前回の更新から2か月以上も開いてしまいました。岸田政権は発足後大型の経済対策を行うと公約し、特別国会で補正予算案を審議しました。しかしながら18歳以下の人を対象にした給付金を現金10万円一括支給ではなく、わざわざ地方自治体の事務的コストが嵩み、余計な時間がかかるようなクーポンや現物支給制にしようとするなど、かなりまどろっこしいことをやらかしており苛立ちを覚えます。本来はこの給付金だけではなく、コロナ禍で深刻な打撃を受けた飲食や観光業など対面サービス業に対する支援や伸び悩む消費の喚起などの景気対策もどんどん審議を進めていかねばならないのに足踏みしている有様です。この内閣は実務能力が著しく低く、問題処理が進まない弱点を抱えています。このままでは日本だけがコロナ禍からの経済活動回復が立ち遅れ、GDPギャップがなかなか埋まらず、いつまでもだらだらと財政的手当てを続けなければならなかったり金融政策の正常化がどんどん遠のいていきそうです。

 

岸田政権の財政支出の規模については55.7兆円と7~9月期に開いたGDPギャップを穴埋めするのにギリギリ合格といえるものであり、10兆円規模の大学ファンドや単年度主義の弊害を改め複数年度にまたがって財政支出を行うコミットメントをするなど評価できるものも含まれていますが、同時にこの政権は増税や緊縮財政に前のめりだといわれる議員を閣僚や党幹部に据える人事を行うなど、国民や民間企業、市場関係者に大きな不安を与えています。

 

外務大臣だった茂木敏充議員が小選挙区で敗戦した甘利明議員に代わって党幹事長に就任しましたが、外相の後任は岸田総理と同じ派閥の宏池会に所属し、財政規律偏重主義者でおまけに媚中派といわれる林芳正議員を岸田総理は任命しました。

さらにこの政権はやはり同じく宏池会所属で増税や緊縛財政派といわれる宮澤洋一議員を党税調会長に指名します。

岸田現自民党総裁は総裁選挙中に安倍晋三政権や菅義偉政権が力を入れてきた経済活性化政策アベノミクスを継承すると表明していましたが、林芳正氏や宮澤洋一氏のように異次元金融緩和政策や積極的財政政策をやめさせようとしてきた人間を閣僚や党幹部に任命しているのです。岸田総理はアベノミクスを骨抜きにし潰そうとしているのではないかと疑われます。2か月前の記事の最後の方でもこれまで最も積極的に異次元金融緩和政策の推進を主張されてきた日銀審議委員の片岡剛士氏の後任が再び悪しき日銀理論に染まった人物や金融政策のことをまるで理解していない素人になってしまう危険性を指摘しましたが、その可能性がかなり濃厚になってきています。

岸田総理自身もまた10月の「金融所得課税強化」発言に続き、企業が自社の株価維持のために行っている自社株買いについて規制をかけた方がいいのではないかという国会答弁をしてしまい、そのおかげで株価が急落しています。企業が事業活動で得た利益(売上から経費を除いたもの)は①出資者(株主)への配当、②自社株買い、③新しい事業への投資(研究開発や設備、原材料費、雇用に対するもの)に分けられますが、岸田政権は雇用拡大と賃上げを促すために①と②に規制をかけて③にもっとカネを出せと強要しようとしています。

アベノミクスはインフレ率2%達成までは金利を抑え込みますというコミットメントを日銀の黒田総裁にさせて、民間企業に長期視野にたった思い切った大型事業投資ができるよう促す太陽政策的な方法で③を伸ばそうとしてきましたが、岸田政権は北風のごとく民間企業からカネを剥ぎ獲るようなことをやろうとしました。岸田総理は金融政策を信用していないですし、株式や民間経営者たちの投資行動をまったく理解していません。

こうした民間企業に対する無神経かつ横暴な振る舞いは先の宮澤洋一税調会長らも行っています。2021年12月10日に行われた税制調査会で民間企業経営者らに対し「企業がイノベーションよりも経費削減や値下げに競争力の源泉を求め続けた結果、経済全体としては縮小均衡が生じてしまってきた。」とか「リスク回避や横並びの意識を排してアニマルスピリッツを取り戻し、イノベーションに挑戦することが期待される。」などと高圧的な発言をしていますが、自分たちが民間投資の資金調達に関わる金融市場を引っ搔き回しておいてこれはないでしょう。私は記事を読んで「お前ら何様ものだ!」と腸が煮えくり返ってきました。

 

 

岸田総理や宮澤洋一税調会長らは民間企業に土足で踏み込んで、経営に対し露骨に口出しをしているのです。自由主義者(リバタリアン)を自負する人であれば彼らに猛抗議すべきでしょう。国家社会主義者というべき立ち振る舞いです。

