先月末に安倍総理が辞任表明をしましたが、次の自民党総裁選挙に現在官房長官を務める菅義偉氏や岸田文雄氏、石破茂氏らが出馬しました。どうやら菅義偉氏が次期総裁になる可能性が最も濃厚なようです。菅氏は安倍総理と共に金融緩和政策についての理解が深い方ですので、菅氏が新総理となられることを強く望んでおります。

菅氏はかなりのアイデアマンで過去にはふるさと納税制度を導入したり、つい最近ですと水害対策のために、これまで治水に活用されていなかった電力用や農水用のダムも活用するという対策案を打ち出しました。これによって八ッ場ダム50個分の調整能力を確保できるとのことです。さらに歳入庁にもつながるのではないかと想像されるデジタル庁の創設案や不妊治療の保険適用案など、かなり大胆な政策案を打ち出してきました。それと自分がもうひとつ菅政権に期待しているのは令和時代のセーフティネットと社会保障制度ビックバンです。これは自分の妄想に過ぎないことでしたが、菅氏が総裁選の決意表明で「自助 共助 公助」という言葉を打ち出してきたのをみて「菅氏ならやるかも知れない」という期待を強めました。この辺の話は別の機会にしたいです。

 

安倍総理の辞任表明でいちばん心配したのは、2013年からはじまった異次元の金融緩和政策が途切れてしまうことでした。この政策は物価が上がらずアベノミクスは効果がなかっただの、実質賃金が上がらなかっただの的外れな批判ばかりされていますが、5年以上もの間企業の投資や事業拡大意欲を最大限に引き出し、その結果新卒学生や正規雇用を含めた雇用の拡大をもたらしました。

 参考「アベノミクスの総括とこれからの経済政策 ~リフレレジームの毀損とその回復~

 

 

2018年に雇用回復の動きが頭打ちになり、さらに2019年の消費税10%増税と今年2020年に起きた新型コロナウィルス感染拡大による経済活動抑制によってアベノミクスやリフレーション政策の効果が打ち消されてしまっておりますが、かといって金融緩和政策や積極的財政政策の手を緩めてしまうと、今以上に企業倒産や失業が多発していたことでしょう。

 

現在のコロナショックで多くの民間事業者が収益急減と固定費支払い負担に苦しめられ資金繰り悪化に追い込まれていますが、規模が大きい事業者ですと補助金や休業補償金などの財政出動による支援だけでは追いつかないでしょう。ですので低金利・無担保の融資という形での支援も必要であり、それは金融政策の対象となります。金融緩和政策は銀行が苦境に追い込まれている企業に対し貸し剥がしや貸し渋りをしないように量的金融緩和で準備預金をたっぷりと積み上げたり、金利上昇を抑制して企業の債務負担増加を防止する役目があります。その他に企業が保有する株式や不動産などの資産価格暴落でバランスシートを毀損させないようにするといったことで企業の経営破綻リスクを軽減します。

 

バランスシート不況

 

アメリカのFRBやEUのECBなど世界各国の中央銀行は躊躇いなく、国債や株式はもちろんのことジャンク債まで買い取ったり、大胆な量的金融緩和を断行しています。それはコロナ恐慌や金融危機発生を防止するためです。ですから今の時点で異次元金融緩和の解除などありえないのです。

 

菅氏以外の総裁選候補者である岸田文雄氏や石破茂氏、あと河野太郎氏ですが、いずれも金融政策への造詣が浅く、彼らが政権の座についたときはなし崩しで異次元緩和を潰してしまうことでしょう。コロナ危機が去ったとしても民間企業の再生や事業再活性化を阻み、何年間以上も景気低迷を続けることになりかねません。

 

リフレーション政策で非常に大事なのは予想と期待であるということをここで何度も説明してきました。その予想と期待とはデフレ脱却によって企業がしっかりと収益を得られるという予想や期待(実質金利=名目金利-予想物価上昇率)であったり、勤労者の所得が安定的に増え続けることだったりします。あるいはそうなるまで政府や中央銀行が金融緩和や積極財政の徹底的に続けるという予想や期待です。岩田規久男先生は「リフレはコミットメント」と仰っていましたが、私は「リフレは継続なり」だと思っています。アベノミクス以前の日銀はゼロ金利政策や量的金融緩和政策などかなり強い金融緩和政策を何度も実施してきていますが、日銀自身がそれを早仕舞したいという本音が見え透けており、マイナス成長を脱したか脱していないか微妙なタイミングで緩和解除を行ったり、増税などの緊縮財政をやらかしてデフレ不況再発を繰り返してきました。事業のためにお金を借りて投資する立場にしてみたら、政府や中央銀行の政策態度が見通せず、思い切って大きな事業を行うことを躊躇してしまいます。「デフレ脱却までは(実質)金利を上げない」という政策態度を明確に示すことで、企業に思い切った事業投資をさせることがリフレーション政策の狙いなのです。

 

ここで過去に金融緩和政策の副作用論などを唱え早期緩和解除をチラつかせてきたような人が次期総理となってしまうと、デフレ脱却まで金融緩和を続けるという予想や期待が完全に失われレジームが毀損します。安倍政権下では財政政策については次第に積極から緊縮に転じてきましたが、金融緩和政策についてはブレずに7年以上継続してきました。それは信用といっていいと思います。このことで企業が安心して大型事業や投資を5年間以上続けることができました。菅氏の総裁選出馬表明記者会見動画を視ましたが、金融政策についての質問をした記者の返答を聞くと「地方銀行の経営を圧迫する」などといった理不尽な批判を浴びようが、金融緩和政策は継続するという氏の強い意思を感じ取りました。「私はブレない」という言葉どおりで行かれると予想します。


先に述べたように中途半端な時点で金融緩和政策を解除して、再びデフレ不況を再発させることの繰り返しをやっていると、人々は政府や日銀の金融政策を信用しなくなり、金融政策や財政政策の効果を半減させることにつながります。1990年代に三重野康日銀総裁(当時)がバブル退治といって金利(公定歩合)を大幅に引き上げ、企業投資や銀行融資を凍り付かせましたが、再緩和してもなかなか元通りに融資や投資が伸びなくなってしまったという失敗を冒しています。アベノミクス以前の日銀は裏切りの連続でした。

 

政府や日銀の経済政策に対する信頼を取り戻すにはアベノミクスの7年数カ月という時間では足りません。私は最低10年以上しつこくリフレーション政策を継続しないと完全なデフレ不況脱出はできないと思っています。竹中平蔵氏も「ドイツのシュレーダー改革も10年以上かかっていますよ」と言っていました。世界でも類を見ない20年から30年という異常な低成長経済を脱するには10年以上の政策継続をするのは当然です。

 

リフレーション政策で大事なのは「私はブレない」という政策態度であります。

 

 

~お知らせ~

「新・暮らしの経済手帖」は国内外の経済情勢や政治の動きに関する論評を書いた「新・暮らしの経済」~時評編~も設置しています。

 画像をクリックすると時評編ブログが開きます。

 

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

 

人気ブログランキングへ

 

バーチャルアイドル・友坂えるの紹介です