ここしばらく同じような話題ばかりになってしまいますが、今回も(コストプッシュ型)インフレと円安についてです。これまで主張してきたことの繰り返しになりますが、相変わらず頓珍漢なことばかり言っている人たちが多いので誤りを正しておこうかと思います。それは為替相場と物価を混同してしまっている世論がかなり強くなっていることです。先日ひろゆき(西村博之)氏が数量政策学者の高橋洋一氏(←経済学者ではありません)に食ってかかるという騒動が起きたのでそのことについても触れていきましょう。

 

ひろゆき氏はX(Twitter)などを通して高橋洋一氏がTV番組において「円安上等。1ドル=300円なら成長率20%」 「(外為特会含み益増で)政府が儲けた分を国民に還元すれば誰も文句を言わない」と発言されたことに対し「燃料費・肥料代、輸送費が2倍になるので農作物・水産物の価格は2倍。輸入品の価格は2倍以上。電気代も上がります。国内向けで働く人・公務員・年金受給者の手取りは変わらないので、実質的に半額で暮らす。ホントに学者?」と嚙みついたのです。

ひろゆき氏 高橋洋一氏に「ホントに学者?」1ドル300円上等を猛批判「キリトリ」指摘も返り討ち「小学生でも分かる」(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース

 

 

筆者がひろゆき氏の発言を読んで「おかしい!」と感じたことは為替相場が1ドル=150円から1ドル300円になったときに、物価がそのまま2倍になってしまうと言ってしまったことです。どうも彼はいまのインフレは為替要因が100%であると勘違いしているようですね。筆者はXに「仮に円安が1ドル=300円台に進んだとして、政府が保有する外国資産の含み益も増えることになるわな。あとHろゆきが「物価が2倍になったら」とか言っているが、為替相場と物価を混同しているのは問題。いまの日本における物価上昇は為替要因の関与は思っていたほど大きくないよという話をしてある。 」とポストしました。

 

 

このポストから2日後に森永卓郎氏も筆者と同じ指摘をひろゆき氏にされた模様で、高橋洋一氏と共演されているラジオ番組で「為替が2倍になったら全てのものの価格が2倍になると間違っている、輸入のGDP比はせいぜい2割なんで、こんな簡単な計算もできないのか」と呆れていたとのことです。

 

他にも同じような指摘をされている人がいます。

ひろゆきはやはりバカだった。国民への円安還元は不可能。 - ノーネクタイのMy Way (gunjix.com)

 

 

ひろゆき氏vs高橋洋一氏による1ドル300円の円安肯定論争について。|Y(ワイ)文章を書く仕事とお金でお金を稼ぐ仕事で生計を立てている人。 (note.com)

 

 

自国通貨安は輸入物資の価格上昇になりますので、コストプッシュ型の物価上昇の要因のひとつになることは確かなのですが、それがすべての元凶なのだと考えるのはかなり短絡的な人でしょう。何度か筆者は繰り返し説明してきましたが、現在のエネルギー資源価格や食糧価格等の高騰は為替要因よりも元値自体がかなり上がってしまっています。となると円安から円高に転じても一気に物価が下がることを期待できません。近年嗜好品であるコーヒーやカカオなどは新興国での需要が高まり、さらには気候変動等で収穫が落ちて供給も低下していたりします。日本のディーラーが買い負けする場面が増えてきたとも云われています。ものごとは一点のことばかり見てはいけないのです。あと筆者は何十年間にも渡り低成長・低賃金・低物価状態を続けてきた日本と成長を続けた海外でインフレ格差が拡がっていることにも注意が必要だと言ってきました。「円の価値を強くすれば物価はあっという間に下がるのダー」という調子で簡単に物価問題は片付かないのです。

 

前回記事で述べたとおり、日本の財務省が為替介入をやっても効果は一時的で大したことがありません。政府のマネーよりも市場関係者が動かしているマネーの量が圧倒的に多いからです。

再論・結局為替相場は何で決まるの?(かなりメンドくさい話です) | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

では日銀が政策金利を引き上げて金融政策を引き締めてやれば為替相場は簡単に円高へ動くのでしょうか?為替相場は相手国の金融政策も関わってきます。現在アメリカは中央銀行FRBが猛烈といっていいほどの利上げを行って景気過熱とインフレの退治をしてきました。その金利差はかなりの隔たりがあり、日銀が円安を食い止めようとするならばFRBを超える政策金利の引き上げをせねばなりません。もしそれを日銀が実行したならば円高になるかも知れませんが、企業の事業や生産活動が一気に冷え込んで、労働者が大量に解雇されたり賃金が下がってしまうことでしょう。令和大恐慌になっても不思議ではありません。仮にモノやサービスの価格が若干下がったとしても、職を失ったり大幅な賃下げに見舞われた労働者=生活者はそれを買うことができないとなったら元も子もありません。

 

よく中学か高校の公民の授業なんかで「インフレになったら中央銀行は金利を上げたり、マネーの供給量を減らして物価を下げなければならない」などと習うわけですが、いささか乱暴な言い方をすれば金融引き締めは民間の自由な経済活動を抑制し、モノやサービスの生産を行うための投資をさせず、どんどん労働者の賃金を下げてクビを斬ることで貧乏にさせることで消費を抑え込んで物価を下げるのです

 

現在日銀は植田総裁に代わってから「隙あらば利上げ」で金融政策を引き締めていく動きが強まってきたのですが、これまで順調だった雇用がじわじわと鈍っていく恐れがあります。現在のところ筆者が勤める会社は好業績で従業員の積極採用を続け、来月にも賃上げが行われる予定ですが、来年、再来年はどうなるかわかりません。

あってほしくはないのですが、天候不順による食糧生産の落ち込みや地政学リスクによる原油や天然ガスなどの価格高騰が運悪く重なって、不況と物価高が同時に起きるスタグフレーション?的状況になるかも知れません。

 

何度もここで注意してきましたが、金融政策は為替操作を目的にやるものではなく、民間事業活動と雇用安定のために行うべきです。これをわかっていないのが大多数の日本人であり、マスコミです。

 

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