになるマヤ。夫と別れた理由が、大きいワインセラーを持ち、うんちくを語る夫が偽者だと気づいたからだという。金にあかせて高いワインを買い求め、高い頭脳でウンチクを語る偽者のワイン好きは日本にも多いだろう。ブランドにこだわらず、本当に味を分かっているワイン好きは少ない。マヤのその言葉に、私は一瞬で恋をした、彼女は本物だ。マイルスはお金はないが、ワインにかけては本物だ。ワインに奥深さを見出し、ワインに人生を委ねようというマヤがマイルスを好きになるのは、理論的にはおかしくはない。

しかし、残念ながら、現実にはこうしたことはまずありえないだろう。ワインを趣味にとどめず、ワインに人生をかける人は少ないだろう。また、情けないマイルスを選び、ワインに関しては偽者でも、成功者である、きれものであろう大学教授を捨てるような人物もなかなかいないだろう。アレクサンダー・ペイン監督も大のワイン好きだということだから、非常によく理解できるが、マヤがマイルスを愛するのは、ワインラヴァーにとっての、そうなってほしいというフェアリー・テールに他ならない。

マヤのような女性と出会えていたら、私も独身生活に別れを告げていただろうに。

アビエイターは、一言で表すと、”一つのことに人生をかけた一人の男の物語”といえるだろうかハワード・ヒューズにとってはそれが”空への、飛行機による挑戦”だったのだろうハワード・ヒューズは実業家、映画監督、プレイボーイとしても著名であるから、もちろん一言で言い表せるような単純な人間ではない。しかし、この映画ではヒューズの空への情熱のみに焦点を当てているので、非常に分かりやすく、誰もが楽しめる映画となっている。”ラスト・サムライ”も手がけた脚本家が非常に優秀だと感じた
一度きりの人生で、何か生涯をかけて追い求めるものを見つけられた人は、非常に幸せであろうヒューズが空への挑戦を成し遂げることができたのは、もちろん父から莫大な遺産を引き継いだこともあるだろうが、それ以上に、空への情熱が並大抵ではないことのほうが遥かに大きいだろう試作品の、飛行実績のまるでない、世界ではじめてのタイプの飛行機の試験飛行を自分で行うことなど、ただのお坊ちゃまにできるはずなどない
ヒューズは新型機の作成に全く妥協せず、莫大な時間と資金をかけ完成させると、自ら乗り込み、世界最速記録を打ち立てるその成功に満足せず、次にはリンドバーグの世界一周記録に挑戦し、これを破ってしまう史実では1年ずれているのでどうも嘘らしいが、映画では、この記録的飛行中に無線で指示を出し、次の夢である航空産業への進出まで果たしてしまうーTWAの買収であるーその空への情熱は誰にも止められない

この映画で観客がヒューズに引き付けられるのは、やはりこのヒューズの情熱がまぎれもない本物だからだろう。多くのハリウッド女優と浮名を流し、冒険家としても、実業家としても成功しているヒューズは挑戦をやめようとしない。なぜその成功によるステイタスに満足しないかといえば、それは、空への情熱が止まらないという一言につきるだろう普通の人である観客には真似ができないから、それだけ引き付けられるのだろう。特に開国以来フロンティア精神にあふれるアメリカ人がヒューズを英雄視するのは当然だろう

TWAの社運をかけた双発機の試験飛行でビバリーヒルズに墜落、九死に一生を得るが、心臓が左から右に移ってしまうほどの大怪我を負う その逆境の中で、精神病も誘発した状況で、パンナムと組んだ上院議員から、TWAを売却したら汚職を公開しないという誘いをかけられれば、それに乗らない人物など現代のこの日本に存在するのだろうか?そうした状況でも彼は屈せず、法廷で闘い、見事に勝利を収める。そこにあるのは、莫大な私財を投じてまで、ビジネス上まるで意味のなくなった巨大な飛行機を飛ばしたいという情熱だけである。そこにアメリカ国民も共感したから勝てたのである多くの見せ場のあるこの映画で、その巨大な飛行機の離陸シーンと並んで最も感動的なシーンが、この法廷での勝利のシーンだろう