 

私は10年以上に渡って大胆な金融緩和や積極財政を用いながら、経済活動の再活性化を目指すリフレーション政策の導入を支持し続けました。その実現となったのが第2次以降の安倍晋三政権が打ち出した経済政策アベノミクスです。このリフレーション政策で肝となっているのは経済活動を担う我々国民や民間企業の経営者が持つ将来の予想や期待を変えることです。そのことで現在のわたしたちの経済行動を変えて長期に渡る経済停滞から脱していくわけです。

安倍政権発足直後に日銀の副総裁として指名された岩田規久男さんは「リフレはコミットメント」と仰っていました。私は「リフレは不確実性からの脱出」と思っています。金融政策側でアベノミクスを推進する責務を負った黒田東彦総裁の代からの日銀はインフレ率2%達成まで徹底的な金融緩和政策を継続するというコミットメント(誓約)をし、その証として大規模な量的金融緩和を行って政策金利を当面引き上げないという態度を示したのです。これによって企業が将来を見据えて巨額の投資を行って長期に渡る大事業をやったり、長く働ける人材を多く養成するなどといったことができるようになります。企業経営者の将来の予想や期待が変わったことが、雇用の拡大へとつながったのです。

 

しかしながら現在の岸田政権は経済政策だけではなく、外交や防衛政策に至るまで態度があやふやで人々を疑心暗鬼にさせます。新型コロナウィルスの感染拡大は世界中を先行きがまったく予想できない不確実的状況に陥れたのですが、そこで求められるリーダーシップは確実性を示すことにあります。そういう観点で岸田総理はリーダーとして不適任であるといえましょう。この政権は不確実性をさらに深めています。

 

不確実性が高い中で人々は思い切ってお金を遣ってものを買ったり、銀行からお金を借りてまで事業に資金を注ぎ込むことはできないでしょう。もしかしたら自分は会社からクビを斬られてしまうかも知れないとか、多額の資金を注ぎ込んで事業をはじめたけど、いきなり売り上げが落ち込んで破産してしまうかも知れないといった状況で消費や投資はできません。いまの岸田政権の迷走をみていると、企業が先行きに不安を抱いて事業投資を抑制し、雇用の縮小を計る危険性が出てきます。来年の新卒者求人倍率はどうなるでしょうか?

 

岸田政権の問題は不確実性の拡大だけではなく、実務能力の低さによる政策手続きとその執行の遅さです。昨年来度重なる緊急事態宣言によって飲食店や観光業など対面サービス業は深刻な打撃を受け続けており、事業継続が困難になっているところが多いです。そうした業界に身を置いていた人は突然職や収入を失う憂き目にあい、経済的に困窮しています。本当は今年前半にも給付金や支援金を支給しなければならないのですが、マスコミによる攻撃で菅前政権が倒れされ、政治的空白が生じて、それができませんでした。岸田政権はその遅れを取り戻すべく経済支援や今後の経済発展につなげる国家的投資を進めるべきなのです。

しかし岸田政権は財務省の顔色を窺っているのか、財政支出を出し渋るかのようにちまちまとセコい行動を見せます。経済対策がもたついている間に苦境に耐え切れなくなった事業が潰れたり、人々の所得減少を進行させて、日本だけ経済回復から取り残されることになりかねません。今年7~9月期のGDPギャップは27兆円だったのですが、下手をすればこれが閉じないままになってしまう可能性があります。となると再び追加でまた財政出動を行わないといけなくなったり、税収が落ち込むなどして結果的に国家財政の悪化を進行させかねません。金融政策についても現時点では正常化できる状況ではなく、いつまでもだらだらと金融緩和を続けていかねばならないことになると思います。(上で述べたように自分はリフレ派を自負していますが、かといって何年、十数年以上も金融正常化ができない状態がいいとも思っていません。)

 

アメリカはトランプ前政権からバイデン現政権においてGDPの25%にも及ぶ財政出動をドカンとやってコロナ経済危機を乗り越えました。いまはその財政出動が行きすぎて7%に上る過剰インフレとなってしまい、FRBはそれを受けて金融引き締めをしかけていますが、危機のときは「これでもか」という勢いで財政出動や金融緩和を行って、短い期間で正常化できる状況に戻します。日本の場合は岸田政権に限らず、だらだら・ちまちまと財政出動や金融緩和を出し惜しみ、何十年も慢性的不況から抜け出せない状況です。第2次世界大戦中の日本軍と同じで戦力逐次投入で戦況を悪化させてしまった失敗を繰り返しているようです。

 

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