ロシアのプーチン大統領によるウクライナへの攻撃は悲惨極まりないものです。祖国を護るべく勇敢に闘うウクライナ軍の反撃によって、ロシア軍は首都キーウなどから撤退していきましたが、一般市民に対しても殺戮や暴行、略奪を繰り広げており、その残忍さに閉口せざるえません。

 

原油や天然ガス、小麦などの食糧品ですが、コロナ禍によって世界的に供給不足状態であったところへ今回の戦争が重なりました。ここ最近の世界的なインフレは原油や食糧品等の資源価格の高騰や新型コロナウィルス感染収束後の需要急増などを起因としていますが、プーチン戦争(あえてここではそう言います)がそれに滑車をかけています。ロシアは有数の天然ガスや原油産出国で、侵略を受けているウクライナは小麦など穀物生産が活発でした。これらの供給不足がさらに進みます。

 

この状況をみて、インフレとさらに不況が重なったスタグフレーションが発生した1970年代を想起する人が多くいます。UKのサッチャー首相が行った改革やアメリカのレーガン大統領が行ったレーガノミクスとその後ろ盾となったサプライサイド経済学を信奉していた人たちにとっては再び自分たちの時代が来たという思惑があるようです。

しかしながら筆者は1970年代の経済政策観をそのまま今回の事例にあてはめることはできないと考えています。ただし共通項がまったくないわけではありません。国家社会主義がもたらした弊害に立ち向かうという点では同じです。社会主義体制が持つ宿命的な構造的欠陥は民間の経済活動や生産活動を大きく阻害して物資の供給力不足をもたらし、ひどいインフレやスタグフレーションを招く危険性を孕んでいます。そして中国武漢から拡がりはじめた新型コロナウィルスやプーチン戦争は安定的で効率的な経済活動を阻害するリクスと不確実性を与えました。それが自由主義的な経済活動とその秩序を乱し、破壊しているのです。

 

このブログでも社会主義とハイパーインフレ・スタグフレーションの発生について記事をまとめました。

 

供給側の劣化が招いたスタグフレーション | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

第2次世界大戦後の欧米諸国は(旧)ケインズ主義的な経済政策観が主流となり、極めて過保護的といっていいほど政府が過剰な財政政策を行っていました。ところが1970年代に入ると非効率な公営事業者が物資やサービスの生産活動を担い、さらに過激化した労働組合が無理な賃上げ要求を掲げてストライキを行うなどして、民間の生産活動が衰えてしまいました。企業は安い賃金の海外に生産拠点を移してしまうなどして、慢性的に失業者が増え続けてしまい、それを政府が失業給付で尻拭いするようなことまでしていたのです。その結果として自国の生産・供給力が衰えてしまうのに、需要だけは膨らんだままでインフレが加速していきます。労組の無理な賃上げがさらに物価上昇を進行させ、失業者が減らないままスタグフレーションへとつながったのです。

 

このため欧米諸国は(旧)ケインズ主義的な経済政策態度からハイエクやフリードマンといった自由主義・市場原理主義的な経済政策観に転換し、公営事業の民営化や労働組合改革、過重すぎた民間事業者の税負担軽減、規制改革などを進めて、民間主体の経済活動を活性化させるようにしていきました。いわゆる小さな政府志向です。需要側(デマンドサイド)重視ではなく供給側(サプライサイド)の強化を重視する経済政策によって、欧米諸国は長期の慢性的経済低迷から脱していったのです。

 

しかしながら2020年代の現在起きている供給不足型インフレは1970年代のときとは状況が異なっています。1970年代の場合は自国の中央銀行の金融政策や政府の財政政策によるものが大きかったかも知れませんが、2020年代の場合はロシアや中国などが引き起こした海外要因によって起きているものです。アメリカの場合はバイデン政権の財政出動が過剰で需要を膨張させすぎてしまったことを反省すべきかも知れないのですが、資源高や半導体価格高騰はコロナ感染拡大による工場操業停止や戦争が主要因です。コロナ禍で離職してしまった労働者が賃上げしてもなかなか職場に戻らない状況のアメリカなどを除き、金融政策や財政政策の引き締めをやっても、物価の沈静化は望みにくいと思われます。今回の場合、物価の安定で必要なことはより安定的な生産や供給網の構築であり、経済安全保障の強化です。そして自由主義経済活動に深刻なリスクと不確実性を与える軍事独裁国家や社会主義国家との訣別が欠かせません。

 

よく経済の議論をしていますと、供給側政策とは規制改革や公営企業の民営化、産業構造改革といったミクロ政策であるという人が多いです。逆に金融政策や財政政策は需要側政策でマクロ経済政策だという理解がなされています。しかし筆者はそうした認識について正直浅薄で旧いものだと思っています。先に述べたように経済安全保障戦略や軍事独裁国家・社会主義国家に依存しない供給網の構築という新たな産業構造への転換を進めることも供給側政策として重要であるという認識を持つべきだと考えます。

 

この文章を作成する2日ほど前に衆議院議員の長島昭久さんが「ウクライナ戦争と日本―積極財政で日本をもっと勁く!」というブログ記事を執筆されましたのでリブログしておきます。

長島さんの記事においても、『「力による現状変更」を行う可能性のある国への、過度な依存を見直さねばならない』と強調され、さらに『課題解決のためには、サプライチェーンの再編が急務です』と仰られています。そしてそれを行うためには思い切った財政政策が必要であると主張しておられます。

 

1970年代に(旧)ケインズ主義的な「大きな政府」路線から、政府による民間経済活動への干渉を最小とする「小さな政府」路線への転換を主張していたグループたちにとって、財政政策の拡大は認めにくいかと思われますが、最も重要なことは民間事業者が安定的な生産活動をしやすい土俵を整備することであります。民間の経済活動を妨害するリスクや不確実性を多く生み出す軍事独裁・社会主義国家に依存しないグローバル産業構造やサプライチェーンの再編もその土俵づくりのひとつに入るでしょう。長島さんが仰る思い切った財政政策はそのための投資とみることができます。それは自由主義的経済思想とまったく矛盾するものではありません。


最後にもうひとつ参考として岩田規久男元日銀副総裁と柿埜慎吾さんの対談記事を紹介しておきたいと思います。

読書人WEB (dokushojin.com)

 

 

 

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