寂しい夜空を一匹のツバメがヨタヨタと飛んでいました。
まだ子供だったツバメは小さな小枝に止まりました。
巣立つのが早すぎツバメの子はまだ産毛が体にところどころ付いたままでいました。
「僕の仲間は何処にいるんだろう。」
ツバメは飛び立とうとしましたが、うまく飛び上がれません。
一生懸命羽ばたいたけれども、木の幹の草むらに落ちてしまいました。
「ああ、僕はまだ飛べないんだ。」
ツバメは草むらの中でそう思いました。
見上げると白い月が蒼い夜空の中で浮かんでいました。
ツバメはふと自分が転げ落ちたお家を思い出しました。
お母さんや、お父さん、兄弟たち。
全くの偶然にツバメは巣から転げ落ちたのです。
「ここはどこなんだろう。お腹が空いたなあ。」
そのまま、ツバメは眠ってしまいました。
次の日の朝、真っ暗な中にツバメはいました。
「ここはどこなんだろう。」
ぱっと光が差し込んで見たこともない大きな顔が覗き込みました。
それは人間の男の子でした。びっくりしたツバメは飛び上がろうとしましたが、そこは箱の中で上には網が張られていました。
そっと網が外れると男の子はツバメのくちばしの先に虫を差し出しました。
「あ、ご飯だ!」
ツバメはお腹があまりにも空いていたので一生懸命虫を食べました。
男の子はそっとツバメの頭を撫でるとまた網をかぶせました。
そして、ツバメは安心したかのように、その日はぐっすりと眠ったのです。
何日が経ったでしょうか。
ツバメはお腹がすくとピィピィと鳴きました。
そうすると、男の子が虫をくれました。
ツバメはお腹が一杯になって嬉しかったけれども、どこかで仲間のことを懐かしく思い出していました。
「僕はどこにいるんだろう。僕のお家はどこなのかなあ。」
ツバメは、ふと、箱から出てみたくなりました。
くちばしで網をつついて外して箱の外へひょっこりと飛び出しました。
そこは、草も木もない不思議な世界でした。箱の外はまた大きな箱のようでした。
男の子はいないようでした。
どこか懐かしい声が聞こえてきました。
そちらの方向を見ると明るい日差しが差し込んでいて、懐かしい青い空が見えました。そこには仲間たちが飛び交っているのが見えたのです。
「あ、お母さん、お父さんかな?」
ツバメは空へ向かって飛び上がりました。
でもそこには見えない硬い壁があって、ツバメは床に落っこちてしまいました。
それでもツバメは見えない硬い冷たい壁を這い上がるように羽ばたいて登りました。しかし、青い空や雲は見えても見えない壁の向こうへは行けませんでした。
『あ、出たダメだよ。』
男の子がツバメを見つけて優しく手の中に包みました。
『そろそろ、放してあげなきゃだめじゃない?ツバメは暖かい国へ行くのよ。』
『でも、お母さん、このツバメは一人ぼっちなんだよ。死んじゃうかもしれない。僕が飼うんだ』
『野鳥の会の人も言ってたでしょ?ツバメは法律で家で飼ってはダメだって。』
ツバメは男の子の腕の中でうとうとしていました。
暖かくて、それはまるで、お母さん、お父さん、兄弟たちといた時のようでした。
「お母さん、お父さん・・・みんな、どこにいったのかな。」
ツバメはぐっすり寝てしまいました。
次の日、ツバメは男の子と川辺の野原にいました。男の子は箱の上の網を外すと、ツバメのくちばしの先に虫を差し出しました。
ツバメはそれをパクパク食べました。
『これはね、最後だよ。今日から自分で見つけるんだよ。』
ふと、雨も降ってないのに箱の中にぽたりぽたりと雫が落ちてきました。
ツバメは男の子を見上げました。この子が雨をふらせているのかなと思いました。
雫の一つがツバメの頭の上に落ちました。
それは雨とちがって暖かい雫でした。
男の子はツバメを両手で優しく包み込むようにして持ち上げると顔を近づけて言いました。
『お別れだよ。元気で飛んで行ってね。ずっと一緒にいたかったけどだめなんだ。ごめんよ。』
ツバメは男の子をじっと見つめていました。
そしてピィと鳴きました。
『さあ、飛んで!さようなら!さようなら』
ツバメはぱっと空中へ投げ出されました。
草むらに落ちそうになる寸前、力いっぱい羽ばたきました。
さっと体が浮き上がると一生懸命空へ向かって飛び立ちました。
『さようなら!』
男の子の声が聞こえました。
ツバメは一生懸命、飛び上がり仲間の大人ツバメの群れに飛び込んでゆきました。
「お前はどこのどいつだ!ここは俺たちの場所だぞ!」
