昨年初頭からはじまった新型コロナウィルス感染拡大によって世界各国は防疫のために外出制限や店舗の営業活動制限をせざるえなくなり、経済活動に大きな制約がかかってしまいました。そのために各国政府や中央銀行は大型の財政出動や金融緩和政策を行って、個人や民間企業の生計や事業存続ができるよう補償や補助金などを支給して支援しています。今回の話はそうした財政政策・金融政策の目的や割り当ての話をしたいと思います。財政政策についてですがコロナ禍による民間経済活動の打撃を軽減することを目的にする政策と家計支援を目的とする政策、デフレ不況対策は分別しておかねばなりません。ときとして目的があやふやになってしまって、手段が目的化してしまうようなことがあったりします。ネット上ですと定額給付金や消費税減税を叫ぶ人たちが多いのですが、どちらも手段のひとつであってそれ自体が目的ではありません。それぞれ違う目的であるものを全部一緒こたにして政策議論をするのはおかしいことですし、結果として当事者が満足を得ないことになります。あと感染拡大期とその後の経済復興期における政策割り当ても異なります。

参照 新型コロナウイルスと戦うための経済政策 (imf.org)

 

上のIMF(国際通貨基金)のサイトに掲載されているコラム記事にならい、感染拡大期(フェーズ1)と回復期(フェーズ2)に段階(フェーズ)を分けます。

フェーズ 1:戦争中。感染症が猛威を振るっている時期。人命を救うため、感染拡大防止措置によって経済活動は大幅に制約される。これが少なくとも1~2四半期続く可能性がある。

フェーズ 2:戦後の回復期。ワクチンや治療薬、部分的な集団免疫、そしてやや緩やかな感染拡大防止措置を継続することで、感染症は制御されている。制限が解除され、経済は途中で足踏みをするかもしれないが、正常な機能を取り戻す。

フェーズ1においては感染拡大を抑え込むことに注力し、政府や中央銀行が経済活動抑制によって事業存続が危ぶまれる民間事業者や休業・失業などで著しい減収に追い込まれた就労者個人に補償金や補助金、給付金、特別融資などを行って支える政策を行います。心臓外科手術に例えると一時的に心肺を停止させて、人工心肺で体内循環を代替するようなものです。

 

感染拡大が収束し、経済活動の再開・復興に転ずるフェーズ2においては民間事業者と就業者の経済的再自立支援が主体となります。日本でいえばいちばん深刻な打撃をうけた観光・飲食業への支援を行うGoToキャンペーンや、菅内閣が打ち出しているデジタル化推進、就業支援、国土強靭化などがそれに該当するでしょう。もちろん民間の積極的な事業投資や雇用の拡大を促す金融緩和政策も入ります。これは手術などの治療が終わった後の機能回復訓練に相当するフェーズです。

 

日本政府がこれまで行ってきたコロナ対策・経済対策は持続化給付金や雇用調整助成金、緊急事態宣言発令時に行われた休業補償、全国民一律で支払われた定額給付金、緊急小口資金制度、観光・飲食産業向けのGoToキャンペーン、そして異次元金融緩和の拡大継続など多種多様に及びました。しかしこれらの諸政策はそれぞれ目的や狙い、支援対象、上で説明したフェーズの違いがあります。これを理解しないままひとつの政策に固執したり、政策批判をしてはいけません。

 

まずコロナ禍に対する経済対策から述べていきましょう。箇条書きにしておきました。

目的1 コロナウィルスの感染拡大やそのための医療崩壊を防止するための政策

  • コロナ病棟と医療スタッフ確保のための支援 経営打撃を受けた医療・福祉機関への支援

目的2 コロナ禍で経済的損失を被った業界・事業者と勤労者への損失補填と所得保障 事業者の事業継続と勤労者の雇用維持 

  • 持続化給付金 休業補償 雇用調整助成金 つなぎ融資 劣後債 民間事業者と金融機関の経営と資金繰りを確保するための金融緩和政策 GoToキャンペーン(事業者向け)
  • 定額給付金 雇用調整助成金 住宅確保給付金 緊急小口資金制度 

目的3 感染収束後の経済復興支援

  • 中⼩企業等事業再構築促進事業 デジタル改革 グリーンイノベーション基⾦事業 国土強靭化政策 就業支援 金融緩和政策など 

といったところでしょうか。目的1と2はフェーズ1(あるいはフェーズ1と2の中間)、目的3はフェーズ2の政策です。

 

