先日2020年9月17日に元参議院議員の金子洋一さんが出演されるニューズ・オプエドの番組を視聴しました。『アベノミクスと菅政権の経済対策について』というテーマです。金子洋一さんは民主党→民進党の議員でしたが、民主党政権時代より大胆な金融緩和政策と積極的財政政策を組み合わせたリフレーション政策の導入を提言し続け、自民党第2次安倍政権発足にはじまった経済政策パッケージであるアベノミクスにも賛意を示してこられました。番組でも「敵ながら天晴」と安倍政権を評します。

 

一方でこの番組の解説委員としてフリージャナリストの五十嵐文彦氏も出演していますが、金子氏と同じく元民主党の議員でありながら金子氏と経済認識やアベノミクス評価がまったく真逆でまったく主張が噛み合いません。私は金子さんと同じ経済観を共有している立場であり、五十嵐氏の認識は全く受け入れられないものです。五十嵐氏は元左派系議員でありながら財務省の役人らの説明を鵜呑みにし、財政規律の話ばかりしたり、金融緩和政策無効論や弊害論まで唱えます。

 

自分が五十嵐氏の発言で最も違和感を覚えたのは動画の30分目あたりです。金子洋一さんが経済学者の飯田泰之さんが作成された就労者に支払われた賃金の総額と消費者物価のグラフを見せながら、アベノミクスがはじまってから就労者に分配された賃金総額が物価に追いついてきて差が狭まっていたことを説明したのですが、これに五十嵐氏が「アベノミクスで年率2%の物価上昇を見込んでいるが、これに賃金が追いつかない」などと言って反論しています。これは五十嵐氏に限ったことではないですが、左派系の論客はとにかく(生活必需品を中心とした)物価が上がってしまうことを極端に恐れ嫌がるのです。野口悠紀雄氏などもそうした主張を好みます。

 

あとここ最近ですが数理経済学者の故・宇沢弘文氏がかつて主張していた「社会共通資本」が引き合いに出したネット記事を散見します。これもまた食糧品や電気・ガス・水道・医療といった生活必需財の価格上昇を抑え込めば低所得者層の生活が楽になるはずだという発想で引用されています。

 

コロナ後を拓く思想。宇沢弘文と中村哲から継承すべきもの<佐々木実氏

 

 
 

ポストコロナの世界で私ちがた目指すべき社会の姿とは?<田中信一郎氏

 

 

一見しますと物価上昇を抑えた方が庶民の家計にやさしいのではないかと思いがちですが、この発想は消費者側の視点でしかなく、そのモノやサービスを生産するために働く人の立場を考えていないものです。多くの生活者は消費者であると共に勤労者でもあります。金子さんが五十嵐氏に対し「デフレで物価が1%下落する間に賃金が2%落ちて低所得者の生活は苦しくなる」と反論しますがもっともな話です。低所得者層は富裕層のように豊富な金融資産を持ち合わせているわけではないので、勤労によって賃金を得るという方法でしか所得獲得手段がありません。ここで私の方で補足しますと、リフレーション政策で物価目標を2%に設定していると言っても物価を上げること自体が目的ではありません。これは企業にもっと研究開発や設備投資、そして多くの人を雇用するというかたちで積極投資を促すのが目的です。物価を上げるといってもそれは多くの勤労者に賃金という形で所得分配が進んで、それに伴って消費意欲が伸びて最後に物価が上昇するというかたちです。(デマンドプル・インフレ) そういう意味で五十嵐氏の発言はトンチンカンなのです。トリクルダウンだとかカネを刷ってバラ撒くのが金融緩和だとかデタラメです。
 
雇用拡大や所得分配の増大を目指さず、とにかくインフレは悪、物価を上げるなとしか言わない経済観は極めて特異で世界的にみてもガラパゴス的なものだと思われますが、こうした経済観が生まれたのは第2次世界大戦後の急激なインフレと1970年代に二度も襲った石油ショックがトラウマになってしまったからだと思われます。宇沢弘文氏の社会共通資本が提唱されたのも1970年代で生活必需財が高騰した時期です。宇沢氏がインフレ抑制の話をするのは当然のことでしょう。
 
しかしながら1970年代とはまったく逆で長期デフレ不況が慢性化してしまった1990年代以降の日本に宇沢氏の提言をそのまま持ち込むのは無理筋もいいところです。いくら宇沢氏がミルトン・フリードマンと論戦し、ジョセフ・スティグリッツの師であったような経済学者であったとしてもです。いまは物価上昇が問題ではなく、勤労者の所得が不安定化し伸び悩んでいることの方がまずいのです。
 