そう言うなり大人ツバメはツバメを突っつきまわし、体当たりをして来ました。
ツバメは何とか木の枝にとまりました。
「ぼくは仲間だよ!」
ツバメはありったけの声でピィーっと二回鳴きました。
そこから見ると箱を抱えて走って行く男の子の後ろ姿が見えました。
それはどんどん小さくなりました。
また一人ぼっちになったツバメは木の枝の上でうずくまって寝てしまいました。
夜になると凄い雨が降っていました。
ツバメは寒くて目が覚めました。
大きな木の上からは滝のように冷たい水が流れ落ちて来ます。
ツバメはずぶ濡れでした。飛び立とうとしましたが、羽が重くて木の枝から転げ落ちてしまいました。
木の根っこの草むらにツバメは落ちてしまったのです。
風がびゅうびゅう吹いていました。冷たい水の中でツバメはいつしかまた眠ってしまいました。
朝になると雨は止んでいました。
でもツバメはびしょ濡れで、寒くて動くことも出来ませんでした。
草むらの中にふとおひさまの光が差し込んできました。
「ああ、あたたかいな。」
ツバメは目を半分開いてじっとしていました。
「もう、だめだよ。ぼくは一人ぼっちだ。」
ツバメは目を閉じました。
その時、風が吹いて枝と木の葉がざわざわとなりなした。
「さあ・・・」
ツバメはその時、声が聞こえた気がしました。
「さあ、飛び立ちなさい。あなたは生きている。二つの羽があるじゃないの。空へ向かって飛び立ちなさい。」
誰の声なのかツバメにはわかりませんでした。
ツバメは目を静かに開きました。
上を見ると青い空と白い雲が見えました。
ツバメは残った力で立ち上がり、羽を広げました。
そして地面を這うように一生懸命羽ばたきました。
「さあ、飛び立ちなさい」
また、声が聞こえました。
ツバメの体は浮き上がりました。
そして、どんどん、どんどん、高く、高く、飛び上がりました。
青い空に舞い上がりました。
「僕は飛ぶんだ。」ツバメはピィーと叫びました。
ツバメはたった一匹で南の空へ向かってどんどん、どんどん、飛んでゆき、やがて青い空に吸い込まれるように見えなくなってゆきました。
あのツバメはどうなったでしょう?
次の春、
あなたのおうちの軒下のツバメのお家を見てみてください。
そこにいる親ツバメがあの子ツバメかもしれませんから・・・・
まだ子供だったツバメは小さな小枝に止まりました。
巣立つのが早すぎツバメの子はまだ産毛が体にところどころ付いたままでいました。
「僕の仲間は何処にいるんだろう。」
ツバメは飛び立とうとしましたが、うまく飛び上がれません。
一生懸命羽ばたいたけれども、木の幹の草むらに落ちてしまいました。
「ああ、僕はまだ飛べないんだ。」
ツバメは草むらの中でそう思いました。
見上げると白い月が蒼い夜空の中で浮かんでいました。
ツバメはふと自分が転げ落ちたお家を思い出しました。
お母さんや、お父さん、兄弟たち。
全くの偶然にツバメは巣から転げ落ちたのです。
「ここはどこなんだろう。お腹が空いたなあ。」
そのまま、ツバメは眠ってしまいました。
次の日の朝、真っ暗な中にツバメはいました。
「ここはどこなんだろう。」
ぱっと光が差し込んで見たこともない大きな顔が覗き込みました。
それは人間の男の子でした。びっくりしたツバメは飛び上がろうとしましたが、そこは箱の中で上には網が張られていました。
そっと網が外れると男の子はツバメのくちばしの先に虫を差し出しました。
「あ、ご飯だ!」
ツバメはお腹があまりにも空いていたので一生懸命虫を食べました。
男の子はそっとツバメの頭を撫でるとまた網をかぶせました。
そして、ツバメは安心したかのように、その日はぐっすりと眠ったのです。
何日が経ったでしょうか。
ツバメはお腹がすくとピィピィと鳴きました。
そうすると、男の子が虫をくれました。
ツバメはお腹が一杯になって嬉しかったけれども、どこかで仲間のことを懐かしく思い出していました。
「僕はどこにいるんだろう。僕のお家はどこなのかなあ。」
ツバメは、ふと、箱から出てみたくなりました。
くちばしで網をつついて外して箱の外へひょっこりと飛び出しました。
そこは、草も木もない不思議な世界でした。箱の外はまた大きな箱のようでした。
男の子はいないようでした。
どこか懐かしい声が聞こえてきました。
そちらの方向を見ると明るい日差しが差し込んでいて、懐かしい青い空が見えました。そこには仲間たちが飛び交っているのが見えたのです。
「あ、お母さん、お父さんかな?」