ここでふと疑問に思う人がいるかも知れませんが、上のコロナ経済対策の中に低所得者・生活困窮者支援策や消費税減税、一部で出てきたベーシックインカムもしくは給付付き税額控除制度については列挙していません。いまのコロナ禍でより深刻な状況に追い込まれた低所得者・生活困窮者が数えきれないほどおられることでしょうし、いままで普通に真面目に働いていた人たちが所得や住居を突然失ってしまうようなことも起きていることは承知していますし、その人たちへの支援を惜しむべきではないと私は考えます。とくに今回のコロナ禍は非正規雇用が多い観光や飲食業など対面サービス業にいちばんの打撃を与えています。しかし政策目的や手段はコロナ禍で経済損失を被った事業者・個人に対するものと、そうでない理由で低所得・生活困窮状態に追い込まれていた人に対する支援策は分けて考えていくべきではないでしょうか。

 

どうもここ最近ネット上で出てきている発言を拾うと、コロナ対策と通常の景気対策、生活困窮者対策を混同している人が多いと感じます。それぞれ関わりはありますが、目的と手段は異なっています。あと同じ政策でもフェーズによって政策的意味合いが変わってくるものもあります。

例えば昨年春の緊急事態宣言のときに行われた定額給付金ですが、これは消費喚起などの景気浮揚というよりも、急激な所得減少に見舞われた国民全体に対する一時金という意味合いで支給されたものです。他の減税措置や補償、支援の整備が間に合わないために定額給付金で代替したという見方ができます。しかしフェーズ2に転じてきた場合は、消費喚起といった景気対策的意味合いが出てきます。

 

定額給付金再支給を求める声が高まってきていますが、これについて何のために、誰のためにそれをやるのかということを考え直す必要があると私は思います。それを唱える人たちはこれまで政府が用意してきたコロナ対策では、細かすぎる利用資格規定や窓口となる役所の恣意的判断のおかげで救済されない生活困窮者が出てきてしまうから給付金を一律支給すべきだと主張しますが、仮にもう一度定額給付金を一律支給してもあと1~2回で10~20万円程度でしょう。生活困窮者向けの政策として考えた場合、明らかにこの額では不足します。

それに本来コロナ経済対策の目的は元々自立した経済活動を行っていたにも関わらず、コロナ禍でそれができなくなってしまった事業者や就労者を支えることです。つまりは事業継続と雇用維持です。もともと働く意思や能力があるにも関わらず、それが急にできなくなってしまった人を支援対象の主体としています。それについては休業補償や雇用調整助成金などで政府や地方自治体による手当がなされてきました。しかも世界トップレベルの財政規模です。

 

今月菅内閣が打ち出した追加の緊急経済対策ですが、ひとつ「これは!」というものを見つけました。それは一定の所得を下回る人について、月々10万円の給付金を付けた職業訓練の対象者を拡大するというものです。

令和3年3月18日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

 

 

菅総理は「デジタル分野の訓練の人数を倍増させて5,000人とします」と述べていますが、慢性的な人材不足に悩まされている介護業界への転職については資格取得や就学の支援金も融資し、2年以上現業に就けば返済免除されるというかなり手厚い就業支援も用意されています。

つまり働く強い意志さえ持っていたら、訓練費だけではなくその期間中の生活費も面倒をみてくるというかなりおいしい制度といっていいでしょう。あと生活費が逼迫した世帯に対し緊急小口資金制度が用意されていますが、これは融資という形を採っているものの、翌年・翌々年の所得が低かった場合は返済免除となります。これを狙って制度を利用するのはまずいですが、場合によっては給付金代わりになる制度という見方もできなくはありません。

こうして見ていると十分ではないながらも、一応はコロナ経済対策として必要な政策を政府は用意をしてきたと評価しておくべきではないでしょうか。

 

それでも現在家計が逼迫してしまっている人たちが大勢いることも確かです。ただそうなってしまっている要因が運悪く就職氷河期世代で非正規雇用にしかありつけなかったとか、病気や障がいなどで就業が難しいとか、その他言うに言われぬ事情であった場合は別の枠組みで支援すべきだと私は考えます。いつも私がその代表例として提案しているのは給付付き税額控除制度です。

 

給付付き税額控除制度ならば所得が低い人に対し、もれなく給付金が還付される仕組みです。

あと細かいことをいえば就職氷河期世代対策とかの他にひきこもりや発達障害がい者等の支援策なども進めていくべきでしょう。

 

それぞれの問題に対し適応した政策の拡充を訴えていった方が私はいいと思います。

 

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