よくよく考えればすぐに気がつくことですが、長期失業者や無業無職者は物価が低くてもお金そのものを持っていないので商品を買うことができません。1990年代以降の日本は雇用が不安定化し、そうした人たちの数が増えてきました。いつまでも終身雇用や完全雇用が当たり前だった高度成長期やバブル期の感覚が抜けていないのが日本の左派です。立憲民主党や国民民主党、社民党、共産党といった左派政党は自党の支援組織である企業の労働組合の主張に振り回されます。労組といっても実は会社から終身雇用で護られていた人たちの集まりです。しかも学校さえ卒業すれば誰でも就職できた高度経済成長期やバブル期に社会人となった中高年齢層の声が大きいです。彼らは失業の心配をすることなく、ずっと安定した所得を得られ続けている・いた人たちですので、「(景気が悪くても給料はそのままだから)物価が下がってくれた方が得だ」と思ってしまうのです。
 
あと日本の左派は反経済成長とか脱経済成長、脱工業化社会みたいなことを唱えています。こうした発想も「日本は世界の中で最も豊かな国なのだ」「日本は先進の工業国なのだ」という驕りや慢心から生まれたものです。1990年代以降のデフレ不況で日本の経済成長が停まっている間に、中国やアジア諸国がどんどん経済成長を遂げ、発展途上国から中進国へと浮上します。こうした国々は労働者の賃金や物価が上昇していきました。いままで日本はアジアや中南米などから安い農産物や資源を安く調達できていましたが、こうした国々が経済成長を遂げていくとそんなことができなくなっていきます。日本の産業力が衰退して他国にモノやサービスを売って稼ぐ力が失われてしまうと、それこそ円の価値が下がっていき、付加価値や人件費の増大で価格が上昇していく他国製品を恐ろしく高い値段で買わざるえない状況になるでしょう。円高やデフレ状態をいつまでも続けられるという期待や幻想に酔ったままではいけないのです。それは親が遺した莫大な資産を食い潰して、働かず放蕩生活を送っているに等しいことです。
 
まともな仕事にありつけず所得が著しく低い人たちが第一に求めることは就労機会であり、稼ぎが増えることです。安倍自民政権はリフレーション政策を導入してそうした人たちの要望に応えたので7年8カ月にも渡って続けられたのです。そのことが理解できないのが立憲民主党や社民党、共産党で、就職氷河期世代や低所得者層の支持や信頼を失ってしまいました。立憲民主党に至っては安倍政権や菅政権以上の緊縮シバキ主義で金融・財政極右路線です。立憲民主党や国民民主党、社民党、共産党はもはや革新と言えません。守旧政党です。もともと生活者寄りの政策を期待していた層は左派政党から自民党や維新の会支持に転向してしまっています。私自身もまた左派から中道保守派に転向しています。
 
本来まともな経済状況というのは民間企業同士が研鑽しあってより優れたモノやサービスを創造し、その付加価値に惹かれた消費者がそれを買い求めることでゆるやかな経済成長と物価上昇が進み、雇用拡大や賃金上昇もどんどん進んでいくという好循環が続くことです。デフレ不況はその逆で人々の所得がどんどん減っていって失業の不安も増大し、企業がいくら優れた付加価値の高いモノやサービスを産み出しても消費者がそれを買えなくなってしまいます。その結果企業の投資意欲がどんどん乏しくなり、雇用や所得分配がさらに悪化し消費も低迷し続けるという負の循環です。日本の左派政党は共貧社会へと導こうとしてきました。
 
日本の左派論客や左派政党関係者はいつまでも高度成長で終身雇用や完全雇用が当たり前だった時代の幻想に酔い続け、落ちぶれつつある日本の産業再生を促して雇用や所得分配拡大の計る経済政策を打ち出そうとしませんでした。金子洋一氏のように経済力強化を訴える人を排斥してしまうのが日本の左派政党の土壌です。旧民主党に属しておられた細野豪志さんや長島昭久さんは近年金融財政政策に対する知見を深めて来られていますが、立憲民主党や国民民主党に見切りをつけてしまい自民党あるいはその会派に移られてしまいました。現在立憲民主党の議員である馬淵澄夫氏を除いて、現職の国会議員でまともな金融財政政策観を持ち合わせているのは自民党と維新の会、渡辺喜美氏など保守系議員に固まっています。
 
物価を抑え続ければいいのだという発想から卒業して国民の稼ぎを増やす経済戦略を打ち出していかないと、結果的に日本国民はどんどん貧しくなっていき、ひどい場合は日本人が海外へ出稼ぎにいかないといけないとか、日本で生産されたものが海外から安く買い叩かれてどんどん流出し、国内がモノ不足状態になってしまうといった末路を辿るようなことになってもおかしくありません。モノ不足で悪性インフレを招くという事態も想像できます。

 

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