数あるヒューズの恋人の中でも、強く、個性があり、知的なキャサリーン・ヘップバーンとの恋に焦点があてられている。ケイト・ブランシェットの演技が素晴らしい二人が惹かれあうきっかけとなる真夜中の空中飛行デートは、息を呑むほど美しい。映画で最も好きなシーンだ精神的に双子のような彼女との別れで、ヒューズは徐々に精神を壊していくそして、精神的にずたずたになったヒューズを立ち直らせるのが、エヴァ・ガードナー。彼女は母親的な描かれ方をしている。二人が選ばれたのは、この二つのタイプがアメリカ人の理想の女性像であるからだろう。このヒューズの恋愛もこの映画の楽しみの一つだ

しかし、レオナルド・ディカプリオがオスカーをとれなかったのは本当に残念だ彼はヒューズの情熱と狂気を見事に演じきっている。最初に彼に出会ったのは”ギルバート・グレイプ”だったが、レオの演技は素晴らしく、印象にいつまでも残っていた。マーティン・スコセッシのヒーローはデ・ニーロからダニエル・デイ・ルイスへ移り、”ギャング・オブ・ニューヨーク”でレオへと移っているスコセッシに認められるということはオスカーをとれるということに他ならない。この二人の新コンビの次回作が今から楽しみであり、このワクワク感は、デ・ニーロ=スコセッシの次回作を待っていたときの気持ちと全く変わらないこの二人のコンビのレベルは少なくとも私の中ではそこまで来ているのだが

ケネス・ブラナーの新作は、スランプに陥った子供嫌いのイギリス人の戯曲家が、よりによって子供との交流により新しいスタイルを見つけ、スランプを克服するというハートフル・コメディ自らも脚本を書き、舞台に長く関わってきた彼にまさにぴったりの役子供嫌いのピーターが、ロビン・ライト・ペン演じる子供を欲しい妻の策略で、脚の不自由な向かいに越してきた少女エイミーを紹介される。最初は会うのも嫌がっていたピーターが、戯曲に必要な子供の気持ちを理解するために彼女に近づく。そうしたよこしまな心で近づいたピーターだったが、次第にエイミー(親が別居していて父親がいない)と本当の親子のような交流を深めていくその中で起こるいろいろな事件をエピソードとして進行する、本当に愛すべき、心温まるコメディ映画

この映画で笑えるのは、やはりイギリス人であるピーターが、L.A.になじめずに悪戦苦闘するところ煙草を自宅で吸ってて、家政婦に叱られるシーンなど”なぜ自分の家で煙草を吸えないんだ”というイギリス人のアメリカ人への風刺が伝わってくる愛犬家が多いアメリカで、ほえてうるさい隣人の犬を、”うるさくて眠れないから殺してやる”といったジョークは受け入れられず、それどころか殺された犬の”殺犬者”として投獄までされてしまうピッキーなピーターにとって、隣人付き合いの大切なアメリカでの生活は苦痛に近い、特に子供との付き合いは

こうしたアメリカで生きていく上での問題点も、エイミーとの交流で克服されていく。子供のような純粋な心を持ったピーターは、子供であるエイミーにより大人になっていくのが微笑ましい

L.A.に移住したイギリス人の芸術家としてはデビット・ホックニー が有名だ。風刺好きで、すぐにイギリスと比較して”アメリカは変だ”と言い張る、典型的なイギリスの知識階級であるピーターのような人物が、文句をいいながらも西海岸を目指すのは、やはりそれだけ気候に惹かれるということだろうかホックニーの絵もイギリス時代は非常に暗く、重かったが、L.A.に移住後は、ご存知のように非常に明るくなった

イギリス文化とアメリカ文化の違いを知る上でも、おすすめの一本だ