日本を含めた多くの国々がコロナ対策のために巨額の財政出動やリスクの高い債券の買い取りを含めた大胆な金融緩和政策を実施しています。これまで私はこうした財政・金融政策についてコロナ後の社会を創るための一大投資であると見るべきだと主張してきました。政府は今回新たな国債を発行してコロナ対策のための財源を賄っています。このことについてやはりというか「将来世代に大きなツケを遺してはならない」などという発言をする政治家や経済学者・評論家、マスコミが出てきています。さすがに国債のことや”将来世代へのツケ”のことが気になってしまう人が多いかと思いますので、今回はその話をします。

 

 

よく「国の借金が」などと云われますが、ここで冷静になって考えていただきたいのは国が誰から借金をしているのかということです。もうひとつ頭に入れておくべきことは1000兆円の負債があるならば誰がか1000兆円分の資産を保有していることになります。債権者は誰なのかで話は大きく変わります。

 

今年2020年3月にレバノンが、5月にアルゼンチンが債権者に国債の利払いを行わず、9度目のデフォルト(債務不履行)を行ったのですが、この国の国債の買い手は海外の投資家です。そしてその国債は自国通貨建てではありません。ドル建てなどであったりします。こうした国がなぜ自国通貨で国債を発行できないかといえばもともとの国の産業や経済が弱く、国際競争力も高くありません。そうした国の通貨を持っていて何が手に入るでしょうか?アルゼンチンのペソ、レバノンのレバノン・ポンド、ベネズエラのボリバル・ソベラノ・・・・。その国で生産されたモノがほしいとか、その国へ旅行に行って買い物をしたいとかという理由がないのに、その国の通貨なんか持っていても仕方がありません。(イラクの通貨ディナールを「買えば必ず儲かります!」という投機詐欺があるみたいですが・・・・・。)そんな国の通貨をどんどん刷って殖やしても、それを持っていたいという人がいませんから通貨価値が下落し、ひどいインフレを起こすだけです。国内に資金がないから外国の資産家・投資家に国債を買ってもらうしかないのです。

 

日本の国債の買い手はどうなっているでしょうか? 財務省の「国債等の保有者別内訳」を確認してみましょう。

 

 

2019年末の時点ですと日本国債の買い手は日銀が半数弱を占めています。(46.8%)

よく国の借金は銀行や保険会社などの金融機関やら個人の預貯金、年金の積立金などから借りているのだと思われていますが、それらを全部合わせても半分強です。しかも日本の場合海外の比率が小さいのです。ここがアルゼンチンなどとの大きな違いです。ほとんどが自国通貨である円建てで、しかも債権者は国内であるわけです。「政府にとっては負債であるけれども、国民にとっては資産」という見方ができるわけです。同時に言ってしまうと国債の半分が政府の子会社である日銀が買っているということは子会社が親会社の債券を買っているも同然です。政府+日銀=統合政府的に見たら、政府の負債の半分は相殺されます。日本の国家財政が危機的な状況からほど遠いことは「財務官僚が煽る国家財政危機の嘘 その1 バランスシートから」でも説明してあります。

 

政府が発行した国債を民間の銀行や保険会社などが買って、さらにそれを日銀が買い集めるという操作を量的金融緩和政策で行ってきました。この操作で増えたお金という負債の手形は日銀内に設けた民間銀行用の当座預金口座にダムの水のごとく積まれています。こうした準備預金のことをマネタリーベース、ベースマネーといいます。

 

 

 

増やされたベースマネーが一気に市中に流れ込むのではなく、事業拡大や投資意欲が強まった民間企業や個人などが積極的にお金を遣い始め、それによって銀行が融資というかたちで市中に流します。ですので世の中のお金が急に増えて、突然ひどいインフレを起こすといったことはなく、もし仮にそれが起きたとしても金利を上げればすぐにインフレや過剰投資を鎮静化させることができます。

 

とにかく今の時点では

政府が国債を発行して財政出動をする→国債を銀行や保険会社など金融機関が買う→日銀がお金を発行して国債を買い取る→そのお金を銀行への準備預金として積み上げて量的金融緩和政策を行う(継続的な金利引き下げ)

という流れになっており、インフレや金利上昇といった経済混乱を引き起こしてはいません。

 

日銀が国債などを大量に買い取ってお金を殖やすことでバランスシートが膨張します。これについて「異常だ」と思う人たちが多く、早い時期に金融政策の正常化を計ってバランスシートを縮小しないととんでもないことになる~と心配している人たちがいますが、別に何年以上も中央銀行のバランスシートが膨張したままでも大きな問題はありません。アメリカの中央銀行FRBはサブプライムローン金融危機のときに国債などの債券買取りをどんどん進めて、膨大なベースマネーの積み上げを行っています。金融危機が収束し景気回復が進んでバーナンキ議長時代の末期に金融(信用)緩和政策の出口戦略がはじまりましたが、いきなりベースマネーを縮小するようなことはしませんでした。今回のコロナ危機ではパウエル議長が再び量的緩和を再開しています。

 

ここで再確認しておくべきことは金融緩和政策における出口戦略とはあくまで景気の異常加熱や物価急騰を防ぐことであり、そのために金利を引き上げていくことです。拡大した中央銀行のバランスシートを縮小させていくというのはそのための手段のひとつでしかありませんし、別にバランスシートがそのまま膨張したままでも構わないのです。

 

参考 野口旭「ケーザイを読み解く」 異次元緩和からの「出口」をどう想定すべきか

 

 

 

いろいろややこしい話をしましたが、とにかく政府が発行し日銀が買い受けた国債はあわてて誰かに返済しなければならないものではなく、別にそのまま長期に渡って塩漬けにしておいても構わないのです。やや不謹慎な例え話ですが中央銀行を原子力発電所で発生した核廃棄物を深い地中に埋め立て保管するオンカロみたいにすればいいことです。

 

先に述べたようにアルゼンチンなどの国債は外債で、買い手に多くの金利を支払わないといけません。先日のアルゼンチンのデフォルトも金利負担が重すぎるから支払えないと債権者に駄々をこねたようなものでした。日本の国債ですと金利負担がいまものすごく小さく、マイナス金利でむしろ借り得ですらある状態です。あるいは身内の日銀が買い取っているために金利負担を考えなくてもいい状態です。つまり日本の国債は債務性が著しく低いか無いに等しいのです。

 

コロナショックや東日本大震災のように滅多に起きないような災厄の対策費については国債で財源を賄って、その償還を何十年以上にも渡ってゆっくりやっていけばいいことです。大岡越前の「五貫裁き」と同じ要領です。そうすれば国民にかかる債務負担や租税負担を何十年間以上にもかけて分散できます。

 

もうひとつコロナ危機における対策費の財源を長期国債にしておいた方がいいのは償還負担の分散だけではありません。長期国債を日銀が買受してやることで長期金利を低く抑え、その結果企業に長期ビジョンで大型投資や事業拡大を促すことができます。下の図は2016年6月に導入されたYCC(イールドカーブコントロール)の説明で使ったものですが、長期金利を低く下げる(フラット化)ために長期国債ならびに債券の買受を日銀が進めていくことになります。

 

 

 

 

 

先の野口旭さんが予想する異次元緩和政策の出口戦略もYCCで長期金利を操作しスティーブ化(長期金利を立ち上げる)することではじまるのではないかというものです。

 

今回の話は今回コロナ対策のために発行した国債はすぐに慌てて償還しないといけないものではなく、そのためにコロナ増税やら他の歳出削減をやるというのは愚の骨頂であるということです。次も負債とは何かについて話していきます。

 

~お知らせ~

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」