イヤホンが壊れた


壊れた


切れたんじゃなく

聴こえなくなったんじゃなく

壊れた

そうして彼は別のものになった

そう


壊れて、なお働いてくれる


僕が何か別の用途で使ってるわけじゃない

イヤホンとして使ってる


彼はイヤホンの中でも他にない能力を持った


いや、その能力しか持たない存在になった


彼を今後はこう呼ぼう



”ヴォーカルキャンセラー”



彼はVocal Canceler


どの曲が入力されてもヴォーカルだけは決して出力しない


ギター、ドラム、ベース、コーラス
こいつらは快く聴かせてくれる


そういう存在


ヴォーカルキャンセラーという存在


僕のイヤホンがそういう存在になった


どういう理由か

誰がそうしたのかは、さだかではないが


僕のイヤホンはあらゆる楽曲からヴォーカルだけを選んで消す。


さながらカラオケ


ほんともうカラオケ


歌う練習できちゃう


回線がどこか切れたか、接触不良を起こして、


イヤホンってどんなものでも半分だけ音源に刺すとそうなるらしい


ヴォーカル消すらしい
やろうと思えば無かったことにできるらしい


彼は無意識に消してしまう
意図的にでなく


彼が、僕のイヤホンが、
そういう存在になった





「そんな奴がいるわけないだろ」
「なんだそのつまらない嘘」
「にわかには信じ難いですねえ」
「誰が信じるんだそんな存在」
「頭イカれてんだろ」


聞こえてくる

そういった声が聞こえてくる
暴言、罵倒
心が折れそうになる


でも彼ならこんな声だってきっと消してくれる


そういう存在