今回ははてなブログ側で公開した 新日銀総裁に指名される植田和男氏ってどんな人 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com) という記事の姉妹版です。

 

 

第二次安倍政権発足時に就任した黒田東彦氏に代わる次期日銀総裁に経済学者の植田和男氏が国会で指名されると先日報じられました。この方は2000年のゼロ金利解除に反対票を投じたことや、日経新聞への寄稿で「金利引き上げを急ぐことは、経済やインフレ率にマイナスの影響を及ぼし、中長期的に十分な幅の金利引き上げを実現するという目標の実現を阻害する」などと述べられていたことから、黒田現日銀総裁が進めてきた異次元金融緩和を継承するという見方をする人が少なからずいたのですが、その一方でYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)で長期金利まで低く抑え続けるのは、金融機関の経営を圧迫して、ハイパーインフレを招く恐れがあるというような発言をしています。(元日銀審議委員の原田泰さんの本の中で)筆者は岸田政権が行った日銀正・副総裁人事によって「物価が安定的に2%上昇し続けるぐらい投資や消費が活発になるまで、日銀は責任をもって金融緩和を継続し続ける」というコミットメントが棄損されてしまうことを警戒しています。

 

民間企業は存続し続ける限り、人を雇う人件費や研究開発費、設備投資、資材調達などでお金を投じ続けます。これが投資というものです。個人でもローンを組んで住宅や自動車を購入したり、就職のために学費を払って高等教育を受けたり技能を身に着けることも自己投資です。将来のために新しいことに挑戦するには資金が必要ですが、金利を下げてその調達をしやすくするのが金融緩和になります。イノベーションを起こすには莫大な資金と十年単位の時間が必要となることが多いのですが、それを促すには一定期間以上金利を抑えた方がいいことは自明です。

 

黒田総裁時代にYCCを導入した理由は短期の金利だけではなく、10年債などの長期金利も低めに抑えてあげることで、企業が長期ビジョンに立った将来投資を行ったり、個人が何十年もローンを組んで住宅を購入するといったことをやりやすくするためです。

ところが植田氏がいっていたように中期~長期金利を上げるようなことをやってしまったら、投資してから実際の収益に結びつくまで十年以上かかるような次世代技術開発のための研究投資や大型の設備投資がやりにくくなるでしょう。個人においてもこれからマンションを買おうかと思ったけれども、ローンの金利がどれだけになるのかわからず、落ち着かないという人がいるかと思います。あとコロナ禍で打撃を受けた事業者さんはゼロゼロ融資で何とか食いつなげられたものの、償還期限がいま迫っています。借り換えをするにもその金利が上がったら大変です。内閣府が14日発表した2022年10~12月期国内総生産(GDP)速報値(第1次速報)によれば、民間消費自体は年率2・0%増になったものの、住宅投資が同0・5%減、設備投資が同2・1%減となっています。岸田政権の経済政策や植田新総裁就任後の日銀金融政策の方向性が非常に不透明になってきていることが、こうした数字につながっていると筆者はみています。

 

私たちは無意識的に次にどんなことが起きるのか予想しながら今の行動を決めています

 

政府が今後財政政策を緊縮にするのか、あるいは積極財政を続けていくのか?

中央銀行が政策金利を上げるのか、それとも低く下げ続けるのか?

その態度如何で巨額の事業費を注ぎ込む企業経営者や、ローンで住宅などを購入する人たちは投資や消費行動を変えるのです。そうでいない人でも自分たちの給料が上がり続けるのかどうかで日々の買い物の仕方が変わってくるかと思います。不景気で会社の仕事が減って残業ができなくなったら収入が落ち込み、思い切った買い物ができなくなります。

 

インフレターゲットを導入した異次元金融緩和の意義は中央銀行が「長期に渡って政策金利を抑え続けます」という意思を示して、人々にどんどんお金を遣ってもらえるようにするためです。岸田政権はその方向性をあやふやで、明日どっちに転がるのかわからない状態にしてしまっています。あまりに優柔不断さが目立ちます。

 

ゲーム理論の話のひとつで「囚人のジレンマ」という例があります。

共同で犯罪を行ったと思われる2人の囚人A・Bを自白させるため、検事が囚人A・Bに次のような司法取引をもちかけたとします。

  • 本来ならお前たちは懲役5年なんだが、もし2人とも黙秘したら、証拠不十分として減刑し、2人とも懲役2年だ。
  • もし片方だけが自白したら、そいつはその場で釈放してやろう(つまり懲役0年)。この場合黙秘してた方は懲役10年だ。
  • ただし、2人とも自白したら、判決どおり2人とも懲役5年だ。

このとき2人の囚人A・Bはそれぞれ黙秘し続けることが有利なのか、それとも自白するのが有利なのでしょうか?2人の囚人A・Bは別々の部屋に隔離されており、口裏合わせをすることはできません。下は2人の囚人A・Bの行動と懲役の関係を表にまとめたものです。

2人の囚人にとって最もトクなのは両者が黙秘を続けて、二人とも懲役2年の組み合わせなのですが、囚人A・B共にそれぞれの自己利益に則した行動をとると、どっちも自白という選択をしてしまいます。なぜそうなるのでしょうか?

 

囚人Aの立場では次のように考えます。

  • 囚人Bが「黙秘」を選んだ場合、自分 (=囚人A) の懲役は2年(「黙秘」を選んだ場合)か0年(「自白」を選んだ場合)だ。だから「自白」を選んで0年の懲役になる方が得だ。
  • 囚人Bが「自白」を選んだ場合、自分 (=囚人A) の懲役は10年(「黙秘」を選んだ場合)か5年(「自白」を選んだ場合)だ。だからやはり「自白」を選んで5年の懲役になる方が得だ。

囚人Aにとっては,囚人Bがどのように行動するかにかかわらず自白することが最適な選択ということになります。これは囚人Bにとっても同じです。となると囚人Bも囚人Aと同じ考えによって自白することが最適な選択であるということになってしまうわけです。

 

ちなみに二人の囚人が黙秘を続け、両方の犠牲を小さくし、互いに短い2年の刑期で済ませられる状況を「パレード最適」といいます。

 

中央銀行が「インフレ目標2%達成までは政策金利を上げない」と確約する意味はパレード最適というべき状態をつくるためだという解釈ができます。ところが岸田政権や植田氏はどっちに転ぶかわからない優柔不断な政策態度を示してしまっているために、パレード最適な状態とならなくなります。企業や個人はもっとも多くの財を効率よく得られる最適な経済行動を採りにくくなるのです。

 

岸田政権のあやふやな政策態度は社会全体に様々な不効率さを撒き散らし、民間活力や国力の衰退を招くことでしょう。残念なことです。

 

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