今年初めから急速に円安(というよりドルの独歩高なのですが)が進んでいたのですが、10月21日の1ドル=152円をピークに円高方向へ反転。11月下旬に入ってから2022年11月26日現在は1ドル=139円になっております。

 

つい先日までマスコミなどが「日本売りで円安が加速してしまっている。」「日本の生産性が低くなってしまったために円が売られてしまっている。」などと書き立てたり、「アメリカや欧州などでは金融引き締めを行っているのに、黒田日銀総裁だけが金融緩和をやめようとしないから円安が止まらないのだ」などという言う世論が高まっておりました。多くの国民は「円安のせいで海外から輸入している資源や食糧品が高騰して庶民の生活が苦しくなっている」と思っているために金融緩和を早く手仕舞いして円安を是正すべきだと考えはじめていました。ところがアメリカ側の物価上昇や雇用逼迫がピークアウトしかけ、政策金利引き上げを進めていたFRBの金融政策の方向性が変わるかも知れないという予想が出てきたために、ドル買いからドル売りに転じたのです。「日本の国家財政危機が円の信認を損ねた」とか「日本の国力が損なわれたから円の価値が下がった」という見方が間違っていたことが証明されたようなものです。

 

筆者は何度となく、日銀側が政策金利を引き上げても、アメリカ側が高いインフレ退治のための金融政策の引き締め態度を変えない限り円安進行を食い止められないし、世界的に不足している原油や天然ガス、食糧品の価格高騰を抑えることはできないと説明してきました。実際には上でも述べたように円安というよりも極端なドル高といった方がよく、韓国のように政策金利を引き上げたにも関わらず自国通貨安が進行してしまった国もあります。

 

日本のおける原油や食糧品の価格の上昇はロシアによるウクライナ侵略戦争などによる原油や食糧品の価格高騰が主因です。円安が物価に与えた影響はさほど大きくありません。あり、日銀が金利引き上げを行ったとしても、それらの財の価格が下がりませんよという話や為替による影響度はさほど大きくないですよということを述べました。

 

金融緩和打ち止め誘導の「悪い円安」論 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

金融引き締めでコロナ禍後のインフレを抑制できるのか? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

 

そもそも金融政策というものは国内企業の事業活動意欲や雇用状況に合わせて行うべきもので、為替操作のためにやるものではありません。

 

ここから本題に入りますが、今回は為替相場ってどういう要因で決まってくるのかということについて述べていきたいと思います。これについていろいろなことを言う人たちがいますが、そう単純な話ではありません。一夜にして10円も円が上がってしまったことを顧みると、少なくとも「日本の国際競争力や信用力が低下した」とか「国家財政の悪化がもたらした」などという話ではなかったことは明らかです。一夜で一気に日本の構造改革や生産性の向上が進んだなんてことはありません。

 

最も多く行われる為替についての説明は二国間の金利差であったり、マネーの供給量の差(ソロスチャート)なのでありますが、これもまた完全なものではありません。およその動きは互いに相関していそうに見えますが、厳密に見てみると必ずしも両者の動きが一致しているとは限らないのです。

 

すっきりしない言い方になりますが、為替相場は二国の中央銀行の金融政策の方向性の違いと市場関係者によるその予想や期待で左右されると思っておくのがいいのかも知れません。為替相場は株式などと似たようなものです。市場関係者たちは各国の中央銀行の金融政策の態度がどう動くのか、あるいはどこの国の通貨の需要が高まるのかを予想して自国や他国の通貨を売ったり買ったりしています。

 

投資家たちにとって政策金利が低い国の通貨よりも、政策金利が高い国の通貨で資金運用をした方が有利になってきます。ですので政策金利が高い国の通貨の需要が高まり、為替相場が高くなります。

 

 

低金利通貨を売って、高金利通貨を買うことで、受け取ることができるスワップポイントについても、通貨間の金利差が大きいほど、スワップポイントが大きくなります。そういう意味でこれまでドルが極端に高く、相対的に円が安くなっていたのは米FRBの金融引き締めが強いのに対し、日銀側が金融緩和を継続する姿勢を崩さなかったためという見方は間違っていませんが、でもそれがすべてだともいえません。世界で大きな軍事紛争とかが起きたときには「有事のドル買い」といった現象が起きますし、日本についていえば東日本大震災後に円高が加速してしまっています。その理由は大きな危機が発生すると投資家たちが株などのリスク資産に運用していた投資されていたマネーをリスク回避のためにドルや円などへ現金化するためです。

 

 

あと上の記事を書かれた飯田泰之さんが仰っていたのは、有事になった場合に軍事独裁国家の元首などが自分の資産を守るためにドルを買い漁る動きがあるということです。

 

いずれにしても為替相場というのは中央銀行の金融政策態度だけではなく、軍事紛争などの国際政治の動向なども複雑に絡んできて単純なものではなさそうです。日銀が金融緩和をやめ、政策金利を引き上げたとしても円安が止まらず、景気や雇用だけを悪化させてしまった可能性があります。そもそも中央銀行の金融政策は民間企業の事業活動や個人の住宅・自動車などの購入といった投資意欲を促したり、抑制することで経済活動を適正化させるものです。物価についてもその結果です。為替相場を操縦するために金融政策を行うのは愚行です。

 

日銀の黒田総裁や若田部副総裁たちの任期が来年春に終わり、新しい日銀総裁・副総裁人事が政府与党内で進められているところでしょう。いまの岸田政権は安倍政権時代の金融政策を否定し、それ以前の日銀に戻そうとしています。そうなると民間の個人や企業の都合ではなく、国債の運用益にしがみついているようなゾンビ地銀などの金融機関の都合に合わせた金融政策になってしまうでしょう。

 

欧米の物価高騰はかなりしぶとかったのですが、それや雇用逼迫のピークアウトが見えてくる状況になってくると、各国の中央銀行は利上げペースを落としていき、場合によっては利下げに転ずる可能性があります。不確実性が高い状況なので各国中央銀行の金融政策態度や為替相場については予断を許さない状況が続くことでしょう。物価だけではなく雇用や企業の投資意欲などを注意してみていく必要があります。

 

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