喫茶店でモーニング食べ終えると、風音は礼司と別れ、もう少し136号線を南下して
野菜を買いに行く。
この辺りは直売場もいくつか有るので、とれたての野菜が比較的安く手に入る。
少し形がいびつだったり、一部が虫に食われていたって食べられないわけじゃない。
でも、都会では不自然に真っ直ぐで、大きさも揃った野菜ばかりだった。
平日はバイトが有るし、学業も有るので土日に色々と料理を仕込んでおかないと
外食やコンビニばかりになってしまう。
そうなると、バイクの維持にもお金がかかるので、生活も厳しくなる。
どうせ作るなら、一気に多めに作る方が料理も美味しく出来上がる。
独り暮らしにはスーパーでの販売単位では量が多すぎてもてあます事も多い。
そんな事を考えながら風音は調理を進める。
切り干し大根を煮ている出汁汁も、礼司の家で大きな鍋で出汁を取り、
製氷皿で凍らせて冷凍庫で保管してある物だ。
切り干し大根が煮汁を十分に含み、煮汁が少なくなると、いくつかの冷蔵庫保管用容器に
小分けすると、コンビニ袋に2重に包み、マジェスティの準備をする。
煮汁がシート下のスペースにこぼれたら泣くに泣けない。
礼司の家は、先程の箱根に向かう国道1号の途中に有る。
元は、貸ガレージと喫茶店が併設された建物だったらしい。
それを安く借り受けて一人で住んでいる。
古いバイクと車の改造や、海外から色々なものを輸入して売ったり、逆に輸出したり。
礼司の家に着くと、風音はガレージに併設された、元々喫茶店だったスペースのドアを開ける。
鍵はかかっていない。
カウンター、薄型テレビとDVD、様々なバーベル、サンドバックが置かれているスペースの片隅にある
冷蔵庫に、ホウレンソウのおひたしや、切り干し大根の煮物の容器を納める。
端っこにおかれているロッカーにおいてある作業着に着替える。
勿論、礼司の厚意によるものだ。
マジェスティに戻ると、礼司が水道に繋がったホースとバケツをガレージから出してきていた。
大分納まったとはいえ、風音のマジェスティには花粉の跡が残っていた。
住んでいるマンションではマジェスティを洗うことはできない。近所にコイン洗車場が有るにはあるが
車用で使いにくい。
カーシャンプーをバケツに少量垂らすと、礼司はホースから勢いよく水を流し込み、一気に泡立てる。
今度は水流を霧状に切り替えてマジェスティをゆっくりと湿らせて行く。
これだけでも一瞬黄色い水が流れる位、花粉が付着しているのだ。
先にタイヤや足回りをブラシでざっと洗うと、バケツの水面に浮かんだ泡をスポンジですくい取るようにして
ボディを洗っていく。
泡を洗い流すと、納屋のコンプレッサーから引っ張ってきたエアホースで隙間に残った水を飛ばす。
風音がボディを合成セーム皮で拭きあがている間に、礼司はタイヤの空気圧を測り調整する。
干支一回り以上離れた礼司との関係。
これを他人に説明するのは非常に難しいのだ。
でも、簡単に言えば、”頼れるバイクの先輩”なのだろう。