ツバメは空へ向かって飛び上がりました。
でもそこには見えない硬い壁があって、ツバメは床に落っこちてしまいました。
それでもツバメは見えない硬い冷たい壁を這い上がるように羽ばたいて登りました。しかし、青い空や雲は見えても見えない壁の向こうへは行けませんでした。
『あ、出たダメだよ。』
男の子がツバメを見つけて優しく手の中に包みました。
『そろそろ、放してあげなきゃだめじゃない?ツバメは暖かい国へ行くのよ。』
『でも、お母さん、このツバメは一人ぼっちなんだよ。死んじゃうかもしれない。僕が飼うんだ』
『野鳥の会の人も言ってたでしょ?ツバメは法律で家で飼ってはダメだって。』
ツバメは男の子の腕の中でうとうとしていました。
暖かくて、それはまるで、お母さん、お父さん、兄弟たちといた時のようでした。
「お母さん、お父さん・・・みんな、どこにいったのかな。」
ツバメはぐっすり寝てしまいました。
次の日、ツバメは男の子と川辺の野原にいました。男の子は箱の上の網を外すと、ツバメのくちばしの先に虫を差し出しました。
ツバメはそれをパクパク食べました。
『これはね、最後だよ。今日から自分で見つけるんだよ。』
ふと、雨も降ってないのに箱の中にぽたりぽたりと雫が落ちてきました。
ツバメは男の子を見上げました。この子が雨をふらせているのかなと思いました。
雫の一つがツバメの頭の上に落ちました。
それは雨とちがって暖かい雫でした。
男の子はツバメを両手で優しく包み込むようにして持ち上げると顔を近づけて言いました。
『お別れだよ。元気で飛んで行ってね。ずっと一緒にいたかったけどだめなんだ。ごめんよ。』
ツバメは男の子をじっと見つめていました。
そしてピィと鳴きました。
『さあ、飛んで!さようなら!さようなら』
ツバメはぱっと空中へ投げ出されました。
草むらに落ちそうになる寸前、力いっぱい羽ばたきました。
さっと体が浮き上がると一生懸命空へ向かって飛び立ちました。
『さようなら!』
男の子の声が聞こえました。
ツバメは一生懸命、飛び上がり仲間の大人ツバメの群れに飛び込んでゆきました。
「お前はどこのどいつだ!ここは俺たちの場所だぞ!」
そう言うなり大人ツバメはツバメを突っつきまわし、体当たりをして来ました。
ツバメは何とか木の枝にとまりました。
「ぼくは仲間だよ!」
ツバメはありったけの声でピィーっと二回鳴きました。
そこから見ると箱を抱えて走って行く男の子の後ろ姿が見えました。
それはどんどん小さくなりました。
また一人ぼっちになったツバメは木の枝の上でうずくまって寝てしまいました。
夜になると凄い雨が降っていました。
ツバメは寒くて目が覚めました。
大きな木の上からは滝のように冷たい水が流れ落ちて来ます。
ツバメはずぶ濡れでした。飛び立とうとしましたが、羽が重くて木の枝から転げ落ちてしまいました。
木の根っこの草むらにツバメは落ちてしまったのです。
風がびゅうびゅう吹いていました。冷たい水の中でツバメはいつしかまた眠ってしまいました。
朝になると雨は止んでいました。
でもツバメはびしょ濡れで、寒くて動くことも出来ませんでした。
草むらの中にふとおひさまの光が差し込んできました。
「ああ、あたたかいな。」
ツバメは目を半分開いてじっとしていました。
「もう、だめだよ。ぼくは一人ぼっちだ。」
ツバメは目を閉じました。
その時、風が吹いて枝と木の葉がざわざわとなりなした。
「さあ・・・」
ツバメはその時、声が聞こえた気がしました。
「さあ、飛び立ちなさい。あなたは生きている。二つの羽があるじゃないの。空へ向かって飛び立ちなさい。」
誰の声なのかツバメにはわかりませんでした。
ツバメは目を静かに開きました。
上を見ると青い空と白い雲が見えました。
ツバメは残った力で立ち上がり、羽を広げました。
そして地面を這うように一生懸命羽ばたきました。
「さあ、飛び立ちなさい」
また、声が聞こえました。
ツバメの体は浮き上がりました。
そして、どんどん、どんどん、高く、高く、飛び上がりました。
青い空に舞い上がりました。
「僕は飛ぶんだ。」ツバメはピィーと叫びました。
ツバメはたった一匹で南の空へ向かってどんどん、どんどん、飛んでゆき、やがて青い空に吸い込まれるように見えなくなってゆきました。
あのツバメはどうなったでしょう?
次の春、
あなたのおうちの軒下のツバメのお家を見てみてください。
そこにいる親ツバメがあの子ツバメかもしれませんから・・・・